第十四回 女100年の政治と経済――男女平等、下から見るか?上から見るか?(後編) 対談ゲスト:佐藤千矢子さん
![]()
【対談ゲスト:佐藤千矢子さん(毎日新聞専門編集委員)】
女性がセクハラから身を守るには
平山 この連載の担当編集者が、男女雇用機会均等法施行の2年後の年に新入社員としてある会社に入社したら、先輩たちは一般職扱いで自分だけが総合職なので、お茶を汲んではいけないと言われたり、男性に交じって会議に出ることになって、女性のなかで気まずさを感じたりしたと言っていました。佐藤さんはそういう経験はあったのでしょうか。あと、「多少のセクハラはOK」という女性もいます。許容度が違うというか。それで勘違いする男性もいると思うのですが、女性がセクハラから身を守るのに何が一番大事なのかお聞きしたいです。
佐藤 新聞記者の場合はちょっと特殊で、記者に総合職、一般職という区別は基本的にありません。記者のほか、営業職とか広告とか販売など、部門別に採用が行われますが、処遇の差があるわけでもないので、新聞社の場合、女性の職種による軋轢はほぼないと思います。セクハラで言うと、他社の記者から聞いた話ですが、セクハラを利用して昇っていく記者を目撃してすごく衝撃を受けたと(笑)。
平山 !!(笑)
佐藤 そういう話はありましたね。ボディタッチを受け入れる。デスクから手を撫でられるとか......。
平山 社内でのセクハラですか!?
佐藤 社内で。一般的に言って、記者同士もあるんですよ。取材先ともあるし、記者同士もある、昔も今も。それは多分、どこの会社でもあると思う。あとはセクハラまではいかなくても時々あるのは、男性の有力政治家には若くてきれいな女性記者を担当につける。政治家によっては「自分の担当は女性記者にしてくれ」って会社の幹部に圧力をかけて要求する人もいると聞きます。食事に行って、手を触るぐらいはいいじゃないかと思っている政治家がいるのかもしれませんね。そういうのはずっとある。
平山 「上納文化」(注1)というやつですね。
佐藤 女性記者がすごいネタを取ってきたりするけど、会社は議員についている間だけネタを取ってきてくればいいと考えがちです。記者として育てようとしているわけでもなくて。
平山 それは女性記者本人もわかっているんでしょうか。
佐藤 わかっている。
平山 それはつらいですね。
佐藤 有名な事件で言うと2018年にあった財務省のセクハラ事件(注2)。当時事務次官だった福田淳一さんにセクハラを受けたとテレビ朝日の女性記者が『週刊新潮』に話を持ち込んだということがありましたね。福田氏は最後まで事実関係を認めなかったけれど、騒動になり職責を全うするのが困難になったという理由で辞任しました。バーに呼ばれて、セクハラ発言を繰り返しされたという。
平山 うわぁ(笑)。
佐藤 当時の財務大臣の麻生(太郎)さんが「はめられた可能性は否定できない」って言ったり......。
平山 言い訳の王道ですね、ハニートラップに引っかかったと言うのは。
佐藤 さらに「担当記者を男性に代えればいい」という趣旨の発言をしたと報道され、問題になりました。女性記者からすればネタを取りたくて行ったわけで、自分の体を売ってまでとか、セクハラを受け入れてまでネタを取ろうとは思ってはいなかったと思うのですが。
平山 そういえば伊藤詩織さん(注3)の場合もそうですよね、バーに呼び出されて。
佐藤 はい。多少のセクハラは許容して出世していこうっていう女性も中にはいるかもしれませんが、多くの場合はとにかく取材対象に肉薄したい一心で身の危険を感じながらも踏み込んでいく。そこに相手が付け込んでセクハラをする。それが周りから見ると「セクハラを許容してでもネタが取りたいんだね」というように見える。構図的にはそうなんじゃないかと。
平山 でも、それって女性だからそう言われるわけですよね。男性記者が肉薄しようとして飲み会について行ったとしても何も言われない。
佐藤 そうですよね。
女性の上司と部下の関係:産休・育休を人事異動の障壁にしないためには
平山 佐藤さんは政治部長になられて、部下にも女性がいらしたと思うんですけど、そういう面で何か苦労があったりされたのかなとお聞きしたくて。というのも、拙著『化け込み婦人記者奮闘記』にも書いたんですが、明治33年から大阪時事新報に25年勤めた大沢豊子という女性記者が、記者生活について振り返った記事があるんです。ずっとヒラではあったんですけど下に女性が入ってきた時に、女性だから女性を贔屓してると言われたくなくて、男女を平等に扱おうと思って接したと。はたしてそれは平等だったのかと反省しています。
要するにスタート地点が平等じゃないのに接し方を平等にしたら、結局は差別に加担していることになるんじゃないかと。あとは女性記者は浮ついているみたいな言われ方をしているけれども、会社の風紀が乱れていなければその人が浮ついて入って来たとしても直っていくものであって、それはやっぱり会社のせいじゃないのか、みたいなことを書いています。佐藤さんにそういう葛藤があったりしましたか?
