【今週はこれを読め! コミック編】バカバカしくて愛しい時間を描く短編集〜白川すみれ『いつまでも青い春』

文=田中香織

  • いつまでも青い春 (MeDu COMICS)
  • 『いつまでも青い春 (MeDu COMICS)』
    白川すみれ
    ジーオーティー
    880円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HMV&BOOKS

 ある日のグループ学習中。小学4年生の葵は隣の席のまやと、消しゴムのカスをねりけしにして、ささやかにサイズを比べ合っていた。二人の様子を目にした向かいの席の裕太は、目を輝かせて参戦を宣言する。まっちゃんも含めた4人の班から始まった他愛ない対決は、その後、学年中を巻き込んだ男女別の大バトルへと発展して──。

「あったあった!」か「あったかもなあ!」か。いずれにしても、漂う懐かしさとバカバカしさが愛しくなる作品のタイトルは「ねり消し戦争」。本書の1作目に収録されている短編である。他の5つの読み切りとともに、webコミックサイト『COMIC MeDu』にて発表された。幼い時分にありがちな発想力と行動力が、パワフルなコメディとして展開される。

 なにせ、対決開始後の男子チームの名前は「サムライ軍」で、それを受けて立つ女子チームの名前は「ジャンヌ軍」。名が付いた途端、女子のリーダーたる葵の身体には、ジャンヌを連想させるツタの冠と鎧が描かれる。対決が終わるまで彼女の装備はそのままで、思い込みの力に満ちた小学生の目には、自他ともに、こんな風に見えていてもおかしくはないと感じさせる。マンガならではの表現がたまらない。

 ちなみに、その争いの最中には盗みや裏切りも発生するが、卑劣な選択や陰湿な態度に加担させない筋書きには舌を巻いた。現実世界では、これほど綺麗に事が収まることはおそらくない。それでも、後腐れのなさを含めて胸がすく。

 同じように、どの短編にも救いがある。2作目の「おうか!」は、優秀な一家に育った女子中学生・百合が、自身の高校受験を前に立ちすくむ話だ。仲良しのまりんは、専願で一足先に受験を終えた。彼女の選んだ高校は、百合にとっては滑り止め。抱いてしまった優越感と罪悪感に翻弄される百合の心を晴らしたのは──。

 気の合う友達とありもしないことを次々思い浮かべては、好き勝手に想像を膨らませて笑い合う。その時間がいかに大事で、得難いものか。くだらなくて、無意味で、ばかげている──だからこそ、そこには「光」が差す。2作目はもちろん、3作目、4作目からも、その思いを強く抱いた。

 5作目の「LIVE!」からは、やや毛色が変わる。趣味がなく、家でせんべいを片手にぼんやり過ごす主人公の女性は、彼女を心配した娘に背中を押され、20年前に解散したバンドの再結成ライブへと足を運ぶ。そうして物語のテーマは、認知症の祖母とその家族を描いた6作目の表題作へとつながっていく。

 あとがきに収められた簡単な相関図には、著者のユーモアを感じる。それを確かめるには、紙の本で読むのが向いていた。カバーをめくった下にあるイラストは、本編を読み終わった後にぜひ。

(田中香織)

« 前の記事田中香織TOPバックナンバー