第8回 旧統一教会の「合同結婚式」に参加して「生マザームーン」を見てきました(前編)

「神真都Q」代表への取材のその後

「陰謀論者」と呼ばれる人たちの中でも、「あそこは別格」と一目置かれる団体「神真都Q」の代表にお話を聞かせていただく。

 ......と前回申し上げたのだが、「神真都Q」から「日程の調整が取れましたらご連絡差し上げます」とご連絡いただいてから425日現在、残念ながら日程のお返事をいただけていません。

 恐らく、代表がご多忙でなかなか日程の調整ができないのではないでしょうか。とはいえ、「神真都Q」のみなさんがどのような経緯で「真実」に目覚めて、これからどのような活動をされていくのかというのは、取材者としては純粋に興味があります。

 これは気長に待つしかない。そう思って日程の返事を心待ちにしていたら先に、この「洗脳連載」にも大いに関係のあるイベントに参加する日がやってきてしまったので、今回はそちらについてお話をさせていただきます。

日本メディア関係者で唯一、旧統一教会「合同結婚式」を取材してきました

4月12日に韓国で行われた合同結婚式。日本のメディアは会場内に入ることは許されなかった

 そのイベントとは、さる4月12日に開催された旧統一教会の「合同結婚式」(正式名称は国際合同祝福結婚式)です。そこに参加して私は遠巻きならも「生マザームーン」を見ることできました。言わずと知れた、旧統一教会のトップ、韓鶴子総裁です。

 

「合同結婚式って、教祖に命じられるまま見ず知らずの男女が強引に結婚させられて、断ると地獄に落ちると脅されるというやつか。そんなもんで一生の伴侶を選ぶなんて正気の沙汰じゃないな」と思う人も多くいらっしゃるように、「旧統一教会信者=洗脳」のイメージを日本社会に定着させた有名な宗教行事です。

 読者の皆さんも情報番組などで、ウェディングドレスとタキシードに身を包んだ新郎新婦が無数に並んでいる映像を一度は見たことがあるのではないでしょうか。

 その合同結婚式に今回、世界90カ国から5,000人の男女が集い、その中には日本からも1,200人が参加しました。「えっ! 東京地裁で解散命令が下ったのに、まだそんなに行ってるの? 洗脳って本当に怖いな」と衝撃を受ける人も多いでしょうが、実際の参加者はもっといます。

 実はこの合同結婚式、「オンライン参加」ができるので、そちらを含めると参加者は1万人にも膨れ上がります。このオンライン挙式を利用する日本人もかなりいるそうです。

 

「実は2世信者の中には官僚や警察官などの公務員、医師、有名企業で働いている人も多いんですが、周囲から叩かれることを恐れて、信者だということが絶対にバレないように生活しています。彼らはこういうオープンな場にくることもできないので、教会や自宅からオンラインで参加しているんです」(会場にいた2世信者)

 

 このような形で多くの旧統一教会信者が集う合同結婚式に今回、私は日本のメディアで唯一入ることができました。

 実は教団の友好団体「UPF-japan」(天宙平和連合)が、マスコミがなかなか報道しない教団のありのまま姿を見てもらおうと、政治家、宗教者、大学教授、弁護士などに声をかけた見学ツアーがありました。今回はその中にメディアは含まれてはいなかったのですが、UPFの取材を長く続けていた関係で、どうにか紛れ込ませてもらったのです。

 そう聞くと、「旧統一教会が政治家や学者をシンパにするための見学ツアーってことは、どうせ都合のいいところしか見せないし、話せると人とか行動も制約されていたんでしょ?」と思うかもしれません。実際、この連載の第3~5回に登場いただいたマインドコントロールの専門家・西田公昭教授と話をしている時も、教団や信者の取材をしていることを告げると、同じようなことを言われました。

 前回も少し触れましたが、専門家やメディアは「洗脳されている人は本当のことを語らず、自分たちの都合のいい嘘をつく」と考えています。テレビや新聞の「旧統一教会報道」で「元信者」や「信者の家族」がバンバン出演するのに、「現役信者」が登場しないのはこれが理由です。

