どくヤン!あとがき鼎談「完全版」①
『どくヤン! ~読書ヤンキー血風録~』の刊行を記念して単行本におさまり切らなかったロングバージョンの作者鼎談をまるまる掲載! 誕生秘話から好きなキャラクターまで、『どくヤン!』の謎と真実を大いに語るぞ。
マンガ『どくヤン!』とは?
漫画・カミムラ晋作(以下「カ」):今回は本の雑誌社から発売された『どくヤン! ~読書ヤンキー血風録~』(以下『血風録』)の作者鼎談ということで。
協力・仲真(以下「仲」):単行本のあとがき代わりにとんでもない文字数の鼎談が収録される予定ですが、そこにも収まりきらなった分も含んだ完全版を〈WEB本の雑誌〉に掲載いただけるそうです。とはいえ、そもそも『どくヤン!』というマンガを知らない方も多いかもしれないので、最初に軽くその紹介を。
原作・ルノアール兄弟・左近洋一郎(以下「左」):〈本の雑誌〉読者には、2020年ベスト7に入ったマンガ、と言えば思い出していただけるかも知れませんね。
仲:ただ、どう説明すればいいんでしょうね。「読書ヤンキーギャグマンガ」としか言いようがないような。
カ:そうですねえ......。ただ、なんというか、『どくヤン!』をご存じない方向けの話から逸れちゃうけど、僕がちょっと気になっているのが、読者の方が本作をどう受け取っていたのかという点で。
左:ああ、たしかに。
カ:我々は、「ギャグマンガ」としてやっていたじゃないですか。でも、ギャグとして楽しんでくれた方も多いとは思うんですけど――
仲:普通に「良い本マンガ」として褒めてくださる方もいますよね。
カ:それは成功したというか、読書好きにも届いたとは思えるのですが、僕は「ギャグマンガなんですよ」と細々と言い続けてきたつもりで。
仲:我々の恐れもあり......。
カ:ですね。ギャグマンガなので、我々が大した読書家ではなく、変なところがあっても許してほしいという気持ちもありますし、あと、ギャグマンガだからこその作劇、登場する本の種類もあるじゃないですか。逆に「本物の本マンガならこれは出るだろう」みたいな本が出てなかったりもするだろうし。
仲:感動できたり、熱かったりする話もあるけど、やっぱり作り方はギャグマンガですよね。
読書とヤンキー
左:そうですね。大元は、本来あまり本を読まなさそうなヤンキーが本を読むギャップをフックにしたギャグマンガですよね。ただ、ヤンキーが読んでいるということで、偏りがあったり、読みが浅かったりすることがあっても許されるであろう、ということを期待して書いていたところはあります(笑)。
カ:ただ、単なる逃げではなく、そこにも意味は込めているつもりではあるんですよね。『どくヤン!』は着想から連載開始まで5~6年の期間がかかっていて、初期は本ネタギャグ少なめのバトルマンガで。そのシナリオを書いた仲さんが最初に私立毘武輪凰高校(通称「ビブ高」)の理事長に言わせた「本さえ読んでおればいいのだ」っていうセリフがあって、それが物語の骨子にもなっていて。
仲:そうですね。
カ:だからこその、物悲しさを含んだ面白さがあったと思うんです。最終回の内容にも繋がってますよね。悪人正機説に繋がる部分があるというか、ヤンキーだからこそ。
左:知識人なおもて本を読む、いわんやヤンキーをや。ですよね。
仲:(笑)。阿弥陀仏の救いじゃないけど、本は苦しみを抱えて生きている人たちのためにあって、苦しみを解消できずに不良をやっているけど、その救いが本の中にあった――的な話は絶対にあると思います。エゴサというか、作品名サーチで実際に本好きの不良を見た人、接した読者のツイートを拝見したりもしたのですが、本好きの不良が本にハマるのって、そういうところだと思うんですよね。
カ:僕は結構アルバイト先で、不良っぽい人が本やマンガをたくさん読んでいるのを見たことがあって。偏ってるけど読書量は多い、みたいな。だからそこら辺は体重乗っけて描けた気はしていますね。
仲:本さえ読んでいれば存在を許されるビブ校は学費がゼロ。生活費に困っていたり、普通の高校で爪弾きにされる不良が集まるという設定なので、読書漬けの学校生活に適応した読書ヤンキーたちは、元々本を必要とし、楽しめる魂の持ち主だったのに、高校までアクセスする機会がなかったわけで。そこには物悲しさも希望もありますよね。でも絶対に希望のほうが大きいとは思う。
左:僕なんか、普通のヤンキーは正直苦手なんですが(笑)、ヤンキーマンガのヤンキーはわりと好きなところがあり。そういうところは描いていきたい気持ちがありました。
仲:普通のヤンキーマンガもギャップが魅力になりますもんね。
左:ヤンキーマンガでよく描かれるところの「気合い」。それを読書に乗せたらどうなるか、っていうのはやりたかったことですね。
『どくヤン!~読書ヤンキー血風録~』だけ読んでも大丈夫?
