第7回 「陰謀論者」と呼ばれる人たちが「あそこはヤバい」と口を揃える団体にインタビューを申し込みました

 民事上の不法行為で「初」、旧統一教会への解散命令をどう考えるか

「陰謀論者」と呼ばれる皆さんにお話を伺ってからほどなくして、同じように社会から「洗脳されているのでは?」と白眼視されている人々の運命を大きく変える出来事がありました。

 325日、東京地方裁判所が、国の請求を認めて旧統一教会に対して「解散」を命じたのです。

 ご存知のように、世の大多数の人々は「当然」「遅すぎたくらいだ」とこの決定を支持しました。Yahoo!ニュースのコメント欄では「日本国民の大勝利」という感想に対して、たくさんの「共感した」が押されていたほどです。

 ただ、一部からは今回の判決には疑問の声も上がっています。今回の解散命令は高額献金や霊感商法という「民法上の不法行為」を根拠に宗教の解散を命じるという世界的にもかなり珍しい判決でした。しかも、「違法行為」とされた教団側が敗訴した裁判32件は平均すると32年前のもので、2000年代に入ってからものはわずか1件。しかも、示談や和解で解決したものも「被害」としてカウントされています。

 これが「判例」となったことで、宗教団体の解散はかなりハードルが下がりました。30年以上前というのは日本社会全体でコンプライアンス意識が低く、高額献金などのトラブルを抱える宗教団体が多くありました。それは言い換えれば、3040年前に元信者や信者の家族から「トラブル」や「被害」を訴えられた宗教団体というのは、いつ旧統一教会と同じような「標的」になってもおかしくないということです。

 このあたりの問題点については、他の宗教団体ばかりでなく、旧統一教会を問題視して批判しているような専門家も指摘しています。例えば、新興宗教団体「幸福の科学」は今回の解散について「事実上の宗教弾圧だ」と非難し、「民法上の不法行為を理由に(解散命令の)適用範囲が不当に拡大される恐れがある」と時事通信に取材に回答しています。

「洗脳されている人たちの言うことは信じられない」という決めつけ

 では、そんな賛否両論ある旧統一教会の解散命令判決を見て私は何を考えたのかというと、社会から「あいつは洗脳されている」と思われることの恐ろしさです。

 文部科学省から解散命令請求を受けてから、旧統一教会側はさまざまな反論をしてきました。例えば、1990年代に高額献金や霊感商法が問題になったことで教団は2009年に「コンプライアンス宣言」をして、彼らなりに強引な布教や過度な献金がないかなどチェックしてきました。その甲斐あって、民事トラブルは4件のみで2016年からこの9年間、裁判はゼロです。そこで教団としてはコンプライアンス宣言以降、教団改革が進んでいると主張して、解散にはあたらないと訴えてきました。

 しかし、東京地裁は旧統一教会の違法行為に「継続性」があると判断をしました。なぜかというと、教団の問題を追及するジャーナリストや弁護士、そして元信者の方たちが「表沙汰になっていないだけで被害はまだたくさんある」「現在も違法行為をしている」と証言をしており、そちらを採用したからです。

 この東京地裁判断の根っこにあるのは、「旧統一教会の言うことは信じられない」ということだと私は思います。

 裁判件数という「動かし難い事実」があるにもかかわらず、「教団改革が進んでいます」という主張を裁判所が認めないというのは、そもそも旧統一教会側の語ることは「嘘」だと判断しているからです。

 では、裁判所はなぜ信じられないのか。文科省の調査に非協力的な姿勢だったなどもあるでしょうが、やはり本質的なところでは「洗脳」があるのではないかと私は思っています。もちろん、法の下の平等という点ではあってはならない話ですが、東京地裁の裁判官の頭には、こんな「予断」が生まれていたのではないでしょうか。

「洗脳されている連中など、どうせ本当のことを言うわけないので、真面目に取り合わなくていい」

 なぜそう思うのかというと、この2年半、旧統一教会の取材を続けてきた際、私自身いろんな人たちからそのようなことを言われてきたからです。教会の幹部や現役信者にインタビューをしていると言うと、「教団に洗脳されているんだから本当のことなんて言わないでしょ」と呆れられるのは一度や二度ではありません。