佐藤 う~ん、平等に扱うかどうかで悩んだことはないですね。ただ、すごく悩んで今でも反省しているのが、年に一回の人事異動の時のことです。政治部に地方支局や他部から人材を引っぱってくるわけですけれど、本社の中で異動させる場合には、その記者の仕事ぶりも生活環境もある程度わかりますが、地方支局に新人記者として入って3、4年キャリアを積んで本社に上がって来る人の場合は情報がすごく少ないんです。
平山 はい。
佐藤 支局長とかデスクにどういう人か聞いたりしますが、女性記者の場合、異動後にすぐ結婚して子供ができて、1年ほど育休を取って、穴が空いてしまうこともあります。女性記者が増えるに従ってそういうことが起きるようになったんですね。そうなると「何やってるんだ。ちゃんと調査したのか」という目で見られたり、「なんで忙しい政治部とか社会部でそんな記者を採らなきゃいけないんだ」という視線を向けられる。最近はなくなってきましたが、昔はそういうことがありました。本当はおかしいんですけど。若い女性記者で、すごくできる人というので採りたいなと思っても「結婚・出産して部を出たいと言わないかな、どうかな」って思ってしまうことはありましたね。
平山 ちょうど二十七、八歳だと結婚、出産の多い年ごろですものね。
佐藤 そうなんですよ。でも本人に聞くわけにもいかないし。
平山 そうですよね。それはもうハラスメントになっちゃう。
佐藤 そう。そういう悩みはありました。自己嫌悪に陥ったんです、そういうことで採る採らないを考えたことに対して。あるマスコミの勉強会で他社の人にこの話をしたら「佐藤さん、まさに典型的な統計的差別だよ」と言われました。つまり、女性は何年かしたら休む(率が高い)というような統計に基づいて行われる差別。まあ、結局採ったので差別にはならないんですけれど。
平山 なるほど。でも情報が少ない時に何を頼りにしたらいいのか、ということもありますよね。
佐藤 そう。結局なにが正しい行動だったのかなって数年経ってから思います。その時は必死で、人数が少ない中で人を回していかないといけないから、なるべく穴を空けないことを優先課題にしましたが、多分正しい答えは「穴が空いてもいい」と。穴が空いてもできるように業務を整理しないといけない。
平山 そうですね、会社の責任です。
佐藤 少ない人数で回るように組織を作り変えることが正解だったんだろうなって今振り返ってみるとわかるけれど、渦中にいる時にはわからない。そういうことをすごく感じました。あとは、琉球新報の島洋子さん(注4)という、政治部長をなさって今、取締役になっている女性がいるんですけれど、島さんの話で有名なのが、セクハラの被害にあいそうになった女性記者に対して「自分の尊厳を犠牲にしてまで夜回りとか行かなくてもいい。やめなさい」って言ったことです。
1週間ぐらい前に島さんと会う機会があったので念のために確認したら「そう言ったよな、確かに言った言った」とおっしゃっていました。自分が部長の時はやっぱり出来なかったなぁって思いました。セクハラの心配をする場面はなかったけど、じゃあセクハラかネタを取ってくるかの二択を突きつけられた時に「夜回りを一切しなくてもいいから自分を大切にしなさい」と明確に指示ができたかは自信がない。担当を替えることがよくあるんですけど、これって記者をすごく傷つけるんですよ。その人が悪いわけじゃないのに取材対象から逃げることはいい解決策じゃない。「行かなくてもいい。取材しなくてもいい」というのが一番の正解なんだけれど、大事な取材相手だった場合にそれができるかな、私はできなかったかもしれないなとか、いろいろなことを考えます。
平山 女性上司ならではの悩みですよね。男性だったら悩まない。