カ:『どくヤン!』は〈Dモーニング〉で全27話3巻分連載されたマンガで、残念ながら打ち切り終了となり、講談社からは第3巻が電子版のみのリリースになってしまったんですよね。
仲:そこで本の雑誌社が手を挙げてくださり、3巻を紙で出版したのが『血風録』なのですが、この記事で初めて知った方は「3巻だけ読んでも......」と思われるかも。でも、ギャグマンガですし、大丈夫ですよね(笑)?
左:少なくとも、この記事を読んだ上であれば、まったく問題ないと思いますね。
仲:そうですね。鼎談の内容もそうですが、この記事に無料で読めるリンクも入れていただくので、そこで1~4話を読めばもう世界観はバッチリだと思います。
カ:あと身も蓋もないことを言ってしまうと、講談社のスマートフォンアプリ「コミックDAYS」をインストールしていただければ、連載2巻分の1~18話は無料で読めてしまうという(待てば無料のチケット制)。
仲:ですね、で、「コミックDAYS」で有料の話が『血風録』に収録されると(笑)。
カ:あと、僕のpixivFANBOXと仲さんが書いてる『どくヤン!』公式noteで振り返りを結構しているので、それも参考になるかと。
仲:でもそこら辺のテキストは後で作品が気になったら、で十分ですね。無料で読めるマンガと『血風録』があれば大丈夫!
・アプリを入れずともブラウザ上で1~3話が無料で読める、「コミックDAYS」の『どくヤン!』ページ(4~18話の無料閲覧は要アプリ)
https://comic-days.com/episode/10834108156683883577
『どくヤン!』Twitter公開エピソード
・1話
カミムラ晋作さんはTwitterを使っています 「本を読めないはずのヤンキーが読書する話 1/5 」 / Twitter
・4話
カミムラ晋作さんはTwitterを使っています 「なぜか読書好きのヤンキーに推しジャンルを押しつけられる話 1/5 」 / Twitter
・11話
カミムラ晋作さんはTwitterを使っています 「自制してたSF小説好きのヤンキーがついにSFの魅力を存分に話すチャンスを得た話 1/5 」 / Twitter
・12話
カミムラ晋作さんはTwitterを使っています 「司馬遼を読みたい俺なんだが母が藤沢周平推しすぎて辛い① 」 / Twitter
・25話(『血風録』第7話)
カミムラ晋作さんはTwitterを使っています 「ヤンキーがビブリオバトルをするとこうなる① 」 / Twitter
電子版3巻と『どくヤン!~読書ヤンキー血風録~』の違い
カ:分かりやすさで言うと、『どくヤン!』の世界観を伝えるあらすじ的な4Pマンガを『血風録』では描き下ろして収録していますね。
左:そう、だから『血風録』を読んでから講談社の1・2巻を読んでいただく、というのでも楽しんでいただけるんじゃないかと思います。
仲:そういえば、『血風録』の1話目、連載では第20話の「ストリートスナップ」という主要どくヤンが勢揃いするエピソードでは、少し変更を加えていて。
カ:あ、そうでしたね。
仲:連載初期は主要キャラが登場するたび、「私小説ヤンキー 獅翔雪太」みたいに属性と名前を出していたけど、ある程度回を重ねてからは出さなくなって。でも『血風録』の1話目は初見の方も多いだろうから、みんな名前を出すようにしました。
カ:で、1巻のアイツが。
