【今週はこれを読め! SF編】錬金術と産業革命の絢爛たる接合~高丘哲次『最果ての泥徒(ゴーレム)』

文=牧眞司

 高丘哲次は、架空都市を舞台とした長大かつ奇想に満ちた『約束の果て 黒と紫の国』で日本ファンタジーノベル大賞2019を受賞してデビューを果たした新鋭。本書『最果ての泥徒』は、それにつづく第二作となる。

 物語が開幕するのは、十九世紀末、中央ヨーロッパにあるレンカフ自由都市。ロシア、オーストリア、プロイセンという三つの帝国に囲まれ、どうにか独立を保っている小国で、泥徒(ゴーレム)製造を特有の産業としている。泥徒の技術を開発した名門カロニムス家のひとり娘マヤは、わずか十二歳にして自分の泥徒スタルィを創りあげた。

 その才能ゆえ前途洋々に思えたマヤだが、父イグナツが工房で死亡しているのが発見されたことで、数奇な運命をたどることになる。工房に保管されていた十ある「原初の礎版」のうち三つが盗みだされ、イグナツの三人の弟子も行方がわからない。「原初の礎版」はカロニムス一族に伝わる秘宝であり、泥徒を〈完全なる被造物〉に至らしめるための手がかりとも言われている。

 マヤが七つ残された礎版のひとつをスタルィに組みこむと、それは喋りはじめた。言葉を操る泥徒とは前代未聞だ。マヤとスタルィは、奪われた礎版と三人の弟子の行方を追う覚悟を決める。わずかな手がかりを頼りに、アメリカ、日本、ヨーロッパ全土におよぶ長い旅がはじまった。

 この作品で、高丘哲次は独自のモードをつくりだすことに成功している。スチームパンクとも違った、あえて名づければカバラパンクとでも言うべきたたずまいだ。いっぽうにひそかに受けつがれてきた錬金術の世界観があり、もういっぽうに産業革命によってダイナミックに変容する国際社会がある。そのはざまを縫うように、しかし双方の領域から押しよせる風をいやおうなく受けながら、マヤとスタルィの探索はつづく。

 三人の弟子の消息が順番に明かされていく三部構成、二十余年にもわたる時間経過のなかでのマヤの成長、マヤとスタルィとの関係......とエンターテインメントの構成や要素がみごとに押さえられている。終盤に仕掛けられたどんでん返しも鮮やかだ。

(牧眞司)

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