WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【文庫本班】2008年7月 >『昭和電車少年』 実相寺昭雄 (著)
評価:
駅のホームで、一番端に陣取って、カメラを構えている人達を、たまに見かける。だが、やっぱり列車は止まっているのを眺めるより、乗っている方が楽しい。子供の頃にブームだったブルートレイン、今は殆どないディーゼルカー、『青い光の超特急〜時速250キロ〜』なんて、歌にもなった新幹線。そして、海外に行った時は、バスよりも飛行機よりも、一番手近な交通手段として重宝した列車。それほど生活に欠かせない存在なのに、語り尽くすほどの情熱も、知識も持っていない。そんな列車について、ウルトラマンシリーズで有名な、実相寺監督が綴ったのが本書である。「十八時間もかかる寝台列車の旅が好き」(p28)と語ったり、交通博物館への熱い思いを綴った文章を読んでいると、「人って好きなものの前では子供みたいに素直になるんだな」と思った。宇宙人がなぜか列車の中で会話している「宇宙の仇は、長崎で」なんて一篇は、「監督、遊んでるな」と微笑ましく思った。電車の形式の説明や、その頃の周りの様子なども描かれているので、鉄道ファンや、監督と同世代の人達にはとても懐かしいだろう。
評価:
著者の電車愛を感じる、非常に微笑ましい内容ではあるのですが、前半は関東地区の鉄道の話題が多く、ちょっとついていけないところもありました。逆に後半は西日本の話が多かったので、関東の人はついてこれない部分もあったのではないかと思います。
鉄道のことを知らないと読めない、というほどマニアックな本ではないのですが、「あのマンモス電気機関車EH10」とか「そんな横須賀線の車両は、もちろんモハ32である」って、「あの」とか「もちろん」とか言われても、そんなこと知りません。こういうところは笑いましたけどね。
そんな中、JR東日本の209系が「乗客のマナーに期待しない」コンセプトにつくられている、というような興味深い話もありました。座席を占領する人がないように、座席を強制的に数席づつ区切ったのです。残念なことですが、人の善意に期待して何かをする時代ではないようです。
私自身は鉄道に全く興味がないのですが、いろいろと勉強になる内容でした。
評価:
最近、鉄道が熱いですね。これは思い込みかもしれませんが、埼玉の鉄道博物館のオープンや、書籍やTVなど、世の中に鉄道ファンがたくさんいることを実感させられます。電車たちに親しみを感じない私でも、熱く語られるのを見れば最後、わくわくさせられました。
さて、この本は特撮で有名な実相寺氏が語る鉄道の世界です。非常にマニアックなので、ちんぷんかんぷんですが、彼の郷愁と結びついた電車の思い出話としても読めます。本当に好きなんだなぁとやさしい気持ちになってきます。
写真があれば助かったのですが、ネットがあるじゃないかと、気になった車両をいろいろと調べながら読んでみました。不思議なもので、写真を見ることで身近になった気分になり、そうなれば、興味や愛着がわいてくるような。ちなみに、京王電車で活躍したというパノラミック・ウインドウーの運転台を持つ5000系、地元の伊予鉄にて走っているそうです。調べれば調べるほど、魅力的な世界のようです。
評価:
鉄道オタクの大先輩が後輩たちに、今はなき古きよき電車たちと、電車のある風情あふれる風景を紹介したエッセイ集である。行間に鉄道に対する愛情がにじみ出ていることは言うまでもないが、著者自身が書いていて楽しくてしょうがないのだということが伝わってくる。子どもが自分の好きなもののことを話すときのように、ニコニコとうれしそうに書いたに違いない!と思えてくるような文章だ。私は特に鉄道に興味があるわけではないし、ここに描かれた時代を懐かしむほどの年齢でもないのだが、いつのまにか引き込まれて昭和の風景にノスタルジーを感じた。なくならないうちにもう一度寝台列車に乗りたいなと思ったりもした。淡々とした文章も、郷愁を誘う一因なのだろう。
興味のない人にはやや退屈かもしれないが、鉄道好きの方々には是非おすすめしたい本。
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