キャバクラ代は経費で落とせるか?〜『あらゆる領収書は経費で落とせる』

文=杉江松恋

  • あらゆる領収書は経費で落とせる (中公新書ラクレ)
  • 『あらゆる領収書は経費で落とせる (中公新書ラクレ)』
    大村 大次郎
    中央公論新社
    814円(税込)
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 年末が近くなって、保険各社から控除証明書が届きだした。
 そろそろ確定申告のことを考えなければならない時期ということである。年が明けてから慌てなくて済むように、準備を始めましょう。
 そんな気持ちを見透かしたかのように、素晴らしい題名の本が出ていた。大村大次郎『あらゆる領収書は経費で落とせる』(中公新書ラクレ)である。わかりました。これを読んで勉強させてもらおうじゃありませんか。
 序章を含め、全7章。著者は元国税調査官のフリーライターで、『脱税のススメ』(彩図社)、『その税金は払うな!』(双葉社)などの挑戦的な題名の著書がある人だ。いや、別に脱税をしたいわけじゃないし、きちんと定められた税金は払うつもりですが。

 序章で簡単に説明されているように、本書は個人事業者を含む企業にとって最も重要な会計知識について書かれた本である。それは「計画通りに利益を残す」こと。当然企業の成績には浮沈があり、当初の予定通りに売上が出ないこともある。そのとき計画通りに利益を確保するためには、経費を増減するしかない。入るほうは制御できないが、出費はできるからだ。予想以上に売上が出れば経費を多く申告し、逆の場合は少なく申告する。そのことで利益を確保しようというわけである。売上が計画を上回ったときに利益を多く出しすぎないようにするのは、当然税金対策です。
 なんだ、じゃあ勤め人には関係のない話じゃん。
 そう思われる方もいらっしゃるかもしれないが、もしあなたが何らかの事情で転職や再就職を検討している最中だとしたら、本書の第1部「経費と領収書のカラクリ」に収められた4章は会社選びの参考になるはずだ。これは企業が自社の会計システムをどの程度戦略的に運用しているかということについて書かれたものでもあるからだ。
 著者は、福利厚生費という「魔法の杖」を用いて社員と会社の両方が得をすべきであると提案している。
 たとえば食事代。毎日の昼食代は日常生活において大きな負担となるが、その全額といえずとも一部分を会社が支給することは可能なのである。以下の条件を満たせば福利厚生費として認められる。

・半額以上を社員が負担すること。
・1ヶ月の会社の負担額が3685円以内であること。

 つまり1回180円の補助を月20日までは会社が出してもかまわないということだ。さらに夜食の場合、社員が残業をしたという実績があれば、会社は全額を支給することができるのである(残業の実績がなければ、その分は給料として換算される)。給料として社員に支給される金額には、当然だが個人の税金が課せられる。しかし経費であれば個人の税負担はない。そして当然だが会社はその分を節税分として確保することができる。こうした形で社員と会社が共存共栄することは可能、昇給以外の方法で社員に報いる手段として会社経費を考えようという主張である。
 食事代のように小さなものから、パソコン・自家用車の購入費、英会話などの研修費、旅行などのレジャー費、さらに家賃や持ち家の購入資金などの大物にまで話は及ぶ。さらに第4章では毎日の(毎日じゃないか)キャバクラ代を経費で落とすことは可能か、とか、キャバクラ嬢を愛人にした場合、それを経費にできないか、といったやや難度の高そうな応用問題も扱われている(芥川賞をもらった西村賢太が風俗に行く費用も経費で落とせるのではないか、と真面目に考えているところがおかしい)。悪いことを考えている社長さんは必読。実はこのテクニックは、個人経営の会社で家族を社員として雇用するときにも使えるものなのである。中小企業や個人事業者は熟読すべき章である。

 こんな具合にいろいろと応用がききそうなテクニックが開陳された本である。第2部「会計本に載っていないウラ知識」収録の2章では、会計に関するさまざまな思い込みが正される。たとえば「宛名が「上」になっている領収書でも税務署で認められる」「領収書がなくても経費は計上できる」というような。その根底には「申告納税制度」においては、納税者の申告が誤っていることを証明するのは税務署側の仕事であり、納税者の義務ではないという考え方がある。どのような経費であっても、申告する側が「それは仕事上で必要である」という説明ができれば、無理に追加徴税することはできないと大村は太鼓判を押してくれている。ぜ、税務署でごり押しされそうになったら『大村さんがそう言ってた』って言ってもいいですか? 経営者・個人事業者だけではなく、給料以外に副収入がある人でも本書の記述は参考になりそうだ。とても心強い。
 もちろんこれは領収書の改竄や捏造を勧めるものではなく、正規の手順で申告する者のみが税の恩恵を受けられるのである。その点勘違いなきように。

(杉江松恋)

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