『デカルトの密室』

  • デカルトの密室
  • 瀬名秀明 (著)
  • 新潮文庫
  • 税込820円
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評価:星3つ

 ロボットが登場する話は数限りなく書かれてきました。ほほえましかったり、恐ろしかったり、教訓を与えてくれたり。未来の夢物語は、おぼろげでも、希望がいっぱいでもいいけれど、共存の現実味を帯びてくるほど不安もまたある。そこに着目したのが瀬名秀明というのがいい。
 さて、ヒト型ロボットのケンイチとロボット工学者の祐輔、進化心理学者の玲奈は、参加した人工知能コンテストで事件に巻き込まれる。人間とロボットとの境界とは何か、人間らしさとは何かを問いかけてくる。
 はっきりいって、ある程度の知識がないとこの本を読むのはつらい。デカルトの「方法序説」、ちゃんと読んだことある人はどれほどいるだろう。飛び交う会話は、右から左と抜けていった。だから、奥山友美のような存在が、ついていけない読者の手を引いてくれるのはありがたかった。
 読みこなすには難しすぎるという印象がある。でも、ケンイチたちのゆるぎない結びつきが暖かな気持ちにしてくれた。

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『どちらでもいい』

  • どちらでもいい
  • アゴタ・クリストフ (著)
  • ハヤカワepi文庫
  • 税込714円
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評価:星3つ

 著者のアゴタ・クリストフは「悪童日記」「ふたりの証拠」「第三の嘘」の三部作で有名だそうだ。書評を確認してみると、どなたも三冊への評価は非常に高いので、すばらしい作品だということが想像できる。そんな彼女の短編をまとめたこの本は、沈黙を続けている著者への、読者からの期待の現われなのかと思う。
 しかし、アゴタ・クリストフを未体験者にとっては、少々物足りないと思ってしまう作品集でもある。「斧」や「郵便受け」「北部行きの列車」「間違い電話」など、簡潔な文体で、不条理な印象を受けるおもしろい作品もあれば、意味がわかりにくい期待はずれの作品もある。どうやら、これら収録のテクストたちは、「スイス国立図書館内・スイス文学古文書室にて保管されていた」A・クリストフ関連の古文書から見つけ出された秀作も含まれているようだ。作品としての不揃いさはそういう理由にある。
 全体に絶望や孤独がちりばめてあって、読んでいると救いのないように感じる。けれど、装飾のない的確な言葉で語られる文章は、シャープですがすがしい。

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『ちなつのハワイ』

  • ちなつのハワイ
  • 大島真寿美 (著)
  • ピュアフル文庫
  • 税込546円
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評価:星3つ

 旅先でケンカしてはいけません。でも、ケンカの勢いでハワイに行くのはいいかも。ちなつの家族は不穏な空気のまま、ハワイに家族旅行に来てしまう。両親はケンカ、兄は受験で機嫌が悪い。そんな家族に挟まれるとちなつまで、心底楽しむことはできそうにない。あーあどうしようか、というところに、日本で待ってるはずのおばあちゃんがあらわれるのだ。ちょっと不思議な家族再生の話。もともと、児童文学として書かれたそうですが、大人が読むにも十分耐えられます。
 旅をする意義ってなんでしょう。普段がんばっている自分へのご褒美だったり、旅先での出会いだったり。でも、なによりは、心身ともにゆっくりすることでしょう。生活で凝り固まった、こころや関係を解きほぐしてあげること。だから、そこでケンカをしちゃだめなんです。
 じゃあ、なぜケンカの勢いでハワイに行くのはなぜいいのか?それは、ハワイという場所が仲直りするのに適している……みたいだから。つまらないことを水に流せるとてもいいところのようです。

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『凍える海 極寒を24ヶ月間生き抜いた男たち』

  • 凍える海 極寒を24ヶ月間生き抜いた男たち
  • ヴァレリアン・アルバーノフ (著)
  • ヴィレッジブックス
  • 税込714円
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評価:星4つ

 冒険譚やサバイバル記のおもしろさというのは、自然の中での困難を乗り越えて「生き残った」という記憶を、居ながらにして追体験できるところだ。だから、過酷であればあるほどおもしろかったりする。
 いまから96年前の1912年、北東航路横断を目指したロシアの聖アンナ号の乗組員たちは、出航から2ヶ月でカラ海の氷に閉じ込められてしまう。航海士アルバーノフと同士たちは、北極からの脱出のため悲壮な決意で船を離れた。けれど、脱出の旅は想像を絶する運命が待ち受けていた。
 どんなにつらくても、助かる見込みがあればやっていけるだろう。けれど、足下は動き続ける氷河で、正しい地図もなし、計器もなし。その上、食料もどんどん減っていくという、いったい何重苦なんだ。アルバーノフが強い意志を維持し続けられているのが本当に不思議で、困難に立ち向かう姿は本当にすばらしかった。手に汗握って彼らの動向を見守りました。とにかく、間違っても、寒いところと海の上では遭難したくないと思いました。

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『DRAGONBUSTER 01』

  • DRAGONBUSTER 01
  • 秋山瑞人 (著)
  • 電撃文庫
  • 税込578円
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評価:星2つ

