【今週はこれを読め! コミック編】ロボットと幽霊、二人の少女の復讐譚〜Arata『APPLE AGE』
文=田中香織
「機械にも 心が芽生えたくらいの そんな未来。」で、メイドロボットのエルは家政婦として働いている。お人好しで感情表現が豊かな彼女だが、かつては失敗の多さゆえに職を失ったこともある。今の主人に拾われ、以来、欧州の港町で暮らしながら仕事に励む日々だ。
だがある日、エルの暮らしは一変する。平和を取り戻し、兵器としての役割を終えた機械たちは、人間に対し自身の権利を「デモ」という形で訴えるようになっていた。その様子を眺めながら「誰か(ヒト)の為に生きるって そんなに悪いことじゃないと思うけどな。」とつぶやくエルに、外出から戻った主人が思いがけない話を告げて──。
本作は、漫画サイト&アプリ「サンデーうぇぶり」で掲載されている。著者にとっては、初連載かつ初の単行本でありながら、紙版のコミックに巻かれた帯には、「萩尾望都」「あだち充」「大今良時」といったお歴々の名前と推薦コメントが並んでいた。その豪華さは、どこか懐かしさを覚える絵柄に加え、構成の巧みさと展開の上手さをも保証する。
主人から言い渡された突然の解雇を、エルは驚きつつも笑顔で受け入れる。これから政治家になろうとする彼にとって、少女型機械の彼女を雇い続けるのは、外聞が悪かった。その身勝手な言い分をエルが素直に飲み込んだのは、一途に彼のためを思ってのこと。さみしさを抱きながら、彼女は主人が手配した次の雇用先へ向かう船に乗り込んだ。しかし到着した先は、不法投棄のゴミがあふれる無人の島だった。
そうしてエルは主人の嘘に直面する。優しかった思い出の中の彼と、目の前の状況が結びつかず混乱するエル。そんな彼女の前に現れたのは、「リリ」と名乗る一人の少女だった。彼女は自らが「幽霊」だと告げ、エルにある頼みごとをする。それは、殺された自分の死体をゴミ山から掘り起こす、というものだった。
人よりも人らしいエルには、たくさんの感情が詰まっている。リリの死体を目にしたことで、エルはその死の理不尽さを思い知るとともに、自身に対する主人の仕打ちに向き合い、号泣する。いくら考えてみても、納得なんてできない。どうしてリリは、自分は、こんな風に捨てられなければならなかったのか──。
何者であっても、一方的に傷つけられてよい者などいない。泣き続けるエルに、リリは一つの提案を持ちかける。彼女の死体から取り出した武器─レミントン二連式小型拳銃(ダブルデリンジャー)─を使って、それぞれの復讐をしないか、と。その誘いはエルに、希望と背徳感が入り混じる、旅立ちへの一歩をもたらした。
紙版のコミックは、表紙の紙の手触りが一般的なものとは異なっていて、心地よくも儚げだ。その繊細さは、物語の内容を表しているといえるかもしれない。機械と幽霊、二人の少女の旅路を見守りながら、紙の本でその手触りを味わってみては。
(田中香織)