 ただ、私としては「こちらが理解できない考えの持ち主だからと言って無視をしていいのか」という思いがあり、それが今回の連載にもつながったというわけです。

 そして、それは「陰謀論者」にも当てはまります。一般の人から見れば荒唐無稽に見える話や、非科学的な説を信じているからといって、その人たちを「黙殺」して社会から排除するというのは、あまり健全ではないような気がします。実際に会って話をして彼らの視点や思想を知ることで、この社会の中で我々が気づかない問題が見えてくるかもしれません。

陰謀論者たちが一目置く神真都Qとは

 そこで私が注目しているのが、世間から「陰謀論集団」と呼ばれる人々です。彼らは「真実に目覚めた」ということをよくおっしゃいます。つまり、今の世界がおかしい、狂っているという前提なので、それをどの点を指しているのかなどを探っていけば、すべてを鵜呑みにすることはできないにしても、我々の社会が抱える問題の一端が見えてくるかもしれません。

 そこで前回、「陰謀論者」と呼ばれている人たちにお話を伺った際、取材の最後に私は必ずこんな質問をするようにしていました。

「あなたが"陰謀論集団"と聞いて思い浮かべるのはどこですか?」

 もちろん、信じていることによって答えはまちまちでした。アメリカで社会問題にもなった「Qアノン」を挙げる人もいました。この団体の世界観を大まかに説明すると「実は世界を裏で支配しているのは、悪魔崇拝者や小児性愛者による秘密結社で、彼らを倒そうとしているのがトランプ大統領」という者で、熱烈なトランプ支持者の中にはこの「Qアノン」が多くいると言われています。

 一方で、自民党の関係をもって、「日本を裏で支配している」ということで「旧統一教会」と回答する人もいました。また、それとは別の意味ですが、「財務省」と即答されるような人もいました。

 ただ、そのなかで最も多く名前を聞いたのが「神真都Q」(やまときゅー)です。

 この名前を挙げた人たちが口を揃えて「あそこはヤバい」というようはことを言います。例えば、ある人は「Qを名乗っているし、ディープステートを問題視しているので自分と同じかなと思って話を聞いてみたら宇宙人とか出てきて驚いた」と目を丸くします。また、ある人は「日本の古代文明の話やスピリチュアル系の話もしていていろんな要素がごった煮になっている印象」と評していました。

 つまり、「陰謀論者」と呼ばれる人たちからも「あそこはちょっと違う」と一目置かれているのが「神真都Q」なのです。

 この団体の名前を耳にして「なんか聞いたことあるな」と思う人もいらっしゃるかもしれません。こちらはコロナ禍の時に「反ワクチン団体」としてたびたび報道をされたからです。メディアの報道によれば、最盛期は1,000人規模のデモ行進もおこなっていて、LINEのグループチャットには1万人が参加していたそうです。

 では、なぜこれほどの人が集まっていたのでしょうか。団体のホームページにある「神真都Q会結成宣言」の中には、『悪の権化イルミナティ、サタニスト、DSグローバル組織、最悪最強巨大権力支配から「多くの命、子どもたち、世界」を救い守る』とあります。また、「偉大なるドナルド・トランプ大統領」や「善なる光のQ活動を健全に行う」という文言もあることから、「Qアノン」の日本支部的な位置付けを思わせます。

 一方で、この「神真都Q」という団体を、一般の人々が多く知るようになったのはある事件がきっかけです。それは2022420日、この団体のリーダー格の男性らとメンバーがワクチン会場に無断で押し入ったとして、建造物侵入容疑で逮捕されたという者です。

 この事件の判決によれば、彼らは20223月から4月にかけてコロナワクチンの接種会場になっていた東京ドームや、渋谷のクリニックなどの3箇所に無断で押し入って「ワクチン接種は犯罪行為」などと主張しました。その後、20221222日の判決でリーダー格の男性は懲役16カ月執行猶予3年、他のメンバーも執行猶予がつきましたが懲役1年から10ヶ月と全て「有罪」となり、リーダー格の男性は「更正」を誓って団体から離れたと報じられました。