 私もメディアの友人たちに「韓国の教団本部に行ってきた」とか「合同結婚式に参加して内部を見てきた」と話をすると、必ずと言っていいほど、「北朝鮮が海外メディアを取材させる時みたいに、綺麗なところだけしか写真を撮らせないんでしょ?」とか「教団が用意した人にしか話が聞けないんでしょ?」と質問されます。

 ただ、この2年半あまり、教団内部の取材をしてきてそんなことは一度もありませんでした。そして、それは今回の合同結婚式にも当てはまります。私は合同結婚式会場の中で1人で自由に歩き回って、写真を撮りまくって、顔見知りの信者もいたので、好き勝手に声をかけて自由に会話をしました。主催者側からは、プライバシーの問題があるので、新郎新婦の個人が特定するような写真を公開するのは控えるようにと告げられましたが、それは旧統一教会どうこう以前の常識であって基本的にNGはなかったのです。

 というより、正確には私たちの行動など、誰も関心がありませんでした。

 会場は世界90カ国から集まった旧統一教会の信者たちでごった返し、結婚を喜び合う親族や友人たちは記念写真撮影などで大盛り上がりしていました。そんな"おめでたムード"の中で、日本人がそこをちょろちょろ動き回って、カシャカシャと撮影をしていても誰もまったく気にもとめないのです。

 この会場の雰囲気をわかっていただくには、人気アーティストのコンサート会場をイメージしていただくといいかもしれません。

 数万人のファンたちがコンサートに熱狂している、アリーナの外でもファンたちがグッズ売り場に並んだり、仲間同士で記念写真を撮って大盛り上がりをしているはずです。もしその様子をカメラを構えてパシャパシャ撮っている外国人がいたところで、ファンたちはまったく気にしないはずです。意外に思う方も多いでしょうが、旧統一教会の合同結婚式の会場のムードはまさしくそんな感じなのです。

 そして、それは本番の合同結婚式も同じでした。怪しい儀式や、異常な思想が垣間見える奇妙な言動などゼロで終始、人気アーティストのファン感謝イベントのようなノリでした。

 旧統一教会を擁護しているわけではなく、日本のメディアやジャーナリストたちが解説してきた「教祖に洗脳された日本人が、献金目当てで強引にカップルにさせられるカルトの異常な儀式」というイメージとかけ離れたものだったのです。

「それはお前が旧統一教会に洗脳をされているからだろ」とツッコまれそうですが、私としてもそういうカルトの儀式的なところをちょっと期待していたところがありました。

 私は若い時、週刊誌記者をしていた関係で、さまざまな新興宗教の「異様な儀式」の取材経験があります。例えば、宮崎の「加江田塾」という新興宗教団体では、病気で亡くなった子どもを生き返らせることができると、ミイラになるまで清めの儀式を続けました。「ライフスペース」という自己啓発団体では、主宰者の男性が「シャクティパッド」という相手の頭部を手で軽く叩く儀式をすると、どんな病気も治るとして、やはり亡くなった人を「まだ生きている」と叩き続けてミイラ化させました。

 もちろん、旧統一教会をこれまで取材してきて、その手の「奇跡」をうたう宗教団体とは違うということは理解しています。しかし、心のどこかに「そうは言っても、世間からカルトと叩かれている新興宗教なんだから、我々には理解できない特殊な儀式が見られるのではないか」と目を皿のようにして会場内をチェックしてみたのですが、肩透かしをくらうほど、普通の「結婚式」だったのです。

 

 ただ、いくら私がそう言ったところで、「洗脳されたライターなど信じられん」という人も多いと思います。実際にこの場で、私が何を見て、何を聞いてきたことをお話しするので、それで判断をしていただきたいと思います。

いざ「合同結婚式」へ

 412日早朝、私はツアー参加者らとともにソウルから車で1時間ほどの、加平というところにある「清心平和ワールドセンター」にやってきました。

 これは教団関連の行事が行われる2万5,000人が収容できる多目的施設ですが、教団以外のイベントが行われることもあり、過去にはK-POPスターがコンサートを行われています。国内外の有名アーティストがライブを行う横浜・みなとみらいの「Kアリーナ横浜」の収容人数が約2万人なので、それくらいの規模のものをイメージしていただければいいと思います。

