第2回 1カ月 陽の当たる場所

  • 100均フリーダム
  • 『100均フリーダム』
    内海 慶一
    ビー・エヌ・エヌ新社
    1,100円(税込)
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 さて。
『超難関中学のおもしろすぎる入試問題』松本亘正(平凡社新書)に関して、〝需要が尽きるまで売る努力を、私はしていなかった疑惑〟が浮上した点は、前回お話した通り。
 言い方を換えると、『超難関中学~』を見かけたら手に取ったであろう未来のお客さんから、私はその商品を隠してしまったのかも知れないのだ。

 それがこの1点だけの話であれば、大したことはなかろう。が、似たようなことを、あっちの商品でもこっちの商品でも繰り返しているとなると深刻だ。例えば......。

『a』という商品をもし見かけていたら、手に取ったであろうAさん。
『b』という商品をもし知ったら、購入したであろうBさん。
『c』という商品そのものではなくても、「そういう関係の本」を探していたCさん。

 この三人に1冊ずつ売り逃した、というだけならまだいい。いや、よくはないけど傷は小さい。しかし、もし彼らが「欲しい本が見当たらない店」「興味をひかれない棚」「出会いに乏しい売り場」だと感じたならば、それは由々しき問題だ。

 思うに、〈品揃え〉と〈品数〉を、私たちはもっと明確に区別するべきないんじゃなかろうか。

 辞書的な解釈はともかくとして、〈品数〉がどんなに豊富でも、その中に自分が欲しい本が無ければ、その人にとっては〈品揃え〉が悪い店なのだ。更に「在ればいいってもんじゃない問題」が、我々にとっては悩ましい。たとえその商品の在庫が〝在った〟としても、欲しい人が辿り着けなければ無いのと一緒で、やっぱり〈品揃え〉が悪い店だと認識されてしまうだろう。

《見られなければ買われない》という言葉を、何かで読んだことがある。どんなに優れた商品でも、お客さんの目に入らなければ買っては貰えないのだ。

 話が遠回りになったけど、今度こそは私は、『超難関中学のおもしろすぎる入試問題』に関して「この売れ方だったら棚に1冊あれば充分だよね」というところまで需要が落ち着くのを、きちんと見届けたいと思う。

①ある程度まとまった数を仕入れた。
②数に見合った陳列スペースも確保した。
③POPも書いた(ウマいヘタはともかくとして)。

 これで狙った通りに売れなければ、それはそれでしょうがない。来店する大勢のお客さんの目にきちんと触れて、それで売れないのなら、或る程度の需要は充たしたと考えて、後顧の憂い無く別の商品と入れ替えればいいのだ。

 という訳で、魚がいそうなポイントに仕掛けを垂らした後は、食うのを待つのみだ。

 その間ボーっと待ってるだけってのも能が無いので、別の仕事の話をしてみよう。ちょうど、「そろそろフェア台を入れ替えたいな」と思っていたところなので、その企画を考えてみたい。

 何を以て〈フェア〉とするのか? 実はその明確な定義を、私は知らない。「フェアとは何ぞや」みたいなことを教わった記憶も無い(もし私が忘れてるだけなら、教えてくれた当時の先輩や上司、スミマセン)。

 本屋に就職して最初の何年かは、泣けるハッピーエンドものを並べて【泣いてるからって悲しいとは限らない フェア】とか、桐野夏生、真保裕一、乃南アサ、東野圭吾、宮部みゆきあたりを並べて【21世紀のミステリー界はアンタに任せた! フェア】とか、何と言うか、まだまだ狭かった読書体験を土台に、かなり大雑把な思考で、フェアっぽいコーナーを作っていた。
 そんなヒネリの無いフェアでも、それなりに売れた。ネットが今ほど普及していなかったので(ガラケーすら無かった)、誰も〝検索〟出来ない時代だったのだ。

 以下の喩えでピンとくるのは恐らく40代以上だろうが、昔々、私らが青春真っ盛りだった頃、レンタルレコード屋さん(貸しレコ、などとも呼んだ)が、どの町にも1、2軒はあった。そこで借りてきたレコードをカセットテープに録音する訳だけど、今と違って、聞きたくない曲を飛ばすには、数十秒かけてカセットテープをウィーンと早送りしなければならず、それが面倒だしノッてた気分も素に戻るから、あらかじめ好きな曲だけ選んで聞きたい順番を考えて、カセットテープに編集したのだ。