 このような逮捕や判決のニュースはテレビや全国紙でも取り上げられたので、「神真都Q」という団体の存在はなんとなく知っていたという人もいらっしゃるかもしれません。

 一部メディアの報道ではコロナ禍以降、団体の規模は縮小して、デモ参加者も往時に比べて減っているそうです。確かにちょっと前、東京・新宿に行った時、「神真都Q」のデモを偶然見かけることがありましたが、警察官に囲まれてデモしていた十名ほどでした。もちろん、全国で活動している団体なので、たまたまこの日、新宿に集まったのがこの人数だったということかもしれません。

 私が目にした時、メンバーの方たちは靖国通りを太鼓などを叩き、リズムに合わせてこんなシュプレヒコールをあげていました。

「憲法改正絶対反対!日本の伝統を守りましょう」

「マスクは不要、ワクチン不要、嘘つくメディアも不要だよ」

「未来を担う子どもためにも以前の生活取り戻そう」

 しかし、実際のところ彼らがどのような理屈で、憲法改正やワクチンに反対をしていたり、どのようなことを目標として活動をしているのかという詳しいところまで知っている方はほとんどいないのではないでしょうか。

 この理由はシンプルです。テレビや新聞というマスコミでは「神真都Q」側の話をほとんど紹介していないからです。

 わかりやすいのは建造物侵入事件後に報じられた「東京新聞」の『反ワクチン団体「神真都Q会」、警察が動向注視...「闇の政府が支配」Qアノンの陰謀論拡散』(2258日)という記事です。

 この記事では、母親が「神真都Q」に入会をしたという西日本の17歳の男子高校生が「他人に迷惑をかけることだけは絶対にしないでほしい」など心情がかなり紙面を割いて紹介されていますが、「渦中の人」である母親本人はまったく登場しません。陰謀論にのめり込んだ母親が常軌を逸した言動をしている、というのは全て「息子視点」で語られているのです。

 なぜこういう奇妙な報道になるのかというと、実はこれはマスコミの「陰謀論者」や「洗脳された人」を扱う時の基本的なルールというか、「作法」のようなものなのです。

 わかりやすいのは、山上徹也被告が安倍晋三元首相を殺害した後の「旧統一教会報道」です。テレビや新聞には連日のように、教団の「被害者」や「元信者」が登場してその心情や体験が紹介されました。しかし、「現役信者」の声はほとんど取り上げられることはありませんでした。2世信者の20代男性からこんな話を聞いたことがあります。

「あの当時、マスコミには信仰を捨てた人や、極端な経験をした人の証言ばかりだったので、一般の信者の話もちゃんと取り上げてもらいたくて、テレビ局全てに電話をかけて"教団のことを報じるのならぜひ私のことを取材してください"とお願いしました。でも、どこも"情報提供ありがとうございます"とあしらわれておしまいでした」

「洗脳された頭のおかしい人」が語っていることを公共の電波や、紙面に掲載しないようにということなのでしょうが、報道の中立性、客観性という点からは首を傾げざるを得ません。

客観的判断をするために それでは「神真都Q」代表に聞いてみよう

 そしてこれは「神真都Q」にも当てはまります。これまでメディアではこの人たちにしっかりと話を聞いていません。話を聞いたとしても記事やVTRではほとんど使用されません。この手のニュースは「陰謀論に詳しいジャーナリスト・専門家」や「陰謀論に家族がハマった被害者」の見解や主張が優先されるものなのです。

 もちろん、そういう報道があってもいいでしょう。しかし、みんな同じだと世論が偏ります。ニュースの多様性ということでは「神真都Q」側の主張にしっかりと耳を傾けるものがあってもいいのではないでしょうか。

 そこで私は「神真都Q」の代表者の方にインタビューを申し込むことにしました。「洗脳をされている」と言われる人たちに話を聞いていく連載だという趣旨をお伝えして待つこと数日、広報担当者から丁寧なお返事をいただきました。

「代表者の時間が合えば、取材を受けてもいいです」

 こうして私は「陰謀論集団」と呼ばれる「神真都Q」の皆さんと対話をさせていただく機会を得ることができたのです。