 そんな「清心平和ワールドセンター」に行ってまず驚いたのは、バスと人の多さです。

 世界中から合同結婚式に参加するためにツアーが組まれており、さまざまな国の人たちを乗せた大型バスが列をなしているのです。歩道にもタキシードやドレスに身を包んだ新郎新婦、その付き添いの家族など、会場に向かうたくさんの人たちがいました。近くの宿泊施設に泊まっていた人は、そこから歩いてくるそうです。また、韓国の信者なのか、自家用車や路線バスで現地にやって来る人たちも多くいました。

 そんな人々であふれる「清心平和ワールドセンター」の正面入り口の横には、ポテトやチキンなどを売っているキッチンカーが並んでいて、合同結婚式だと言われなければ、人気アーティストのコンサート会場のような雰囲気です。

会場の外にはキッチンカーも並ぶ。遠くに見えるのは韓鶴子総裁の住居でもある「天正宮博物館」(上)と新施設「天苑宮」(下)。天苑宮の総工費は日本円で500億円とも報道されている
入場券(ステッカー)を貼っていないと会場には入れない。色によって入れるエリアが異なる。筆者は一番の上の紫色のステッカーだった

 バスを降りて建物の中に入って会場内を散策してみて強く印象に残ったのは、信者の数の多さと「多様性」です。

 世界90カ国から参加しているとは聞いていましたが、実際に通路で行き交う人をみると、白人、黒人、アジア系などさまざま人たちがいて、まっすぐ歩くことができないほど混み合っているのです。

 また、混雑具合もなかなかでした。観覧席に入ることができない親族などのために通路にイスが置かれて、モニターで会場内の様子が見られるようになっていました。信者に話を聞くと、2万5,000人収容のこの会場でも手狭になってきたので、もっと大きなスタジアムを建設することも検討しているそうです。

世界90カ国から集まった人々でごった返す通路。新郎新婦やその家族、友人らが記念写真などを撮っている ※プライバシー保護のために画像全体にぼかし加工をしています。

 そんな風に会場内を歩きまわって参加者たちの様子を観察して、率直に感じたのは、「みんな幸せそうだな」ということです。

 合同結婚式に出る新郎や新婦が、友人たちとスマホで写真を撮り合って、楽しそうにお喋りをして盛り上がっています。また、記念撮影のためのパネルも置かれ、そこにも列ができていました。

会場内に入れない人たちは通路に椅子を置いてモニターで式を視聴する。トイレも大行列ができていた。※プライバシー保護のために画像全体にぼかし加工をしています。

 また、新郎新婦の家族同士も仲良く話をして盛り上がっています。実際に合同結婚式に出た信者によれば、双方の家族にとってもこの時間場は非常に重要だそうです。

 

「たとえばアフリカの新郎とアジアの新婦というように出身国が遠く離れていると、それぞれの家族が合同結婚式ではじめてちゃんと会って話をするということもあります。ですから、この時間に互いのことをよくわかり合おうとろうとするので話が尽きないんです」

 

 読者の皆さんも家族や友人、会社の同僚などの結婚式に参加をして、新郎や新婦の周囲で家族や友人が楽しそうに盛り上がっていたり、感動で泣いたりしている場面を見たことがあるはずです。そういうやりとりが、「清心平和ワールドセンター」の中でいたるところで行われているのです。

33年前の情報に基づいた日本での報道と現実の隔たり

 そのように聞くと、「それは洗脳で幸せだと思い込まされているだけだろ」と冷笑する人も多いでしょう。日本のメディアや専門家たちは、これまで繰り返し、この合同結婚式は「洗脳された信者同士が、強引に結婚させられて不満があっても逆らえない」と説明してきたからです。

 たとえば、山上徹也被告が安倍晋三元首相を銃撃した後、「週刊文春」(202284日号)が「《総力取材》統一教会の闇」という特集を組み、『式の日はカップルで尻を叩き合い、初夜は女性上位で避妊は禁止...統一教会「合同結婚式」の"性とカネ"』という記事で紹介した合同結婚式の内容をまとめると、以下のようになります。

