第6回 「陰謀論者」と呼ばれる人に「あなたも洗脳から目覚めたほうがいい」と勧められました

 「世界の真実を知らずに死んでいくなんてかわいそう」と上から語る陰謀論者たち

「あんた、ジャーナリストのくせにそんなことも知らないの? もっとネットやSNSで情報収集をして勉強をしたほうがいいよ」

 そう言って女性は怪訝そうな表情で私を睨みました。彼女は安田さん(仮名)。都内の医療機関で働く50代の事務員で、新型コロナウイルスの危険性と、それに絡んだディープステート(アメリカを裏で操る闇の政府)の問題に警鐘を鳴らす活動をされているということでお話を聞かせていただいていたのですが、私があまりに「無知」なのでイラッとさせてしまったようです。

「いや、そういう話があるということは知っているんですが、それが事実なのかはわからないというだけで......あと私、ジャーナリストなんて大層なもんじゃなくて単なるライターで......」

「ライターだろうがなんだろうがちょっと取材をすれば、これが事実かどうかなんてすぐにわかるでしょ!」

 そう一喝された私は「取材不足で申し訳ありません」と頭を下げるしかありませんでした。「ホント、何も知らないのね」と呆れる安田さんが「事実」だと主張してるのは、新型コロナウイルスのワクチンが、実は人口抑制を目的とするための生物兵器だったということです。

202412月アメリカ政府が公式に、コロナウイルスが武漢で研究所から流出した可能性が高いと発表したのは知ってる? これはつまり、毒入りのワクチンを世界にバラまくために人口的につくられたウイルスだってことが証明されたんですよ」

 確かに、そういう発表はありましたが、それは政府の公式見解ではなく、米下院特別小委員会の報告書です。政府内の見解は分かれていて、米疾病予防管理センター(CDC)や米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)は動物を介して人間に感染した可能性が高いとみています。ただ、ここでそういう指摘をして、安田さんの話の腰を折りたくありません。私の目的はあくまで「陰謀論者」と呼ばれる人々が、何を思いながらこのような話を信じているのかということを明らかにすることだからです。

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 前回、マインドコントロールの専門家である立正大学・西田公昭教授に「洗脳と陰謀論」の関係性について話を聞いて興味を持った私はまず、コロナ禍の時に社会の注目を集めたワクチン接種に反対をする人々、つまり「ワクチン陰謀論者」と呼ばれている方たちに話を聞いてみることにしました。

 何人かにインタビューして気づいたのは、ひと口に「ワクチン陰謀論者」と言っても、、それぞれ信じている「説」はかなりバラエティに富んでいるということです。

 安田さんのように「生物兵器」だと断言をする人もいれば、我々の行動を監視・誘導をしている「マイクロチップ」が入っているのだと主張をする人もいました。また、ワクチンであることは間違いないが、健康被害を引き起こす欠陥があることをわかったうえで意図的にバラまかれたという人もいました。

「黒幕」に関しても千差万別です。ドナルド・トランプ米大統領が連呼するディープステートの仕業だという人もいれば、世界最大の秘密結社フリーメーソンの仕業だという人もいます。人類に成り代わるという形で静かに侵略をしているレプティリアン(トカゲ型宇宙人)の人類滅亡計画の一環だ、と驚くような主張をする人もいます。

 しかし、その一方で「さもありなん」という話をする人もいます。例えば、ワクチンで巨額の利益を得ている製薬メーカーが保健当局、WHO(世界保健機関)とグルになって、安全性に疑問を指摘されていたmRNAワクチンという新技術をなし崩し的に広めた。新型コロナウィルス感染爆発という「有事」のどさくさに紛れて、平時なら承認できない"危険なワクチン"で大儲けしたというのです。私はコロナ禍に多くの医療関係者を取材しましたが、これと似たような話を真顔で語る人にたくさん会いました。

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 このように「ワクチン陰謀論者」と呼ばれている人たちも、実際のところ考え方は多種多様であり、「こういう危ない考えの持ち主だ」などとひとくくりで語られるようなものではありません。

 ただ、何人かにお話を聞かせていただいているうちに「共通点」もあることがわかりました。それは、自分が気づいたことこそが「事実」だとかたく信じているがゆえ、それを否定する人々に対して「憐れみ」のような感情を抱いている人が多いということです。

 いや、もっとストレートに言ってしまいましょう。「陰謀論者」と呼ばれる人たちは、自分の考えに賛同できない人に対して、「世界の真実を知らずに死んでいくなんてかわいそう」という感じで「下」に見ているのです。

「ほとんどの日本人は洗脳されている」という世界観は共通

 先ほどの安田さんと話をしている時もそのような場面がいくつかありました。例えば、自身のことを「反ワク」や「陰謀論者」と呼ぶメディアやSNSの人に対してどう思うのか質問をしたところ、安田さんは笑って言いました。

「かわいそうですよね。自分たちが実験用のモルモットになっていることさえ知らないんですから。でも、羨ましいところもあります。できれば私も他の人みたいに何も知らないまま毎日を楽しく生きたかったですよ。でも、目覚めちゃったんでね」

 安田さんが「目覚めた」のはコロナ禍のことでした。自身がワクチン接種後に体調不良に陥ったことに加えて、自分の職場に「まだ未知の技術だから後でどういう健康被害が出るかわからない」と主張して接種拒否をしていた医療従事者がいたことでワクチン自体に疑問を抱いたのがきっかけです。それから厚生労働省のサイトやワクチン関連の書籍を読み漁りましたが、納得のいく答えは得られなかったそうです。