仲:本作には我々が「モブヤン」と呼んでいる、名前が出てこないモブだけど半レギュラーなヤンキーがいて、その中の一人で単行本1巻の表紙にもなっているヤツがストリートスナップ回にも登場するけど、モブなので連載版や講談社の電書版3巻では名前が出ていないんです。しかし、他のヤツの名前を出すのに、ここだけないのは初見の方にはわかりにくいかと思い、『血風録』のために命名をしています(笑)。『転生したらスライムだった件』だったらメチャクチャ強くなるイベント。
左:単行本の表紙は、割と連載の担当編集者・鈴木さんや、講談社サイドからも意見があったんですよね、「主要キャラじゃなくていいのか?」って(笑)。結局その後2巻も3巻もモブヤンが表紙で。
カ:僕は成功だったと思っていますね。あと、そもそも主要キャラの格好がヤンキーじゃないというか。私小説ヤンキーの獅翔はバンカラだし、SF小説ヤンキーの済馬は変なギミックついてるし。
仲:済馬はもはや異形(笑)。
カ:みんなあまりヤンキーヤンキーしていない。それに主要キャラは元々本読みが多い設定で。ビブ高に入ってこそ変わった、読書に目覚めたキャラ、っていう意味では「入ってから読み始めたなコイツ」って感じのモブヤンが相応しいような。
仲:売上的にはマイナスだった可能性はあるけど、モブヤンのほうが美しい気がしますね。
カ:単行本の表紙で、本に向かって泣いたりドキドキしたりとか、強い感情を出してるけど、それもキャリア初期の熱狂だと思います。
左:多分......年老いてからもビブ高のことをずっと言うのは彼らというか......。
カ:「あそこで人生変わったんじゃ」的な(笑)。それが最終回でもよかったなあ。
仲:それは美しいなあ。ジュブナイルヤンキーの三栖田とかは走馬灯に児童館も出てきそうだし、良くも悪くも他に居場所がある。
描き下ろし6P! カバー下・あらすじマンガ
仲:電子版と『血風録』の違いに話を戻すと、紙版1・2巻の読者にはお馴染みの、済馬が児童SFを紹介するカバー下マンガ2Pも描き下ろしで入ってますね。
カ:あれは結構良い評判をいただいていたけど、電子版3巻では三栖田のおまけマンガに済馬を出すので済ませちゃったんですよね。カバー下という空間が電子にはないから。それを新たに入れて、児童向けSFへの熱い思いを出させていただきました。僕はなんだったら児童向けSFが一番好きなくらいで。
仲:そしてさっきも触れたあらすじマンガも4P描き下ろしています。
カ:あらすじマンガに出てくる本は、全部1~2巻のどこかに出てきた本なので、『どくヤン!』をご存知の方はニヤっとしてくれるかもしれませんね。
仲:あと、目次も今回、左近さんがサブタイトルを振り直しているという。
左:僕はわりとサブタイトルを担当編集者に任せて、単行本でつけ直すことをやるのですが、それを(笑)。講談社の3巻であれば変える必要はないかなと思い、そのままにしていたのですが、今回別の一冊ということで変えました。
仲:『血風録』感がある。
カ:金とか、読書とか、下側がもはや概念なのがいいですよね。
仲:凄い戦い。基本的に勝ち目がなさそうな(笑)。
カ:かなりでかい相手ですよね。
仲:あと、初見の方向けに「ここで触れてるのは2巻に出る話です」的注釈を入れていたりもします。それだけを見ると「さらに金を出させる気か!」と思われるかも知れませんが、全部「コミックDAYS」のアプリなら無料で読めるので、ぜひ該当エピソードもチェックしてください。
解説・北原尚彦!!
