『どちらでもいい』

どちらでもいい
  1. デカルトの密室
  2. どちらでもいい
  3. ちなつのハワイ
  4. 凍える海 極寒を24ヶ月間生き抜いた男たち
  5. DRAGONBUSTER 01
  6. 昭和電車少年
  7. 子どもたちは夜と遊ぶ(上・下)
岩崎智子

評価:星2つ

短編が難しいのか、彼女の作品が難しいのか、読み終わった後で考え込んでしまった。もともと短編が嫌いではないので、たぶん、感情表現を書かない彼女の作風に戸惑ったのだろう。読み手がその空白部分を自分で想像できる、という楽しみ方もあるが、もう少し情報が欲しいと感じた。例えば、何人かの会話と独白で成り立っている表題作だが、喋っている人を特定する情報もなく、「ばらばらの会話がどうつながるの?」と悩んだ。だが、具体性を排除したために、「どこかの誰かに起きたこと」として切り離して読むのではなく、「自分にもあり得る事」として共感する人もいるだろう。また、息子が恋人を連れてきて、三人で暮らす事になる『母親』では、「女ふたりで食事をするとき(p128)」娘が「悲しげな、打ちひしがれたような目(同上)」をする、と書かれている。息子との間に問題があるのか、それとも母親との暮らしが嫌なのか。どっちだろう、と考え始めた途端に物語は終わってしまう。ここからいくらでも想像したい人にはたまらないし、「もうちょっと確信の持てる何かないの?」と思える人には不満が残る。かなり好き嫌いがはっきり分かれる作品。

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佐々木康彦

評価:星3つ

著者のように故郷を離れざるをえず、他国語で小説を書く状況は想像出来ませんが、そういったことが作風にも影響しているのか何とも暗い作品の多い短篇集でした。筋のあるものよりも著者の絶望や喪失感を表したような作品が多く、「私は思う」での「人生がこんなもの、つまり無同然のものでしかないなどということ」といった文章や表題作「どちらでもいい」なんかを読むと、「諦観」という言葉が頭に浮かびます。しかし、「斧」のようなショートショートらしい作品を読むと人生に絶望し切っているとも思えない。人生をこういうものだと受け入れて前向きに進もうとする意味での「諦観」を、収録作「復讐」での「一体いつになったらわれわれは、死んでいった仲間のために泣くことを、そして復讐することをやめるのか?」という文章に感じたのですが、やはり誤読でしょうか。

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島村真理

評価:星3つ

 著者のアゴタ・クリストフは「悪童日記」「ふたりの証拠」「第三の嘘」の三部作で有名だそうだ。書評を確認してみると、どなたも三冊への評価は非常に高いので、すばらしい作品だということが想像できる。そんな彼女の短編をまとめたこの本は、沈黙を続けている著者への、読者からの期待の現われなのかと思う。
 しかし、アゴタ・クリストフを未体験者にとっては、少々物足りないと思ってしまう作品集でもある。「斧」や「郵便受け」「北部行きの列車」「間違い電話」など、簡潔な文体で、不条理な印象を受けるおもしろい作品もあれば、意味がわかりにくい期待はずれの作品もある。どうやら、これら収録のテクストたちは、「スイス国立図書館内・スイス文学古文書室にて保管されていた」A・クリストフ関連の古文書から見つけ出された秀作も含まれているようだ。作品としての不揃いさはそういう理由にある。
 全体に絶望や孤独がちりばめてあって、読んでいると救いのないように感じる。けれど、装飾のない的確な言葉で語られる文章は、シャープですがすがしい。

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福井雅子

評価:星4つ

 短編集で、ひとつひとつの話はとても短い。言葉で切り取ってきた風景で、悲しみや寂しさなどを表現するような、詩集か写真集のような印象の本。抑制された淡々とした表現と、対象から距離を置くような冷めた目線が、モノクロ写真のような静けさを醸し出し、余計な装飾がない分だけずしんと心に響く。表現に芸術的なセンスすら感じさせる味わい深い本である。
 それにしても、このトーンの暗さはものすごい。表現されているものは、絶望、悲哀、寂寥感、死、落胆、喪失感……ネガティブなものばかりだ。全26編に明るい話はひとつもない。それはそれでひとつの表現なのだと思うが、落ち込み気味の人や癒しを求める人、心を元気にしたい人にはちょっとおすすめできない本だ。

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余湖明日香

評価:星3つ

な、なんなんだろう、これは?!アゴタ・クリストフを全く知らない私はこの不思議な短編たちに呆然。
ブラックユーモアよりも温度が低い。感傷的なようでいて感傷的ではない。詩?散文?エッセイ?ショートショート?故郷・家族・愛・人間・人生…そういったものに対する執着を吹き飛ばして、乾いた紙のページにひそやかに並べられた文章。特に気になったのが「間違い電話」や「ホームディナー」。読み終わった後にぞっとしてしまう。
戸惑いが大きく、まだページ半ばで私は「訳者あとがき」を盗み読んだ。ふむふむ、アゴタ作品の長編小説の元になっているもの・関連するものも多いのか。さて、帯で「奇跡のベストセラー」と称されている代表作『悪童日記』とはなんぞや。
ネットで調べてみて驚き。あの『MOTHER3』(ゲームボーイアドバンスのゲームです)は『悪童日記』の影響を受けていたんだ!『MOTHER』シリーズが大好きな私はそんな不純な動機から、すぐに『悪童日記』を購入。不勉強な私は『悪童日記』を読んで再挑戦しようと決意したのだった。

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