『ニューヨーク・チルドレン』

ニューヨーク・チルドレン
  • クレア・メスード(著)
  • 早川書房
  • 税込 2,625円
  • 2008年3月
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  1. 羊の目
  2. ドリーミング・オブ・ホーム&マザー
  3. 静かな爆弾
  4. 白蝶花
  5. 蒸気駆動の少年
  6. ニューヨーク・チルドレン
  7. ティファニーで朝食を
佐々木克雄

評価:星3つ

 フムフム、現代のニューヨークってば、こんな人たちがこんなドラマを繰り広げているのだなと、カタカナ固有名詞たちと格闘しながら読み進める。(余談ですが、TV情報誌の「新ドラマ特集」にある登場人物相関図みたいなのを付けてくれませんでしょうか? それがあるとこのテの作品はもっとファンが増えると思うのですけど……)
 ぶっちゃけ、入り乱れる愛憎劇に「バブル期のトレンディドラマみたいじゃん」と穿っておりました。いい風に変換すると、作風は盛田隆二のリアリズム、男どもの奔放な下半身は渡辺淳一センセのいわゆるアレ系……でも、終盤で待っていたのは「9.11」。
 後世、歴史書に名を刻むことになるこの事件を、もうフィクションとして小説にするようになったのだなと。ラストにおける彼・彼女たちのモノローグを読んでいると、すべてがここに帰結するための前振りに過ぎなかったのだなと──ふう、と溜息をついた次第。

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下久保玉美

評価:星2つ

 ニューヨークを舞台に何らかの形でジャーナリズムに関わっている三人の男女とジャーナリズムの権威、そしてジャーナリズム界に革命を起こそうと意気込む野心家たちが織りなす人間模様とある日起きる大破局を描いています。この大破局がすごい。ここでこれかい!と感動すら覚えました。負け麻雀で卓をひっくり返すようなものです。やられた方、登場人物だけでなく読者はたまったもんじゃありませんねえ。
 原題は『Emperor's Children』で『王様の子どもたち』。アンデルセンの『裸の王様』で王様が裸であることを暴くのは子どもであったという意味みたいです、あとがきによりますと。王様が子どもに裸にされたように、登場人物たちもどんどん裸にされ正体を暴かれていきます。一枚ずつ一枚ずつ剥いていくわけですがその剥き方がとにかく執拗。玉ねぎを一枚一枚剥いているのかってくらいに丹念に剥いていきます。これが深い人間観察というものなのでしょうか、大いに勉強になります。なんて登場人物たちは自意識過剰なんだろうとイライラしましたけど自意識過剰で当然ですね。だって剥く皮が多いほど剥き甲斐があるというもの。
 でも、玉ねぎって剥いていくと何にもなくなっちゃいますよね。

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増住雄大

評価:星3つ

 昨日、会社の同期に「同期の中で一番、出世したそう」と言われました。「出世しそう」ではなく「出世したそう」。そして、更に。「出世しそう」ではない、とのこと。がーん、それってハタから見ると、かなりイタい人ってことじゃないですかあ……
 本書に出てくる登場人物はみんな貪欲。あーしたい、こーなりたいと大きな理想を抱えている、んですがね。うむ。上を目指すのは素晴らしいことだけれども、口ばっかりで現実から程遠かったり、明らかに身の程以上のことを望んだりしていたら、イタイタしく見えますよ、と。
 うわあ、こいつイタいなあ……って登場人物たちに対して、上目線に立って笑うだけじゃなく「あれ? 自分も……」なんて思えたらしめたもの。今から直せばいいのですよ。そして明日から、脱! イタい子! というわけです。
 ちなみにワタクシ、今月から新社会人。早くも一部同期の間についてしまったイタい子イメージは早々と払拭したいところです。 ……出世欲は人並だと思うんだけどなあ。

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松井ゆかり

評価:星3つ

 陳腐な感想ではあるが、この本を読んで人間の悩みというのはなんと多岐にわたるものかと驚かされた。親が子を案じるという身近なものから、著名な作家でセレブな家庭の娘ならではの(一般人にはまったくピンとこない)苦悩まで、悩みの見本市のようだ。
 この小説がブッカー賞候補にあがったと知って意外な気がしたが(ガチガチの英国小説のための賞だと思っていたので)、終盤近くの展開をみて納得がいったような気がした。なるほど、9.11はアメリカ的な題材ではあるが、「え、このままで終わり!?」と作者を突き放すような結末に、シニカルさというか傍観者的な目線を感じた。
 本書で最も印象に残ったのが親子関係の難しさである。ここで描かれている親子たちの年代にもうしばらくしたら突入していく身にとっては暗澹たる思いがしてくる。釘を刺してくれているのが著者の親切心なのだろうか。まだちょっと夢をみていたいが。

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望月香子

評価:星3つ

 ニューヨークを舞台に、野心と欲望と愛がうねる都会小説。
書きかけの本に悩んでいるセレブリティなマリーナ、ディレクターのダニエール、ライターのジュリアスなど、主な登場人物6人が、貪欲に人生を生きてゆきます。皆が動き、喋り、切望するさまに、惹きこまれてゆくと…。
 ある人物がニューヨークへやってきてから、物語は一気にドラマティックに。雑誌を創刊させたり、仕事で成功していても、家庭にはいりたいと願ったり、どうにかして自分の人生を納得のいくものにするため行動してゆく姿に、「成功」を願う、都会小説の醍醐味が味わえます。

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