佐藤 平気で担当を替えさせる、女性記者を守ることだと言ってね。守るけど、守りつつ傷つけているっていう感覚は多分、女性上司ならわかるけども男性上司だとわからないかもしれない。「こんなに気を使ってやっているじゃないか」としか思わないっていう。
平山 悩ましいですね。
女性の労働環境の改善
平山 女性にとって期待できる政策などはありますか? 昭和100年の年表を作った時に、例えば選択的夫婦別姓がかなり前から議論されていたと知って驚いたんです。
佐藤 ええ、ええ。
平山 年表には1989年に出てくるんですが、この頃(社会党の)土井たか子さんが出てきて「マドンナ旋風」が起こり、社会党の大躍進という空気も多分あったと思うんですけど、選択的夫婦別姓はこの頃から言われていて未だに実現していない。
佐藤 そうですね。政策でもあり、雇用慣行にも通じることですけど、非正規があまりにも女性に多い。この問題はどうにかしないといけない。たとえばM字カーブ(注4)(内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 令和4年版 2-4図 女性の年齢階級別労働力率[M字カーブ]の推移」参照)が解消されてきたけれどもL字カーブが残っているとよく言われます。つまり雇用者数がM字で20代、30代になると、女性の働く人が減るわけです。

平山 結婚とか出産で......。
佐藤 そう。それで子どもの手が離れるとまた増えるんです。これは、子育てをしながら働く人が増えてだいぶ解消されて台形に近くなってきたけれど、正規労働者だけで見るとL字なんですよね(内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 令和4年版 2-10図 女性の年齢階級別正規雇用比率[L字カーブ]」参照)。つまり正規は20代後半が一番多くて、あとは非正規で埋められています。正規で女性が働き続けることが出来ない。そうするといつまで経っても賃金格差が埋まりません。幹部にはなれない。非正規と正規の所得の格差もあるという二重の意味で賃金格差が埋まらないんです。積極的に非正規という働き方を選ぶ人はいいけれど、9時5時で働いて家庭生活もきちんとやって、会社でも評価されてキャリアアップしたいという人がそういう風に働けるようになってほしいと、とても思っています。

平山 確かにそうですね。
佐藤 なぜそうなっているかというと、一つは正社員になった人は終身雇用で最後まで守るけれど非正規はすぐに首を切る、という日本型の雇用慣行があります。そんなやり方でこの先もいいのかどうか。例えば、仕事の内容ごとに人材を採用するジョブ型雇用が見直されていますね。同じ仕事の人は同一労働同一賃金にすることで、一度リタイアした人がまたもう一度入ってきやすくなります。でも、ジョブ型になるということは労働移動が激しくなって、首を切られやすくなるかもしれないし、労働者にとっては厳しい世界かもしれない。そこをもう一回考え直さないといけないと思います。労働時間の規制緩和をやろうみたいな話もありますけど、もっと長時間働きましょうじゃなくて、みんなが公正な処遇で自己実現できて効率的に働けるようにするにはどういう働き方がいいのか、時間はかかるけども抜本的に見直すということが、私が求めていることです。
平山 なるほど。こうなってしまったのはなぜなんでしょう。
佐藤 安い労働力で世界市場を席巻する中国に対抗するためにコストカットしているからですね。2000年代以降の日本の経営がそういう形になっています。いかにコストを削減するか、人材育成、人にもあまりお金をかけないという。
平山 うーむ。それにしても女性を巡る労働の問題って100年経っても変わらないですね。
佐藤 変わらないですよ。