 元気が出る曲ばっかり集めたり、寝る前に聞きたい曲を集めたり、車の中で聞きたい曲を集めたり、試合の前に聞いて気合を入れる曲を集めたりetc......。

 今思えば、書店業界新入生だった頃に私がやっていたフェアは、そんなカセットテープ編集の延長線上にあった気がするし、根っこのところでは今も変わってないかも知れない。だから何だ? と訊かれると困るけど。

 因みに、出版社が頻繁に催す〈〇〇文庫ベストセラーフェア〉といった類は、私にとってはフェアではなく、販促のキャンペーン。
 まぁ、文庫3社の夏のフェアなんかは季節の風物詩としてすっかり定着しているから、出版社の企画を全否定はしないけれども、「弊社の人気作品を集めました!」みたいなやつは、

①大抵はスマホで調べりゃ済む話じゃん?
 二十数年前ならともかく、今どきはスマホやパソコンでちょっと検索すれば、売れ筋だとか人気だとかはすぐに出てくる訳で、わざわざ店頭の限られたスペースを割く価値が果たしてあるのか?

②ラインナップの前提が〈〇〇文庫〉とか〈〇〇出版〉などと限定されている。
 故に、「この作家だったらあっちの作品を入れた方が良くね?」みたいな〝惜しい〟感じが常にある。

③独自性、オリジナリティがゼロ。
 この業界の外の人には分かりにくいかも知れないけど、出版社がフェアを企画すると、全国の書店に「〇〇出版〇〇フェア注文書」みたいなのが送られてくるのね。ラインナップが紹介されてて、「全20タイトル 1セット各5冊」とかって。
 それに店のハンコ捺して送り返すと、時期になったらPOPやポスターなんかもセットになって納品されるの。こちらはそれを店頭のしかるべきところに並べて、付属のPOPペタペタ貼って、はい完成。実にお手軽。タイパ! 効率化!

 だけど、あっちの店でもこっちの店でも展開してるんだったら、わざわざうちの店を選ぶ必要無くね? と、天邪鬼な私は思ってしまうのだ。或いは、「昨日行った店でも見たな」というフェアに、〝発見〟とか〝出会い〟とか〝驚き〟とか、感じないよね? とも考えてしまうのだ。
 言い換えれば〝退屈〟ではないか、と思うのだ。それはそのまま前述の〝品揃えが悪い〟ことと近似値ではないかとも思うのだけれど、どうだろう?

 ってか、〝なんでもかんでもスマホで即解決〟の時代に、そもそも読書なんて非効率の極みな訳だ。
「いやいや、読書で得られるのは知識だけではない。喜怒哀楽といった心が揺さぶられる瞬間や、未知の世界を疑似体験できることも読書の功徳なのだから、長い目でみればむしろ効率的だ」
とどこかからお叱りを受けるならば、「手間ひまかかる」と言い直してもいい。

 そもそも読書なんて手間ひまかかることを薦めようとしている私たちが、手間を惜しんじゃダメでしょ(笑)。

 念のために言っておくと、効率化なんかしなくていい、と言っている訳ではないよ。時間短縮だって大事だろう。時は金なりと、昔の人も言っている。だけど場合によっては、効率よりも大事にしたいものがあるよね、と言いたいだけだ。

 話があっちこっち飛んで申し訳ないが、要するに書店の現場でやるからには、ネットでちょっと検索した程度では挙がってこないラインナップを揃えたい。レコメンドだのおすすめ機能だのでは拾いきれない作品を紹介したい。他の店では見られない売場を提示したい。って言うか、そうでないと
「うちの店じゃなくてもいい」
「私が担当じゃなくてもいい」
「わざわざ足を運ばなくてもネットで買えばいい」
ということになっちゃうんじゃないかな?