 そんな時、YouTubeで原口一博氏や、医師の内海聡氏などワクチンの危険性を訴える人たちの話を聞いて、目の前にかかっていた霧が一気に晴れるように「目覚めた」というのです。

「海外ではワクチンによる健康被害がたくさん報じられて追加接種を禁止している国が多いのに、日本だけが5回、6回と何度もワクチンを打ってがん患者や不審死を増やしていることを"おかしい"と感じないなんて、日本人って本当におめでたいよね。でも、洗脳されて何も知らないまま死んでいくんだから、それも幸せなのかもね」

 このような発言を聞いて、ちょっと驚きました。旧統一教会信者たちへの取材を続けて、周囲から「お前も洗脳されたのでは?」と白い目で見られている私からすれば、「洗脳」という言葉は、社会から批判される人々に用いられている印象ですが、「陰謀論者」と呼ばれる人たちはまったく逆です。真実に目覚めた人はほんの一握りであって、「世の中のほとんどの人は洗脳されている」と考えている人が非常に多いのです。

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 自分たちは目覚めているが、世の中には洗脳されたままの人がたくさんいる。だからこの気の毒な人たちを目覚めさせるためにも「真実」を広めなくてはいけない。そんな使命に燃えている人もいます。例えば、コロナワクチンは日本人を間引きして、国を弱体化させるためのバイオテロだと主張している40代の自営業男性は、取材中の私にこんなことを言ってきました。

「ネットであなたの書いている記事を読んだけど、本当のことが全然わかってない感じだね。ワクチンに限ったことじゃなく、いま日本人が裏でどんどん殺されて、国が乗っ取られているのわかっている? あなたも早く洗脳から目覚めて、そういう事実を伝えていくべきでしょ!」

 先ほども述べたように、「陰謀論者」と呼ばれる人たちの主張というのは多種多様で、人によって重視されているストーリーもバラバラです。しかし、不思議なことに「ほとんどの日本人は洗脳されている」という世界観は共通しています。

 なぜこのようなことになるのか。私なりに考えた結果、そのような世界観を持っている方が「自分たちが正しい」ということをより強く信じることができるからではないかと思っています。

 

 人を助けると信じられているワクチンが実は生物兵器だったーーなどという「真実」がネットやSNSが盛んに語られているのに、世の中では大騒ぎになっていない。それどころか、そういう話をしている人たちは「陰謀論者」などと不本意な扱いを受けている。

 

 なぜこんな理不尽なことがまかり通るのか、と考えた時にもっともスッキリするのは「世の中が間違っている」と解釈することです。つまり、この「世の中が間違っている」を誰でもわかるような形で表現したものが「みんな洗脳されている」ということなのではないでしょうか。

「陰謀論」と呼ばれるものと「メディア不信」は表裏一体

 このような考えに至った理由のひとつとして、「メディア不信」があります。「陰謀論者」と呼ばれる人たちと話をしていると、ほとんどの人が「マスコミは嘘ばかり」と考えていることに気づきました。

「マスゴミ」という言葉に象徴されるように、テレビや新聞というオールドメディアは特定の政治勢力を利するような偏った情報ばかりを流して日本人を「洗脳」してきた、と考えている人が非常に多い印象です。例えば、団体職員をしている60代の男性は取材していると、真剣な顔でこんな話をしてきました。

「私たちを陰謀論者とかいう前にUSAIDを取材してくださいよ。トランプ大統領が閉鎖してくれたおかげで、日本の左翼マスゴミに流れていたカネもストップしました。これで目覚める日本人も増えるんじゃないでしょうかね」

 一体なんのことやらという人のために説明すると、USAIDとはアメリカ国務省の傘下にある国際開発局、世界中で途上国などの海外援助を行う機関なのですが、先ごろトランプ大統領が歳出削減のため、全世界で1万人いる職員を1600人削減すると表明しました。

 それがなぜ日本のマスコミに関係しているのかというと、実はこのUSAIDが閉鎖されるのではないかという報道が世界をかけ巡った際、SNSで「日本のリベラル系メディアにもカネが流れているのでは」という情報が拡散されたからです。

 根拠とされているのは、「国境なき記者団」がUSAID2023年に6200人のジャーナリストのトレーニングとサポートに資金を提供したり、ウクライナのメディアを含む707の報道機関などを支援した、とSNSで発表したことです。

 ただ、これは基本的に「途上国や紛争地のメディアやジャーナリスト」を対象としたものです。日本のマスコミ各社もUSAIDから資金援助など受けていないと説明をしていますが、ネットやSNSでは「マスゴミの言うことなど信用できるか」と疑いの目を向けられているのです。

「最近、LGBTQとか左翼系のデモとかの報道がずいぶん減ったと思うんですよ。マスコミへのUSADI工作が終了したので、ディープステートが日本人にもどんなにひどいことをしてきたのか、真実が明らかになっていくと思います」

 そのように嬉しそうに語る60代男性を見て、私は「陰謀論」と呼ばれるものと「メディア不信」は表裏一体というほど、深い関係にあるのではないかと感じました。

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 陰謀論を信じているからマスコミを疑うようになるのか、それとも「マスコミなんて信用できない」と思うことで陰謀論にのめり込んでいくのか。

 そこでこの謎に迫るために、次回は世間から「陰謀論団体」と呼ばれている組織の皆さんにお話を聞いていきたいと思います。

【第6回 「陰謀論者」と呼ばれる人に「あなたも洗脳から目覚めたほうがいい」と勧められました (後編につづく)】