平山 ここ10年ぐらいは、#Me Too運動以降、日本でも告発のハードルが少しだけ下がったり、あとはジェンダー問題であるとか、LGBTQも含めて多様性への理解が少しは進む傾向にはあったりするのかな、という気はしていますが。これがどこまで拡大していくか、実現していくかは本当にこれからですね。
佐藤 以前よりも声を上げやすくはなったとはいえ、全然まだ声を上げられないですよね。微々たる変化だなという感じはします。だから、最初の話とはやや矛盾しますけども、やっぱり女性の議員が増えないと(笑)。それも大事なんですよね。
平山 そうですね。女性議員を増やすこととみんなの意識を高めることの両面ですよね。
佐藤 両面をやっていかないと。とりあえず数を増やせば多少は変わりますからね。
平山 次の100年は明るい100年になることを願いたいですね。
佐藤 そうですね。2025年のジェンダーギャップ指数が日本は世界118位でした。そのレポートに「世界の男女平等にはあと123年かかる」って書いてあります。
平山 今生きている人は全員死に絶えてますね(笑)。それを少しでも早めないといけないと感じました。貴重なお話、ありがとうございました。
注1 上納文化 マスコミ、芸能界などで用いられる俗称。権力や決定権を持つ上位者に対し、下位の立場の人が、評価・仕事・安全の見返りとして、過剰な忖度や私的な便宜を差し出すことが黙認されてきたとされる構造を批判的に表す俗語。2023年以降、放送・芸能業界におけるハラスメントや権力関係をめぐる内部証言・週刊誌報道が相次ぎ、それらを総称するラベルとしてSNSや論評で使われ、一般化した。
注2 財務省のセクハラ事件 2018年4月に福田淳一前財務事務次官によるテレビ朝日の女性記者に対するセクハラ報道が『週刊新潮』に出たことを発端とした騒動。当時財務大臣だった麻生太郎議員が「はめられた可能性は否定できない」などと二次加害にもなりかねない発言を連発し、後に撤回した。本人は18日に次官を辞任。23日には、内閣府男女共同参画局内の「女性に対する暴力に関する専門調査会」より「あってはならない人権侵害」と緊急声明が発表された。
注3 伊藤詩織さん 2015年、元TBS記者の山口敬之氏同意のよりマスコミへの就職を匂わせてバーに呼び出され、同意のない性的行為を受けたとして告発。刑事事件では不起訴となったが、民事訴訟では東京地裁・高裁が同意の不存在を認定し、損害賠償命令が確定した。伊藤さんは体験を記した著書『Black Box』を刊行し、ドキュメンタリー映画『Black Box Diaries』を制作。日本の#Me Too運動を象徴する出来事となった。
注4 琉球新報の島洋子さん 1967年沖縄県美里村(現沖縄市)生まれ。91年に琉球新報社に入社し、政経部、社会部、中部支社、経済部、政治部、東京支社報道部長などを歴任。政治部長、編集局長を務め、琉球新報社取締役。2011年に「平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞」を受賞。現在も沖縄の政治・社会問題を精力的に取材、発信している。
【対談ゲスト】佐藤千矢子(さとう・ちやこ)
1965年生まれ、愛知県出身。名古屋大学文学部卒業。1987年毎日新聞社に入社し、長野支局、政治部、大阪社会部、外信部を経て、2001年10月から3年半、ワシントン特派員。米国では、米同時多発テロ後のアフガニスタン紛争、イラク戦争、米大統領選を取材した。政治部副部長、編集委員を経て、2013年から論説委員として安全保障法制などを担当。2017年に全国紙で女性として初めて政治部長に就いた。その後、大阪本社編集局次長、論説副委員長、東京本社編集編成局総務を経て、現在、専門編集委員。著書に『オッサンの壁』(講談社現代新書)。