 などと言うとエラそうに聞こえるかも知れないが、特殊な技能を駆使している訳じゃない。何か一つテーマを決めて、それに沿った本を集めて並べるだけである。
 参考――になるかどうか保証は出来ないけれど、過去に実施した幾つかのフェアを紹介してみよう。例えば以下のラインナップは、どんなテーマで集めたでしょうか?(順不同)


『あなたが知らない鉱物と宝石の世界』ライフ・サイエンス研究班(KAWADE夢文庫)
『アヘン王国潜入記』高野秀行(集英社文庫)
『暗渠パラダイス!』髙山英男、吉村生(朝日新聞出版)
『糸を出すすごい虫たち』大﨑茂芳(ちくまプリマー新書)
『イモムシ偏愛記』吉野万理子(光文社)
『美しい変形菌』髙野丈(パイ・インターナショナル)
『ヘンな間取り』ヘンな間取り研究会(イースト・プレス)
『怪獣生物学入門』倉谷滋(インターナショナル新書)
『顔ハメ看板ハマり道』塩谷朋之(自由国民社)
『カラスの教科書』松原始(講談社文庫)
『キリン解剖記』郡司芽久(ナツメ社)
『攻防から読み解く「土」と「石垣」の城郭』風来堂(じっぴコンパクト新書)
『コケの国のふしぎ図鑑』左木山祝一(エクスナレッジ)
『コロナマニア』岩田宇伯(パブリブ)
『ジェットコースターにもほどがある』宮田珠己(集英社文庫)
『カラー図解でわかるジェット旅客機の秘密 改訂版』中村寛治(サイエンス・アイ新書)
『シブすぎ技術に男泣き!』見ル野栄司(中経の文庫)
『すごいエスカレーター』田村美葉(エクスナレッジ)
『世界の橋の秘密ヒストリア』ジュディス・デュプレ、訳=牧尾晴喜(エクスナレッジ)
『絶景本棚』本の雑誌編集部(本の雑誌社)
『切腹』山本博文(光文社知恵の森文庫)
『銭湯空間』今井健太郎(KADOKAWA)  
『象虫』小檜山賢二(講談社)
『誰がために鐘を鳴らす』山本幸久(角川文庫)
『タコの知性』池田譲(朝日新書)
『ダムの科学 改訂版』ダム工学会近畿・中部ワーキンググループ(サイエンス・アイ新書)
『団地の給水塔大図鑑』小山祐之(シカク出版)
『地下鉄の駅はものすごい』渡部史絵(平凡社新書)
『東京駅の履歴書』辻聡(交通新聞社新書)
『東京藝大 仏さま研究室』樹原アンミツ(集英社文庫)
『TOKYO坂道散歩なび』坂の街研究会(KAWADE夢文庫)
『東京時層探検』黒沢永紀(書肆侃侃房)
『日本昭和珍スポット大全』金原みわ(辰巳出版)
『日本人の知らない日本語』蛇蔵、海野凪子(KADOKAWA)
『日本百銘菓』中尾隆之(NHK出版新書)
『のらもじ』下浜臨太郎、西村斉輝、若岡伸也(MDNコーポレーション)
『ピクトさんの本』内海慶一(ビー・エヌ・エヌ新社)
『100均フリーダム』内海慶一(ビー・エヌ・エヌ新社)
『プリン本』(昭文社)
『ベスト・オブ・映画欠席裁判』町山智浩、柳下毅一郎(文春文庫)
『偏愛的インスタントラーメン図鑑』大和イチロウ(世界文化社)
『ぼくをつくった50のゲームたち』川島明(文藝春秋)
『マゾヒストたち』松沢呉一(新潮文庫)
『町自慢、マンホール蓋700枚。』池上修、池上和子(論創社)
『ミステリーな仏像』本田不二雄(駒草出版)
『身近な鳥のすごい食生活』唐沢孝一(イースト新書Q)
『みつばち高校生』森山あみ(リンデン舎)
『身のまわりのありとあらゆるものを化学式で書いてみた』山口悟(ベレ出版)
『ゆかいな珍名踏切』今尾恵介(朝日新書)


 これ、きっかけはちょっとした雑談。
 或る日の開店前、パタパタと棚にハタキをかけたりしながら、理工書の担当者と概略以下のような会話をした。
「きみのとこの棚ってさ、狭い範囲をやたら深く掘り下げた本が多いよね(笑)」
「そうなんですよ。一体、誰が読むんだ? みたいな(笑)」
「と言いつつ、よく見ると、案外、素人向けの本もありそうな......」
「生物学の棚なんかは、虫とか鳥とか、身近な話題も多くて、フツーに面白いですよ」

 ......。狭くて深いけど案外身近......。これ、集めて展開したら面白いんじゃね?

