『ちなつのハワイ』

ちなつのハワイ
  1. デカルトの密室
  2. どちらでもいい
  3. ちなつのハワイ
  4. 凍える海 極寒を24ヶ月間生き抜いた男たち
  5. DRAGONBUSTER 01
  6. 昭和電車少年
  7. 子どもたちは夜と遊ぶ(上・下)
岩崎智子

評価:星5つ

大島さんの作品が扱っているのは、一貫して「家族の崩壊と再生」。そして再生のために、或いは傷を癒すために、ヒロインは旅をする。『香港の甘い豆腐』では、高校生になりたての彩美が父に会うため香港に旅立ち、『水の繭』では奔放な瑠璃が家出を繰り返す。本作のヒロイン、ちなつもやはり旅に出る。行き先はハワイ。でも彼女はまだ小学生で、一人で旅行はできない。家族と一緒だから、自分をじっくり見つめ直したりはしないが、代わりに家族を別の側面から見るようになる。手助けをするのは、菅沢にいるはずのおばあちゃん。日本にいるはずの人が海外にいて、しかもそれが、ちなつにしか見えないとくれば、その正体は、皆さんご想像の通り。でも、「な〜んだ、子供だましじゃない」と興ざめはしない。「海外でも仕事、仕事のお父さん」「家族の幸せにこだわるお母さん」という両親の年に近いため、自然と彼等の心情に寄り添えるからだろう。読み終わった後、あなたも、誰かに「マハロ(ありがとう)」と言いたくなるかもしれない。

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佐々木康彦

評価:星3つ

「みんな必死でがんば」らないと楽しく食事も出来ない状況って、とても哀しい感じがします。家族同士では気楽に過ごしたいものですが、気を使わないが故にそれが喧嘩の原因になったりもするのかも知れません。喧嘩ばかりの両親と高校受験を前に悩み多きお兄ちゃん。そんな状況を小学生のちなつは「普通の家族」ではないと感じているようですが、家族の歴史の中にはそういう時期もあるのだと思います。それは振り子のようなものではないでしょうか。悪い時期もあるけれど、振り子の糸が繋がっている限り、また反対側にも振れる時が来るのです。お兄ちゃんは勉強のできるキャラだからと決めつけるちなつに「おんなじキャラで、ずっと、ってのは、生きている人間には、どだい無理な話さ」と諭すおばあちゃんにはそれがわかっているからこそ、家族を心配してハワイまでやってきたんですね。
 根っからの悪人なんていないんですよ、何かしらの理由があることを家族だからこそわかってあげなくちゃいけないんだな、と本作を読んで感じました。

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島村真理

評価:星3つ

 旅先でケンカしてはいけません。でも、ケンカの勢いでハワイに行くのはいいかも。ちなつの家族は不穏な空気のまま、ハワイに家族旅行に来てしまう。両親はケンカ、兄は受験で機嫌が悪い。そんな家族に挟まれるとちなつまで、心底楽しむことはできそうにない。あーあどうしようか、というところに、日本で待ってるはずのおばあちゃんがあらわれるのだ。ちょっと不思議な家族再生の話。もともと、児童文学として書かれたそうですが、大人が読むにも十分耐えられます。
 旅をする意義ってなんでしょう。普段がんばっている自分へのご褒美だったり、旅先での出会いだったり。でも、なによりは、心身ともにゆっくりすることでしょう。生活で凝り固まった、こころや関係を解きほぐしてあげること。だから、そこでケンカをしちゃだめなんです。
 じゃあ、なぜケンカの勢いでハワイに行くのはなぜいいのか?それは、ハワイという場所が仲直りするのに適している……みたいだから。つまらないことを水に流せるとてもいいところのようです。

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福井雅子

評価:星3つ

 お互いのことを思っているのにいつのまにか心が通わなくなってしまった家族の「再生」を、小学5年生のちなつの目を通して描いた心あたたまる作品。大切な存在を失う経験を通したちなつの成長の物語という側面もあり、物語全体をハワイのあたたかくのんびりした空気が包み込んでいるため、読者は気持ちよく心癒される。
 ハワイ旅行とおばあちゃんの手助け(?)をきっかけにしてちなつの一家は家族の絆が再生されるのだが、この半分幽霊の「おばあちゃん」の存在によって物語はファンタジーの要素を持ち、さらに厚みのある作品になっている。高学年なら小学生にもおすすめできそうな、かわいらしい作品。

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余湖明日香

評価:星2つ

大島真寿美さんの作品は、意識して読んでいたわけではないのに、ふと気がつくと私の読書生活の傍にあった。
図書館でタイトルが気に入って借りた『チョコリエッタ』、古本屋のセールでなんとなく買ってしまった『ほどけるとける』、しょっちゅう通っていた本屋さんで毎月もらってくる「asta*」に連載していた『やがて目覚めない朝が来る』、そして今回、送られてきて手に取った『ちなつのハワイ』。
今回今まで読んだその作品を思い返してみて、その時の私が欲しているなにかを、無意識に満たそうとして手に取っていたのではないかと思えてきた。
それは大切にしたい自分のリズムだったり、家族との時間だったり、尊重したい他人との距離感だったり。そういったものを物語を通してそっと差し出してくるのだ。
実は、本編よりも、あとがきの方を興味深く読んでしまった。この『ちなつのハワイ』は一度お蔵入りになったものだが、不思議な出会いによって出版されることになったそうだ。大島さんは、物語が出て行くのにふさわしい場所・形・時期を選んで勝手に動いていくという経験を何度かされていると語っている。まさに、私と大島さんの本との出合いもそうなのでは?

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