仲:あと、『血風録』にしかないものと言えば、本編の後に我々の鼎談も載っているけど、なんと言っても北原尚彦先生の解説ですね。
カ:これは本当にもう......。
左:本当にありがたいですね。これだけでも――
仲:血風録8話、連載26話のテーマにも関係するから簡単に言えることではないけど、解説のために買ってもいい......。
左:そうですね。
カ:いや、本当に。
仲:文庫ではままあるし、ゼロじゃないとは思うけど、マンガの単行本に小説家の解説って相当珍しいんじゃないでしょうか。
カ:それに北原先生って、解説もたくさん書かれていますよね。本当に"プロの解説"。
仲:その末席に加わっていいのかっていう。「北原案件」に入ってしまった。
カ:あとそもそも、解説の中で触れられていますが、北原先生がいなかったら本の雑誌社での書籍化はなかったので、本書の教祖と言っていい(笑)。
仲:誤植で「北原尚彦・著」ってなってても我々まったく怒らないですよね。
カ:間違いない(笑)。あと、今回の出版の端緒とも言える〈本の雑誌〉の2020年11月号に北原先生が書いてくださった「今こそ『どくヤン!』を読め!」もセットで読んでほしいなあ。
仲:在庫がまだあるならぜひバックナンバーを通販でお買い求めいただきたいですね。解説とダブル読みが最高だと思います。
カ:実は、最初『血風録』が出るとなったとき、紙で出ないから電子版を買った紙派の方がたくさんいて申し訳なかったのもあり、『血風録』で特典をつける気はしなかったんです。自分でも「電子版だけ買っていただければ大丈夫です」って言うつもりで。でも、あまりにもたくさんの方にお世話になって出る紙版なので、だんだん「両方買ってほしいー」という気持ちになってきて、描き下ろしも色々入れて。申し訳ないと思う気持ちは変わらずあるんですけどね。
仲:僕もその気持ち、最初のほうはかなりあったんだけど、どうも『どくヤン!』の場合、日頃マンガは電子派だけど紙で買ってる、と言ってくださる方が目について、正直何もなくても電子版3巻持ってるのに『血風録』も買ってくださる方が結構いそうな気がするんです。そうなると、"本パン"のためだけに買っていただくのは申し訳なさ過ぎるなと......(笑)。
カ:あと写植もイチから打ち直したり、手間もかかってますからね。
仲:あ、写植といえば一つ珍しいことをしてます。出版社の慣例で「小さすぎて潰れないように」ということからだと思うのですが、漢字に振るルビは拗促音も小さくせずに入れる――たとえば「熱狂的」に英語読みルビを入れるなら「ファナティック」ではなく「フアナテイツク」となる。だけど今回、拗促音はそのまま小書き文字で入れているので、人名の読みなどで初めて明確な答えが出る部分があります。
カ:講談社版では分からなかった(笑)。マニアックだけど......。
仲:そこら辺気にされる方も5人くらいはいそうな(笑)。獅翔雪太が「せつた」か「せった」か、と書かれていた方もいましたし。その答えが遂に! では、『血風録』の話はこれくらいにして、『どくヤン!』そのものの話に行きましょうか。
『どくヤン!』誕生のキッカケ
カ:まずはキッカケから振り返りましょうか。左近先生が最終話コラムで触れているところは極力省くとして、7年前くらいに僕と仲さんで漫画家の知人に会いに旅行に行ったのが始まりですね。
仲:そう、その漫画家Aさんが「連載をもう一つ増やしたい」と言って、みんなでネタを考えたのがキッカケでした。
左:Aさんは『どくヤン!』に興味を示さなかったのですか?
仲:面白いとは言っていた気がするけど......。
カ:たしか仲さんがもう一つ挙げたほうを気に入っていたような。
仲:ちょうど江戸川乱歩の著作権が切れる直前で、当時出てきていた「ヤンデレ」という言葉にかけて『ランデレ』っていうのはどうか、と最初に挙げましたね。単なるダジャレですが、Aさんは「乱歩ネタでデレる」というお題を出されたらどうにかできちゃいそうな読書家で、読書とヤンキーというネタもその流れで出たんですよね。
カ:その旅行の半年後くらいに、僕も連載が終わって『どくヤン!』どうだろうと思って、仲さんに連絡して「じゃあやってみようか」と。ただ、最初期はバトル漫画だったけど、それでも読書とヤンキーというネタ自体がギャグなので、「誰かギャグを書ける人がいるといいよね」という話になり......。
西村賢太氏とサウナでタイマン
カ:その時点で左近先生と仲さんはお知り合いだったんですよね?