 そう思いついて、店中の棚を徘徊したり、ネットで調べまくったり、趣旨を説明して他のスタッフや仲のいい版元の営業さんに訊いてみたりして集めたのが、上記の約50点。題して【とっても狭くて深い本! フェア】。

 いや、くだらないよね。自分でもそう思う(笑)。
 でもこのラインナップは、検索できないでしょ。ネット書店のオススメでも、挙がってこないでしょ。だから、人間(私)がやる意味があるんじゃないかな。

 オリジナリティなんて、格好いい話ではなくてさ。もっとシンプルに「ねぇねぇ、こんな本あるんだけど知ってた?」「これ、ちょっと面白くない?」といった感じ。
 動物園とか水族館で、「あんなのがいるよ!」「こんなのが泳いでるよ!」と興奮している子どもに近いかも。

 例えば、小檜山賢二『象虫』なんて、そもそもゾウムシ限定の写真集が出版されていることすら知らない人は多いだろうし、まるで謎の宇宙生命体の如き奇怪な姿は、昆虫に興味が無い人をも振り向かせずにはおかない筈だ。そして、あのインパクトはあの大きさの写真だからこそであって、パソコンの画面でネット書店を開いても、決して伝わらないだろう。

 この『象虫』は、うちの店だと生物学の〈昆虫〉の棚に在るのだけど、店によっては〈図鑑〉のコーナーにあるかも知れないし、〈アート・写真集〉の棚に置いてるケースもあるだろう。いずれにしろ、〝比較的専門性の高いその棚に行かないと出会えない〟類の本だと言って良い。
 けれど、繰り返しになるが、虫に興味が無い人をも、グイッと振り向かせるインパクトがある本なのだ。実際、フェア期間中には、初めてこの本に出会ったと思しきお客さんが、「うおっ、何これ!?」「えっ本物? CGじゃなくて?」などとビックリしながらページをめくる、といった場面を何度も見かけた。

 毎度、説明がくどくなるのを許されたい。
 虫に興味が無い人でも、二度見する迫力なのだ。これを目的に来た訳じゃないのに、つい手に取ってページをめくらずにはいられないのだ。そんな本が、普段は、専門性の高い棚、〝これを目的に来た人〟でないと出会わないだろう場所に、ひっそりと配架されているのだ。
 それを、たまに陽の当たる場所に出してあげたら、普段は〈昆虫〉の棚になど用が無い人にも見て貰えるんじゃないか。ゾウムシになんか興味が無い人でも、足を止めてくれるんじゃないか。

 それはそのまま〝発見〟だったり〝出会い〟だったり〝驚き〟だったりに、つながるのではないだろうか。

 極端なことを言えば、「うおっ、何これ!?」とひとしきりはしゃいでくれれば、必ずしも買って貰えなくても構わない。〝発見〟や〝出会い〟や〝驚き〟があった店ならば、「また行きたい」と思って貰えるのではないか。

【とっても狭くて深い本 フェア】の中には買いたい本は無かったけど、こういう変なことやってる店だったら、来月また来てみよう。

 そう思って貰えたら、フェアの目的の何割かは達成、と考えていいのではないか。

 効率化云々の話にもちょっと重なるんだけど、本屋の売り場を作る際に、その結果をあんまりすぐに求め過ぎない方がいい、というケースも結構あるんじゃないかなぁ。

「結果は後からついてくる」みたいなどっかで聞いたような前向き思考を押し付けたい訳ではなくて、私たちが売り場に投入する施策には即効性のものと遅効性のものがあって、その中間もあって、例えば「本屋大賞が発表されました、受賞作を一等地にドーン!」なんてのは、出したそばから売れていく典型的な即効性だ。
 一方で、先月ちらっと触れたような「売れてない期間が長い順に返品して、新しい本を入れる場所を空ける」なんてのは、すぐに数字に結び付く訳ではないけど長期で考えればとっても大事で、典型的な遅効性だろう。

