『ハッピーエンドにさよならを』

ハッピーエンドにさよならを
  • 歌野 晶午 (著)
  • 角川書店
  • 税込1,575円
  • 2007年9月
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  1. 有頂天家族
  2. あなたの呼吸が止まるまで
  3. ハッピーエンドにさよならを
  4. 悦楽の園
  5. 犬身
  6. 世界の涯まで犬たちと
  7. ダイアルAを回せ
佐々木克雄

評価:星2つ

 うわあぁぁ……救いがねえぇぇ……、しかもすべての短編において。
 本を閉じた読み手が、上記のように呻いたとすれば、作り手は「しめしめ」とほくそ笑んでいるのだな。悔しいけれど、読み進めるほどに凹んでいくぜ、ギャランドゥ。
 どこにでもありそうな物語の設定ながら、途方もなく破滅的なストーリーが散りばめられており、そうなるとミステリーにありがちな非現実感も吹っ飛んでしまう。個人的にはストーカーに対峙する「殺人休暇」、ホームレスが主人公の「尊厳、死」の二編が「わぁ、やられた……」って感じ。オチが途中で見えちゃう作品や、章ごとに視点がコロコロ変わって読みにくい作品もあったりしたが、総じてメインタイトルに象徴される非ハッピーエンドは完成されているので○かなと。
 それにしてもスゴイのは装丁。側面まで真っ黒なんて、松崎しげるもビックリ。

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下久保玉美

評価:星4つ

 タイトルが本当に素晴らしいと思います。
 短編小説集ってその中の1編がタイトルになることが多いですが、本書はそうではなくて全体のモチーフをタイトルにしています。そう、タイトル通りハッピーエンドは1つもなくて、救いもあんまりないですね。しかし、救いのない代わりに仕掛けがあります。読んでいるとその仕掛けに見事に引っかかってしまうんです。「あ〜」とか「ヤラレタ!」とか思いながら読めてしまうんです。冒頭の「おねえちゃん」からすでに(おでこをベシッと叩きながら)「ヤラレタ!」です。この「おねえちゃん」を含め「サクラチル」や「尊厳、死」は面白くておすすめ。
 1つお願いです。うっかり最後のページから開いて読まないでくださいね。面白さが半減してしまいますので! あ、これって『葉桜の季節に君を想うということ』の帯にも書いてあったようななかったような…。

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増住雄大

評価:星3つ

 ミステリを読む楽しみは色々とあるが、私は以下の二つを重視する。
 (1)読んでいる最中のハラハラドキドキ
 (2)オチでのビックリ
 本書は、その二つを見事に兼ね備えた、十一篇からなる短篇ミステリ集である。
 (1)に関しては、タイトル、帯のコピー、装丁が効いている。それら作品を読む前に触れるものが、この作品集に収められた短篇小説がどれもハッピーエンドで終わらないことを、読者の頭にあらかじめ植え付けるのだ。この前情報のせいで、何でもない場面でも「1行先で不幸な展開になるかも」とハラハラドキドキしてしまう。
 (2)に関しては、さすがミステリ四冠の著者。私もいちおうオチを予想しながら読むのだけれど、結果はハズレばかり。毎回毎回「そう来るか!」の連続であり、騙されるのが心地よかった。
 最後に怖いモノが苦手な方に一報。本の中身は、タイトルや真っ黒い装丁から想起されるほど陰惨でドロドロしたものではなく、割とさらっとしていますので、尻込みしないでぜひどうぞ。

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松井ゆかり

評価:星4つ

 歌野晶午のすごいところは、後味の悪ーい小説を書いてもどこか憎めないなあと思わせるところだ。同じような鬱系のミステリーを書く作家も多いが、例えば貫井徳郎などは著者の生真面目さによって深刻さがループしてしまう気がする(嫌いじゃないが)。しかし、ウタショーは「うわ、やな感じ。でも(笑)」という感触。本人は真摯にミステリーを書き続けておられると思うし、インタビューなどを読んでも実に謙虚な人柄が偲ばれるのだが、いい意味で軽みのある作家なのだ。
 この本は著者の本領発揮とも言うべきいやな余韻を残す話のみを集めた短編集である。歌野さんには同じく短編集で「正月十一日、鏡殺し」という衝撃の問題作(とりわけ表題作は目を瞠らんばかりの後味の悪さ)があるが、こちらも相当のもの。「尊厳、死」の評判が高いようだが、私は「防疫」「In the lap of the mother」などの親子ものによるダメージが大きかった。それでも新刊が出たら読んでしまうんだよなあ。私にとって「嫌よ嫌よも好きのうち」という言葉はウタショーとセットである。

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望月香子

評価:星4つ

 どうして、こんなことになってしまうの! と読みながら「あ〜」と身もだえしてしまうようなアンチハッピーなストーリー。人生の歯車が外れる瞬間というのはあるのだな、と怖くなります。読み終わった後にもう一度読み返し、「ここでこうしなかったら、よかったのに…」と勝手に振り返って、物語の登場人物に伝えたいような気分にさえなってしまいました。11の短編集ですが、かなり感情移入をしてしまいます。
 どうにもならないような悲惨な事実を、救いが物語を展開するのではなく、事実のみがただただ黒く横たわっているような短編集に、なんだかどんより…。と思っていましたが、予想外の真実にはっとさせられ続け、のめり込むように読み進めてしまう面白さは、さすがです。

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