WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【単行本班】2007年11月の課題図書>『悦楽の園』 木地 雅映子 (著)
評価:
?……不思議な読後感だった。
普段は読み進めているうちに「○×の評価」や「個人的に好きか嫌いか」の輪郭がだんだんと現れてくるのだが、同著は最後まで(いや、評を書いている今ですら)そういった判断ができないまま読み終えてしまった。いやはや、困った。
ストーリーはいたってシンプルだ。複雑な家庭環境にある少女が(←この設定、多いよなぁ……)、不良少年と不思議系少年との間で乙女ゴコロをゆらゆらさせる。その過程で児童虐待やアダルトチルドレンなど現代の問題を垣間見せる。
魅力的なキャラたちが素敵な言葉を発してはくれるのだが、個人的には作品の「核」になるものが見いだせないままフワリと着地してしまった感があって、それで冒頭の「?」になってしまったのかなと。
評価:
中学校までホントすごい退屈だった、あるいはしんどかった、という人にはおすすめ。かくいう私も中学校まで辛かったです。いじめとか学校の規則に、というよりも生徒同士の関係に疲れました。「出る杭は打たれる」という言葉があるように、少しでも目立つようなマネをしたり逆に暗かったりなんぞするとすぐに「仲間」の輪から弾かれてしまう。大人の世界よりもずっと標準というか子ども間の基準が厳しくてそれに則って学校生活を送らなければいけなかったのです。
本書の主人公真琴はある少年に出会うことによって、こうした基準、本文の言葉で言うなら「普通の子」というものに疑問を感じ始めます。最初、この少年と真琴の恋愛小説かと思っていましたが、ところがどっこい「普通の子」を大人だけでなく子どもも求める学校という閉塞した環境に対する闘いの小説でもあります。
「自分」を探したかったら闘ってくださいね。身近な癒しに逃げてはいかんのですよ。
評価:
未読の方に何よりもまず最初に一点。この本、タイトルと装丁から受ける印象ほど、ムズカシイ小説ではないっすよー。四百ページ強の長編小説だけれど、ラノベ的(と言えなくもない)な文章のため、そんなに重たくない、というかむしろ読み心地は軽いっすー。
で、内容。こういう「特別」を良いものとし、「普通」を良くないものとする考え方は、「普通」を目指し「普通」であろうとし続ける学生時代を送った私なんかからすると、心が痛いすなあ。俺が本気で追い求めていた「普通」を、そんなに軽んじないでおくれよ、みたいな。確かに「普通がいい」という価値観により才能をつぶされちゃう人はおるかもしらんけど、「特別」偏重、個性礼賛、とかやっとったら、今以上に不幸になるであろう「普通」の人もぎょうさんおるんやで、みたいな。
……とか細部に触れてしまったけれど、とにかく気合いの入った作品ではありました。この作家は熱狂的ファンがいそうだなー。
評価:
傑作。読むべし。
以上終わり、としてもいいくらい。でなければ「シャイニング」の主人公のように上の1行を400字分書き連ねるか。それほど素晴らしいと思ったし、衝撃を受けた1冊だった。
完璧な作品、というわけではないと思う。主人公真琴が心惹かれる少年は規格外の個性の持ち主で周囲の人間を翻弄するが、しかし実は美貌に恵まれてもいる。結局はハンサムなのかよ、という若干の落胆。あと「悦楽の園」という小池真理子作品のような題名もハードルを上げている。おそらく表紙のヒエロニムス・ボスという画家の絵からとったのだろうが、ちょっと官能的過ぎないか。
しかし、そういった点はどれも少しもこの作品のよさを損なってはいない。私はきっとすぐにこの小説を再読することはないだろう。ひんぱんに読み返すには気恥ずかしすぎる。しかし何年か後に、そして長めのインターバルを置きながら何度も手に取るに違いない。きっと死ぬまで心に残る本となるだろう。
評価:
13歳の少女が主人公の「冒険小説」。
学校という戦場を、悩み考え進んでいく少女が愛おしくなります。少女の相棒の男の子が純粋でキュートで、二人のやりとりには心がほかほかします。少女が、ひとりで歩む過程には、様々な問題がでてくるのですが、少女の逞しさにはほれぼれしちゃいます。綺麗な時間というのは、人間の心持ち次第でつくりだせるのだなぁと感じます。
そして、少女を育てるおばさまたちが、クールです。
WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【単行本班】2007年11月の課題図書>『悦楽の園』 木地 雅映子 (著)