『白蝶花』

白蝶花
  • 宮木 あや子 (著)
  • 新潮社
  • 税込1,470円
  • 2008年2月
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  1. 羊の目
  2. ドリーミング・オブ・ホーム&マザー
  3. 静かな爆弾
  4. 白蝶花
  5. 蒸気駆動の少年
  6. ニューヨーク・チルドレン
  7. ティファニーで朝食を
佐々木克雄

評価:星3つ

 前作『雨の塔』を新刊採点(1月)で辛口評価したのだが、どーもすみません。本作、とても情感が溢れていて、いい小説だと思います。かなりの底力を秘めているのですね。豊島ミホといい、宮木あや子といい、侮れませんぜ「R-18文学賞」は。
 短編&中編からなる構成、話がすべて繋がっていると中盤くらいで分かったとき、ああこれは昭和の戦火を生き抜いてきた女たちの、艶やかで、瑞々しく、芯のある物語なのだなと。特に中編「乙女椿」における主人公、千恵子の生き様は現代では想像し得ない世界が繰り広げられており、彼女が繋ぐ過去と現在との線が浮き上がってくる。
 所謂「女の性(さが)」を、登場する多くの女性を通じて感じることができる。これって活字だから却ってリアルに感じることがある。映像も勿論イイけれど、小説だからこそ表現しうるものがあることを、この作者は知っていると思う。次作を早く読みたい。

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下久保玉美

評価:星3つ

 戦前から戦後にかけて懸命に生きる女性たちを描いた連作短編集。驚くほど濃度の高い小説です。凝縮している、というよりも物語の要素の持つ濃度がとにかく高いという意味で。
 戦前から戦後というこの先何が起こるかわからない混沌の時代からして濃い。東海テレビ製作の昼ドラの舞台に最も多く使われているだろうという時代です。濃くないはずがない。それにその時代に生きる女性たちもまた濃い。
 第一話はヤクザの親分に身請けされた芸者がその親分の部下と一歩間違えれば死に直結する密会を重ね、第二話では親の借金のカタに金満家に売られ、モノ同然の扱いを受ける少女とその金満家の息子との恋が燃えあがり、第三話では東北から福岡に奉公に出た少女が明日戦場へ旅立つ青年と一夜の契りを結び、子どもを授かるが親に反対され家を飛び出し流浪し、第四話ではその高いプライドから恋心を伝えることもできずにいたお嬢様がその後現れた家格に劣る男性と愛を育む。
 濃いですね。それぞれが情念の濃くまた官能にあふれた愛を持っています。全体としてトロトロとしているのでうっかりすると足がはまってしまうこともあるのでは。以前『雨の塔』が課題小説で出ましたけどそれよりも遥かに濃密。作者はこうした小説の方が面白いのだと思いますよ。

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増住雄大

評価:星3つ

 匂うね。ぷんぷん匂うね。
 1月に読んだ『雨の塔』もそうだったけど、宮木あや子の文章はもう匂う匂う。濃いね。むんむんだね。『雨の塔』と違うところは、匂いの濃淡がはっきりしたところかな。あっちはどちらかというと始終匂いっぱなしなのに対して、こっちはあんまり匂わないところともっともっと匂うところがあるような感じね。なんかね。どろりどろりとしているよ。この本は。
 宮木あや子に対して、私の持っている印象を一言で表すと「何かが限定された環境・閉じられた空間を舞台に、抑えようとしても抑えきれない『愛』を描く人」だね。たとえるなら黒い色をした蜂蜜、かな。意味がわかんないね。でも、大体そんな感じ。
 あ、そういうのって好きかもなー、と思う人は絶対、楽しめますね。ぬぷぬぷと、作品世界にのめり込んでいけますね。しあわせな読書体験ができるんじゃないかと思いますね。
 ね、ばっかりだね、この文章。別に宮木あや子が、こういう文章を書くわけじゃないのに、どうしてだろうね。

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松井ゆかり

評価:星4つ

 私は長く祖母と同居していたこともあって、他の同世代と比べたら戦争というものに関心を向けている方だというつもりでいたのだが、最近それが“知識として知っている”レベルの域を出ないことを痛感するようになった。例えばかつての私は、戦地に赴く男子が未婚の女子と関係を持つことについて、美談というもので虚飾されたエゴイズムに過ぎないと断定していた。もし子どもができたらどうするのか。男子についてだけではない。女子の方にしても一時の激情にかられて「この人の子どもを生みたい」という方向にあっさり行ってしまうようだがもっと冷静になるべきだろう、と冷ややかに思っていた気がする。
 しかし、本書を読んで少し考えが変わった。死と隣り合わせに生きるということは、平和な時代の人間にはほんとうには理解できないことなのだと。自分たちの命が国の未来にすり替えられる世界に生きるつらさは実感できないことなのだと。
 この本に収められたどの作品の女性たちも、強く、自分勝手なところもありながら、潔い。

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望月香子

評価:星4つ

 戦中、戦後の時代を生きた5人の女の物語。
父親よりも年上の男の妾になった女、置屋に売られた姉妹など、自由な恋愛を許されない立場の女たちの、短く束の間の、焦がれるような濃い時間が切なすぎます。波乱に満ちたその生涯に、白く浮かぶ恋。ただ恋しているからこそ、官能的で哀しい…。
 それぞれの物語に、花の名前がついています。蕾が開き、開花し、散ってゆくことをイメージさせ、それがこの女たちの人生と官能を思わせます。湿り気と鮮やかさのある文体、素晴らしいです。

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