 時は卯王朝、皇女の月華(ベルカ)はおてんば娘、だいたい、第18皇女ということで、それほど注目されていない。でも、怒ると地団駄踏みながらぐるぐる回る癖で宮廷内では有名だ。
 ある日、月華は屋敷を抜け出した先で双剣を持つ涼孤(ジャンゴ)と出会う。彼に魅せられた月華は、早速剣を習い始め、涼孤に対決を求めて追いかけまわすことになる。
 伝説の剣、過去の凄惨な戦いと殺戮の乙女。これからどうなるのかと、おもしろくなってきたところで「つづく」となる。「01」ですから。そういう悔しさと期待を込めての★2つ。
 月華の秘めたる才能(がありそうなとこ)と、涼孤や珠会(シュア)、連空(デクー)がやがて仲間になって何かをするのだろうなと思わせるところ、中国風のファンタジーぽい雰囲気で、小野不由美の「十二国記」を彷彿とさせるし、アニメやゲームの冒険物語みたい。オモローな条件は十分そろってるようです。

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『昭和電車少年』

  • 昭和電車少年
  • 実相寺昭雄 (著)
  • ちくま文庫
  • 税込924円
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評価:星3つ

 最近、鉄道が熱いですね。これは思い込みかもしれませんが、埼玉の鉄道博物館のオープンや、書籍やTVなど、世の中に鉄道ファンがたくさんいることを実感させられます。電車たちに親しみを感じない私でも、熱く語られるのを見れば最後、わくわくさせられました。
 さて、この本は特撮で有名な実相寺氏が語る鉄道の世界です。非常にマニアックなので、ちんぷんかんぷんですが、彼の郷愁と結びついた電車の思い出話としても読めます。本当に好きなんだなぁとやさしい気持ちになってきます。
 写真があれば助かったのですが、ネットがあるじゃないかと、気になった車両をいろいろと調べながら読んでみました。不思議なもので、写真を見ることで身近になった気分になり、そうなれば、興味や愛着がわいてくるような。ちなみに、京王電車で活躍したというパノラミック・ウインドウーの運転台を持つ5000系、地元の伊予鉄にて走っているそうです。調べれば調べるほど、魅力的な世界のようです。

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『子どもたちは夜と遊ぶ(上・下)』

  • 子どもたちは夜と遊ぶ(上・下)
  • 辻村深月 (著)
  • 講談社文庫
  • 税込770円
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評価:星5つ

 登場人物たちは、完全には大人になりきれないところにいる子どもたち。そして、何らかの傷を負った子どもたちがあふれています。痛々しく重い内容も、上下巻の分厚さももろともせず、一気読み。それは、特に前半で力を入れている人物の肉付けのおかげでしょう。過剰に派手なギャル姿の月子、秀才で人もいい狐塚、クールで天才肌の浅葱、遊び人の恭司、それぞれが魅力的で、個性的でみんな好きにさせてくれます。
 日常の中で空回りする恋心。きっかけはささいな勘違いなのに、やがて病魔のように静かに進行して悲劇になる。誰もが孤独なのに、自分だけだと思い込んでしまう悲しさ。せつなくて泣くしかありません。一方通行の想いを残虐な殺人ゲームと絡めて深刻にして、辻村深月という作家はほんとに残酷なことをする。
 でも、これは魂をゆさぶる話です。誰にでも、倒れても立ちあがれる強さがあると信じたいと思います。大好きな彼らに幸せが訪れるように。すばらしい作家のすばらしい作品に出会えましたと思いました。たくさんの人に読んでもらいたい本です。

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勝手に目利き

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『秘密の京都』 入江敦彦/新潮文庫

 大好きな京都の本。入江氏は、「京都人だけが知っている」や「怖いこわい京都教えます」など、京都についてのたくさんの著書がある。観光客が目を血走らせてたくさんの寺社仏閣を拝観しても、京料理と名のつくイメージに価値を見出したものを食べつくしても、本当の京都は知りえない。それは、歩くことでしかわからないようだ。
 「京は歩くべき都市」という、著者。スタートは京都の始まりだという船岡山。桓武天皇は平安建都にあたり、この丘からまっすぐ南に朱雀大路をつくらせた。そして、著者の地元である。
 印象的なことばがある。「京都人は京都にくわしい。しかし、範囲は自分が散歩する範囲(ご近所)に限られる」というものだ。だから、著者は京都歩きのすべを教えてくれる。ゴールは京都駅。濃密で、レアなガイドブックだ。読むだけで充分満足してしまう濃さだが、そこはそれ、体験してみないと味わえないものもある。路地に入り込んだら思わぬ発見ができる。恥ずかしいくらい、“よそさん”丸出しだが、京都にはそんな期待を裏切らない、それっぽさがあるのも事実だ。

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島村真理

島村真理(しまむら まり)

1973年生まれ34歳。主婦。徳島生まれで現在は愛媛県松山市在住。
本なら何でも読みます。特にミステリーとホラーが好き。
じっくりどっぷりと世界に浸りたいから、乱読から精読へと変化中。
好きな作家は京極夏彦、島田荘司、黒川博行、津原泰水、三津田信三など。
でも、コロコロかわります。最近のブームは、穂村弘。
ここ1年北方謙三の「水滸伝」にはまってます。本当にすばらしい。
よく利用するのは図書館、Amazon、明屋書店。
時間を忘れるくらい集中させてくれる作品と出会えるとうれしいです。

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