WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【単行本班】2008年4月 >『蒸気駆動の少年』 ジョン・スラデック(著)
評価:
正直に言います。何が書かれてあるのか、ほとんど解りませんでした。
クラスや職場に一人はいるでしょう、「コイツ、何を考えてんだかサッパリ解らねえ」って奴、そんな感じです。でも、作品をけなしているつもりはありません。不可思議な世界に魅了されているという意識はあるものの、本当に解らないんです。巻末解説に「誰が読んでも楽しめるエンターテイメント作品中心のセレクションを心がけた」とあり、じゃあここに載ってない作品ときたら……と益々コンフュージョンです。恐るべし、スラデック。
好きな人にはたまらない世界観なのでしょう。奇想、SF、ミステリとてんこ盛りの短編集なのですが、自分に素養がない為、どれを読んでも入ってくるものがなく、繰り返し読んだのですが、それでも解らないものは解らないようでして……。
スミマセン。決して嫌いではないのですが、こんなコメントしかできなくて。
評価:
あらゆるジャンルの短編がなんと二十三作も入っているので何かはイイ!と思うものがあるはず。読む楽しみだけでなく見つける楽しみもあるわけです。全部イイ!というのならそれもまた良しというもの。
私はミステリが好きななのでどうしても奇想モノよりもミステリ短編に目がいってしまいます。「見えざる手によって」「息を切らして」の二編はなじみやすく面白く感じました。トリックは古典的ですが探偵役のサッカレイ・フィンの素人ぶりの滑稽さとトリック解決の鮮やかさがいいです。あとは背筋がスーとするような小説群。「超越のサンドイッチ」や「小熊座」のラストや「高速道路」の永遠に続くかに思われる旅の行方。「血とショウガパン」はグリムの「ヘンゼルとグレーテル」を下敷きにしたものであるがよくなじんだおとぎ話ではなく、とても残酷でグロい。
現実のような顔をしながら、ふっと見せる非現実が読者の足元を危うくし、不安定な気分にさせます。
評価:
なんだこれ? よくわかんないけど、おもしれー。
人が「よくわかんないもの」を目にしたときの反応は二通り。受け入れるか、排除するか。自分が後者だと思う方には、本書は絶対に薦めない。
一言で言えば、カオス。ごった煮のような短編集。わかりやすく美味しいものから、一見しただけでは食べものかどうか判断がつかないものまで色々つまっている(わかりやすいもの、よりは、よくわかんないものの方が多いと思う)。言い換えるならば、あばれ馬のような短編集。「SF読み」の熟練度が低いわたくしは何度か振り落とされそうになったけれど、必死にしがみついてどうにか乗馬を楽しんだ(客観的に見ると、楽しめていたのかどうかは微妙)。
すごいのは、どんな話も同じ感覚で書いている気がするところ。普通、「ああいう話を書くのは得意(好き)だけど、こういう話を書くのは苦手(嫌い)なんだな」って、ちらっと見えたりするもんですが。特異な才能にとって「ジャンル分け」という単語は不要なんだなー、と思える本だった。
評価:
本の帯というものは得てして誇大広告であることが多いものだが、ジョン・スラデックに関しては“最強の作家”というキャッチコピーは誠にふさわしい称号だ。この芸風の幅を見よ!しかし、これらの著作の魅力を理解した読者もえらいと思う。
私自身はSF者というよりミステリー者なので、やはり謎や密室などが出てくる「見えざる手によって」やその名もずばり「密室」などの作品群にぞくぞくさせられた。同じ思考回路からSFとミステリー(それ以外も)が一緒に出てくるのがすごい。乱暴な分類とは思うが、読んでいてところどころで清水義範氏を思い出した。最後に収録された「不安検出書(B式)」などまさにパスティーシュ。
このシリーズではいろいろな短編集を読んだが、ここまでバラエティに富んだものには初めて出会った。きっと著者本人も相当おもしろい人だったのだろうと思う。
評価:
この本はどんなジャンルになるのかな? SF? ミステリ? 奇抜で自由な空間が、23の物語から成っています。
西部劇好きな宇宙人が襲来したり、「重力はない」と言い証明する男がいたり…。なかでも「血とショウガパン」はちょっとすごいです。残酷版グリム童話ですが、ここであのヘンゼルとグレーテルが登場するとは!
面白い、という言葉に収まらない、小説界のブラックホールにご案内の勢いです。
WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【単行本班】2008年4月 >『蒸気駆動の少年』 ジョン・スラデック(著)