左:はい。カミムラ先生を紹介される前に、某サウナの飲食スペースでその話を聞いた気がします。
仲:ありましたね! そのサウナ、西村賢太さんお気に入りの場所で、左近さんが西村さんとサウナの中で二人きりになったこともあるんです。二人で西村作品の話をしながら飲んだこともあるはず。今思うと、か細い糸が張り巡らされていた感があります(※)。
左:サウナRで(笑)。だから僕らとしては、1巻の帯にご協力いただけたのは、必然というか......本当に最高の出来事でしたね。
カ:主人公が私小説好きになったのもその流れ?
仲:理詰めで考えた部分もありますが、それも大きかったですね。理屈としては、初期のバトル『どくヤン!』もジャンルに貴賎なしというのは前提、とにかく読んでるヤツが強い。ライトノベルは数を消化しやすいし、ラノベの中にSFやミステリーなど、様々なジャンルが包括されているのでオールマイティー。だから毘武輪凰高校の総番かつラスボスはラノベヤンキーでした。そんな万能の存在にエラーを起こせるのは、理屈じゃない圧倒的な個であり、ラノベとは水と油な感じがする私小説かな、と。
※〈本の雑誌〉にて『一私小説書きの日乗』を連載中の西村氏は、講談社刊『どくヤン!』第1巻に帯文を寄せている。
ラノベ対ヘノベ
仲:その上で、当時は西村作品の規格外のパワーにとにかくやられていて。
左:そうですね。
仲:またラノベが元気で、その他の小説は元気がなかった気がします。今なら少し感じが変わると思うんだけど、強いラスボスと弱い新入生の対比にもなるなと。
カ:当時は「ラノベ対へノベ(=ヘヴィノベル)」が柱でしたよね。
左:僕も、それが世界観の軸と聞いて、体育館の中に両国国技館の優勝力士の額みたいに、おすすめ図書がダーッと並んでいて、それが全部ラノベになっている学校に、へノベで一矢報いたい私小説好きがやってくるという。それは面白そうだと思ったんですよね。
カ:それ(体育館にラノベの額)が原初の絵ですね。
仲:当時は「日本の文芸はどうなるんだろう」とか本気で的外れな心配をしていました。
カ:ラノベを悪者にしたいわけではなく、そういう筋立てで不良ギャグをやりたいという。
仲:ですね。ラノベは元気だから、少し悪役にさせてもらってもいいだろうと(笑)。ヘノベの本が売れてほしいという思いが純粋にありました。
カ:連載も1~2年前だけど、当時とは違いますよね。最初期は単なるラノベヤンキーだったけど、阿奈沢流人は異世界転生ラノベヤンキーにしたし。僕らがラノベの事情をよく分かってなかったのもあるけど。
仲:たしかに当時、プロトタイプ版の総番だったラノベヤンキー・軽文読(かるべ・よみ)の中に異世界要素はなかった気がしますね。
カ:僕もSF関係のラノベは読んでたけど、他は全然でしたし。そもそも当時はギャグとバトルありきで、真面目な本ネタはそんなにイメージしていなかった。
左:本ネタメインになったのは講談社に行ってからですしね。
仲:ですね。話を戻しましょう。カミムラファンの編集者の知人がA社にいたので、僕が書いた文字シナリオを読んでもらったら興味を示してもらえて。そこで左近さんも加わって作ったネームを提出したところ、リアクションが芳しくなく......。
カ:でも我々は面白いと思っていたので、めいめい伝手を頼って見てもらったんですよね。
仲:今でも、カミムラさんがB社で言われた「面白いと思うけど、売り方が分からない」という評は覚えてます。
カ:ありましたね。ある名物編集者さんが評価してくれて、編集長からも好評だったけど、売り方が......(笑)。
仲:当時はマンガのウェブサイト連載の黎明期で、マンガアプリも「マンガボックス」といくつか、という程度だったような。だから新連載を決める=雑誌の枠を一つ割くことなので、決断が難しかった気がします。その後のB社を見るに、今なら「サイトかアプリでやらせてみるか」となっていたんじゃないかなあ。
カ:たしかに、今は一発ネタもむしろ歓迎な気はするけど、当時は過渡期だったような。で、そこからまた時間が空いてしまうんですよね。
左:そう、『どくヤン!』は構想5~6年を経ての連載なのですが、ずっと動いていたわけではなく。練り直してみましょうか、くらいのところで止まっていた時期も。
仲:ただ自分たちとしてはずっと面白いと思っていて、抱えたままでいたところに......。