・「国籍や学歴を問わず、どんな相手でも受け入れる」と誓いを立てる。

・その後、顔写真と全身写真をもとにして結婚相手の組み合わせが行われる。

・これに逆らうのはサタンの心を持つことを意味するので不満があっても受け入れて合同結婚式に臨む。

(文春オンライン https://bunshun.jp/articles/-/56444  )

 確かに、この記事を読んだ後に、「新郎新婦が幸せそうだった」などという話を聞いても、「嘘くさい」「お前の目は節穴か」となるのは当然でしょう。しかし、実はそこに「旧統一教会報道」の落とし穴があります。この記事をよく読めばわかりますが、これらの情報は1992年に参加した人たちの証言に基づいています

 つまり、33年前という非常に古い話をあたかも「今起きていること」のように誤解させる、という非常に悪意のある「誘導」が行われているのです。

 1992年といえば、コンプライアンスなどの言葉もなく、会社ではセクハラ・パワハラ・過労死が氾濫し、学校の部活動では鉄拳制裁も当たり前でした。そういう時代背景で起きた問題と「現在」を切り離して考えるのは当然です。例えば、1992年にイトーヨーカドーは暴力団系総会屋に利益供与をして幹部が逮捕されています。もしこの時代の証言を基に、今のイトーヨーカ堂が反社会勢力と繋がっていると騒ぐメディアがあったら、社会は「いくら叩きたいからって強引すぎじゃない?」と呆れるはずです。しかし、旧統一教会報道に関しては、なぜかそういう無茶苦茶なことが許されているのです。

「企業とカルト宗教を同じにするな!旧統一教会の教義は33年前から基本的にはなにも変わってないだろ」というお叱りを受けるかもしれませんが、私が問題視しているのは、その「決めつけ」です。仮にもメディアやジャーナリストを名乗っているのなら、実際に教団の内部に足を踏み入れ、現役信者らにも取材して、本当に33年前と同じことが続いているのを確かめるべきです。それもやらずに33年前の証言をチョキチョキつないで国民の憎悪を煽るのは、「商売」としては美味しいかもしれませんが、それは本当に「報道」なんでしょうか、と言いたいのです。

「報道」などという大層なことをしていない、しがないフリーライターの私でさえ、実際に合同結婚式に参加した人たちに取材をすれば、「どんな相手も受け入れる」などの誓いもなければ、強引に結婚もさせられないし、逆らうことが許されない、というのはすぐにわかりました。

 世界平和統一家庭連合(https://ffwpu.jp/wedding.html)に記載されていますが、旧統一教会もこの33年でずいぶん変わって今は、マッチングアプリや仲介人のような人が結婚相手の候補を紹介します。そして実際に会って話をして、互いの意思確認をしたうえで、合同結婚式にのぞみます。

 近年の合同結婚式をした信者たちに話を聞くと、「マッチングして何度か会ったんですけれど、相性も合わなくて結婚までは至りませんでした」という人もいれば、「最初に会った時からすごい話が合ったのですぐに結婚を決断しました」と十人十色の答えが返ってきます。一般社会の婚活アプリや結婚相談所を利用する人たちと、基本的にはそれほど大きく変わらないのです。

 

 合同結婚式の開会時間が迫るなか、私は観覧席からスタジアムの会場を見下ろしました。そこには1300組の新郎新婦が、続々と入ってきています。確かに、我々の感覚からすれば、このような形では結婚式を行うのは「異常」です。

 しかし、こういう結婚式をするのには、彼らには彼らなりの理由もあるのです。

 旧統一教会という宗教団体に「問題」がないわけではありません。しかし、だからといって、教団の現状をロクに取材せず、現在の信者たちの話にも耳を傾けずに、33年前で時計の針が止まったような報道を繰り返している、というのは本当にフェアなことなのでしょうか。

 合同結婚式がいよいよ始まる前、私はそんなことを考えました。(後編に続く)