『世界の涯まで犬たちと』

世界の涯まで犬たちと
  • アーサー・ブラッドフォード(著)
  • 角川書店
  • 税込 1,890円
  • 2007年9月
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  1. 有頂天家族
  2. あなたの呼吸が止まるまで
  3. ハッピーエンドにさよならを
  4. 悦楽の園
  5. 犬身
  6. 世界の涯まで犬たちと
  7. ダイアルAを回せ
佐々木克雄

評価:星3つ

 現代アメリカの短編小説って、面白いんだなあ。
 かの国の、一見平凡そうな若者が語るストーリーは実はズレていて(異形の犬とか、犬を孕ますとか)、そのズレまくった世界にノペーっと浸ってしまった。結構ハマりそう。
 中でも「ビル・マクウィル」と「ドッグズ」の二作が個人的には印象的だった。寓話性の高い作品でありながら何を意味するわけでもなく、乾いた雰囲気が妙に気になった。  
 各作品を読みながら、何故か懐かしい気持ちになったのだが、思い出した。これって、村上春樹を読みあさっていた学生時代の感覚に近いかも、と。
 とまあ偉そうなコトを言ったものの、若者の語り口調による活字を追いかけて、浮かび上がった映像は「ディラン」に扮した「なだぎ武」だったりするワケで……。
 本読みとしては、まだまだ修行が足りないなあ。

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下久保玉美

評価:星3つ

 「訳者あとがき」がかなり面白くて、本編を読む助けになりました。アメリカ文学において短編小説の隆盛は社会や政治といった大きな物語を描くということから、作者の「私」というものの確立へと至るために描かれる小さな物語への移行と密接に関わっているという点が非常に興味深いです。
 本編の主人公たちもまた、社会であるとか世界であるとか大きな周辺に関心を払う様子はなく、小さな周辺、本当に自分とか家とかの周囲程度の物事にしか関心を払っていません。こうしたことって「狭い世界」と非難を浴びそうなものですが、きっと主人公たちは気にもかけず逆に「広い世界って何?意味あるの?」と問うてくるのではないでしょうか。
 まあ、難しいことはさておき。一種のファンタジーだと思って読むと楽しめると思いますよ。奇人・変人・犬・ハーフ…と風変わりな現代のおとぎ話です。

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増住雄大

評価:星3つ

「ちょっと珍しい」レベルから「現実には起こりえない」レベルまでの「へんてこ」がたくさん出てくる短篇集。それらが淡々と書かれているから「あれ? 変な感じだけど、こういうことも、もしかしたらあるかもねえ」なんて思えてしまった。
 作品の中で登場人物たちは「へんてこ」に出会う、もしくは「へんてこ」の当事者となる(先天的な場合もあるし、物語の最中でそうなる場合もある)。そこで読者は様々なドラマを期待するわけだけれど、ほとんどの場合、特に何も起こらないで終わる。あっさりと。物足りない気がしなくもないけど、正しい気もする。だって、自分だって、もしそんな「へんてこ」に出会ったり「へんてこ」が起こったりしたら、その後はなるべく現状維持を望もうとするだろうから。更なる変化を求めて、もっと悪くなったりしたら、最悪だ。
 読んだ後に思い返すと、似たような話が多かった気もする。けれど、読んでいて飽きなかった。文章の力かな? あと、どう考えても、この著者は犬が好きですね。間違いない。

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松井ゆかり

評価:星3つ

 「犬身」に続いてすぐこの本を読んだのだが、この短編集でも多くの作品に犬が登場する。そのうちのいくつかにはシュールな趣もある。最後に掲載されている「ロズリンの犬」では「犬身」同様、主人公が犬の姿に変身してしまう(主人公が望んだ結果ではないが)。そしてここでも変身し始めこそとまどいはあったものの、「犬になる=超うれしい」という図式となっている。何か共時性のようなものを感じないでもない。
 犬以外にも巨大ナメクジやら光るカエルやら一般的にはかわいいとはみなされない動物たちも登場する。もちろん犬は特別なのだろうが、ナメクジやカエルたちにも温かい視線が注がれており、著者の動物好きなところは読者にも伝わってくる。人の幸せや愛情の形というものはほんとうに人それぞれなのだなと思い知らされる1冊であった。

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望月香子

評価:星5つ

 犬が登場する14の短編集。
障害がある犬や人の登場の多さに、最初は驚きました。
 自分の周りが世界の全て、といった姿勢は、「社会性に欠けている」とか「視野が狭すぎる」という感想を持っていました。この物語の登場人物は、自らと周りの人々との世界で生きていくのだ、という静かな意志がある人々のように感じました。目の前のことを淡々と受け入れている登場人物に、次第に好意を持つようになっていきました。
 「障害」という言葉は、大多数の人々と違う状態であることから生まれた言葉であるならば、この物語を読むと、それに違和感を感じます。  
 自分を自分として生きていく。それだけだ。というメッセージを感じます。

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