【今週はこれを読め! SF編】降霊術、輪廻転生、死後の物語〜『幻想と怪奇15 霊魂の不滅 心霊小説傑作選』

文=牧眞司

  • 幻想と怪奇15 霊魂の不滅 心霊小説傑作選 (15)
  • 『幻想と怪奇15 霊魂の不滅 心霊小説傑作選 (15)』
    牧原 勝志(幻想と怪奇編集室)
    新紀元社
    2,420円(税込)
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 意欲的な企画で定評のある『幻想と怪奇』の最新刊。こんかいは心霊小説の特集だ。巻頭に「欧米心霊学略年譜(一八四八〜一九二六)」を掲げる。この期間が、心霊現象に対する世の関心がとくに高まったということらしい。ちなみに、コナン・ドイルの心霊術に関する長篇『霧の国』が1926年の刊行だ。

 翻訳作品が六篇。

 エドガー・ジェプスン「モレル夫人の最後の降霊会」とマージョリー・ボウエン「我が墓を見よ」の二作は、降霊会で起こる異様な現象をめぐりミステリ的な運びで綴られる。謎の核心はそれぞれの作品で異なるが、結末において多義的な解釈が読者に委ねられる点では共通する。

 ラドヤード・キプリング「世界で一番すばらしい物語」は、秀逸きわまる冒険小説を着想した青年の物語。彼は自分の想像力の産物だと思っているが、どうやらそれは前世の記憶らしい。語り手の先輩作家は、そのネタを買おうとするが......。前世の記憶の精彩に富んだ波瀾万丈と、現世における青年の凡庸さが、あまりにも対照的で面白い。

 アルジャーノン・ブラックウッド「ジョーンズの狂気」は、四百年前の凄惨な因果が、保険会社の事務員ジョーンズの身の上に降りかかる。生々しい幻視が現実を侵蝕していく展開が恐ろしい。

 シーベリー・クイン「遠い記憶の球体」は、現代アメリカの青年が中世イタリアへと転生する。〈ウィアード・テールズ〉初出の作品で、パルプ小説らしい太い描線の一篇。

 リヒャルト・フォス「降霊会奇譚」は、ドイツ作家による怪奇ロマンス。ローマを舞台とした、病身のデンマーク人美青年、彼の亡くなった恋人、女性霊媒師の三角関係だ。悲劇的クライマックスに向けて、弓をきりきりと引き絞るかのごとく緊張が高まる。

 ヘンリー・ジェイムズ「モード=イヴリン」は、物語の最深部に若くして亡くなった娘モード=イヴリンが位置し、その彼女がずっと存在するかのように振る舞う両親、その両親と旅行中に懇意になった青年マーマデューク、彼と少しねじれた恋愛関係をつづけている娘ラヴィニア、マーマデュークとラヴィニアをじれったく見守っている中年女性レディ・エマ......と、静かに渦が広がるように構成される小説。超自然的な要素がはっきりとあるわけではなく、ただ不思議な心理が満ちていく。

 書き下ろしのショートショートが二篇。井上雅彦「燦(きら)めく手と手」は、往年の降霊会ブーム(巻頭の「年譜」と照応するような)を題材とした、スマートな小品。森青花「女優だった」は、1956年の東映京都撮影所を舞台にした怪異譚。

 特集以外では、相川英輔「昨日の友人」が、ボンクラ青春小説的なりゆきのなかにそこはかとなく不条理感が流れる、独特の味わい。朝松健「闇を包む時刻(とき)の色」は、連作《ベルリン警察怪異課》の第五話。

 そのほか、コラムや書評も充実。

(牧眞司)

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