 そいう視点を持てば、フェアってのは多分、即効性と遅効性の中間なのかな。客層やら時期やらタイミングやらがスパッとハマッた時はビックリするぐらい売れて補充が追っつかないこともたまにはあるし、たとえそれほどには売れなくっても「また来てみよう」と思って貰えたら、それはそれで店の客数増に貢献したと言っていいのではなかろうか。
 尤もそれは、なかなか数字には表れない部分だから、上司に説明する際に説得力に欠けるのが難ではあるけど。

 もう少し、この話を続けたい。

 例えばジェットコースターが好きな人の果たして何割が、宮田珠己『ジェットコースターにもほどがある』に辿り着くだろう? フツーは、各種旅行ガイドのコーナーで遊園地を調べるぐらいではあるまいか。ましてや、あのスットコドッコイの名文の魅力は、実際にページをめくってみた者にしか分からないだろう。

 或いは、内海慶一『100均フリーダム』というタイトルから、皆さんはどんな本を想像するだろう? そして、その本は、書店のどのコーナーにあるだろう? 実はこれ、実際に著者が購入したさまざまな100均グッズの写真を掲げて、そのトホホな感じや「なんでこうなったん?」という疑問を、実に味のある文章で紹介しているのだけど、

①そもそも、こういう本が出版されているということを知らない人が多いし、
②タイトルだけ知ったところで、中身の想像がしづらい上に、
③店によって、〈デザイン〉の棚に在ったり、〈サブカルチャー〉の棚に在ったり、はたまた〈写真集〉の棚に在ったりと、配架されている場所がバラバラで、
④仮に本の存在を知っていても探し当てるのがひと苦労。

 そういった本を、店の一等地、とまではいかなくとも、不特定多数の人が通りかかる場所(前述の〝専門性の高い場所〟ではないところ)に並べてあげて、「ねぇねぇ、こんな本知ってる?」と、声には出さずに語りかける感じ。

 それが、私が考える〈フェア〉。

 で、相変わらず回り道も甚だしいけど、次のフェアを決めなきゃいけないんだよ。
 っていう時期に、『ヒロイン』桜木紫乃(毎日新聞出版)という新刊が目に留まった。どうやら、主人公が他人を演じて逃亡を続ける話らしい。そう聞いて、宮部みゆきの『火車』(新潮文庫)を想起するのは、私だけではないだろう。そう言えば薬丸岳の『誓約』(幻冬舎文庫)も、そんな話だったな。

 ......。これ、フェアにならんかな?

 と言っても〝なりすまし〟のミステリーというだけじゃヒネリが無さ過ぎるし、ものによっては〝フェアにラインナップされたこと自体がネタバレになる〟ケースもありそうだから、もうひと工夫する必要がありそうだ。
 待てよ、なりすましはミステリーには限らんよな。マーク・トウェインの『王子と乞食』(岩波文庫)とかエーリヒ・ケストナーの『ふたりのロッテ』(岩波少年文庫)もなりすましだな。時代小説も入れられたら、ラインナップに幅が出るんだがな......。有吉佐和子『和宮様御留』(講談社文庫)があるか。本人の意志でなりすました訳じゃないけど。

 いや待て待て。だからストレートに〝なりすましフェア〟だと、ネタバレになるケースがあるんだってば。
 なりすまし。ニセモノ。本人じゃない。じゃあ誰? ......ん!? 〝誰?〟か。【誰? フェア】ってどうだろう? 聞いただけだとよく分からんけど、ラインナップ次第では「ははぁん、ナルホド」と思って貰える売場ができやしないか?

 そうすれば、北村薫『スキップ』(新潮文庫)は、「えっ! 私、誰になっちゃったの!?」だし、下村敦史『闇に香る嘘』(講談社文庫)は、「兄を名乗るこの男は誰?」だし、子どもたちのロングセラー山中恒『おれがあいつであいつがおれで』(つばさ文庫)とか、安部公房『箱男』(新潮文庫)なんかも入れてもいいかも。

 よし、決めた。次のフェアはズバリ【誰? フェア】だ!
 という訳で、この話、次も続けていいですか?