WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【単行本班】2008年4月 >望月香子の書評
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どうにも魅力的すぎる夜の女が、産み落とした我が子を、自分の目にかなった男に託す。その子は、やがて「親」だけを信じ、そのために人を殺し続ける男、武美として生きてゆく。
さまざまな人の視点から語られる武美。ヤクザの世界に生きる美しい目をした武美が、「親」だけのために生きてゆく様に、格好良さと歯痒さと哀しさを感じます。絶対的な存在を信仰し、生きてゆく武美と、神を崇拝し生きてゆく人との「罪」の違いに、世界で起きている争いを重ねてみてしまいます。
人を殺し続けながらも、その美しい目を相手に印象付ける武美に、淡い恋心さえも抱くほどです。続編が出ることを願っています!
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「読後感」について、ここまで考えさせられたことはないような気がします。
編集者の田中聡と幼馴染のライターゆう、人気小説家小川満里花とその飼い犬のイエケの3人と1匹(4人と表現してもいいくらいですが)の関係が、鎖に繋がれたように物語は進んでゆきます。その鎖は揺れるとジャッジャと重く音を立てるように、静かだけれど熱い感情を孕んでいるようです。
登場人物、特にライターのゆうのせりふには考えさせられる哲学的要素が満載。それらの会話は編集者とライターという設定だからか違和感がそうないけれど、表現の難しさとは…と感じさせる部分がありました。
この人間関係の絡まりだけで物語は終わらずに、東京でのSARSの発生へと物語は進行してゆくのですが、このあたりから、一体この本はどこへ?! と妙な気になり方でページをめくってゆきました。胸に何かを置いていかれたような読後感に困っています。
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公園で出会った耳の不自由な女性と恋におちたテレビ局に勤める俊平。
耳が聞こえない響子と聞こえる俊平では、視界が違うかのような出来事も。しかし、耳が聞こえる同士が付き合っても、お互いの視点が全く違うこともあり、自分は感じているのに、相手は何も感じていないことってある…。
世界情勢についての番組を制作する俊平たち、響子と俊平の付き合いを通して、自分が見えているもの、知っていることだけが全てだという人間の頭を、こんっと小突かれた気分になりました。
俊平と響子のメモのやり取りでの会話が、短い分だけ濃く、夕暮れの気配がします。
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戦中、戦後の時代を生きた5人の女の物語。
父親よりも年上の男の妾になった女、置屋に売られた姉妹など、自由な恋愛を許されない立場の女たちの、短く束の間の、焦がれるような濃い時間が切なすぎます。波乱に満ちたその生涯に、白く浮かぶ恋。ただ恋しているからこそ、官能的で哀しい…。
それぞれの物語に、花の名前がついています。蕾が開き、開花し、散ってゆくことをイメージさせ、それがこの女たちの人生と官能を思わせます。湿り気と鮮やかさのある文体、素晴らしいです。
評価:
この本はどんなジャンルになるのかな? SF? ミステリ? 奇抜で自由な空間が、23の物語から成っています。
西部劇好きな宇宙人が襲来したり、「重力はない」と言い証明する男がいたり…。なかでも「血とショウガパン」はちょっとすごいです。残酷版グリム童話ですが、ここであのヘンゼルとグレーテルが登場するとは!
面白い、という言葉に収まらない、小説界のブラックホールにご案内の勢いです。
評価:
ニューヨークを舞台に、野心と欲望と愛がうねる都会小説。
書きかけの本に悩んでいるセレブリティなマリーナ、ディレクターのダニエール、ライターのジュリアスなど、主な登場人物6人が、貪欲に人生を生きてゆきます。皆が動き、喋り、切望するさまに、惹きこまれてゆくと…。
ある人物がニューヨークへやってきてから、物語は一気にドラマティックに。雑誌を創刊させたり、仕事で成功していても、家庭にはいりたいと願ったり、どうにかして自分の人生を納得のいくものにするため行動してゆく姿に、「成功」を願う、都会小説の醍醐味が味わえます。
評価:
まず映画を思い浮かべる人が多いと思いますし、ホリー役を演じたオードリーが表紙の「ティファニーで朝食を」を読んだことのある人が大多数だと思います。が、恥ずかしながらわたしは、観たことも読んだこともなく、これがティファニーデビューでした。
16歳にも30歳にも見える、不思議な魅力を持つホリーと、小説家の「僕」との絶妙な距離感と、ホリーと「僕」のやりとりに夢中になりました。日々を水浴びのように生き、自由であろうとするホリーと、ちょっと屈折した繊細な「僕」との会話に見え隠れする孤独や切なさが、ひしひしと読み手に向かってきます。
訳者の村上春樹さんの言うように、原典に忠実に、もう一度映画化してほしいです。ホリー役は、沢尻エリカさんはどうでしょうか…?
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