どくヤン!あとがき鼎談「完全版」③

  • どくヤン! 読書ヤンキー血風録
  • 『どくヤン! 読書ヤンキー血風録』
    左近洋一郎,カミムラ晋作
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宮内悠介信仰

カ:僕は自分の推し作家である宮内悠介と野﨑まどに関して、ずっと内容に触れてこなかったことが心残りだったので、ここでがっつりプレゼンできて満足でした。ちなみにFANBOXで個人的なおすすめ宮内作品ベスト5を書いていたりするので、よろしければそちらも。

仲:宮内作品との出会いは、『盤上の夜』が出たときにリアルタイムですか?

カ:ですね。麻雀が出てくる本として話題になっていて、読んだら本当に面白くて。それ以降作品はずっと追っていて、宮内悠介先生は僕の中で特別な存在なんです。1巻のおまけマンガに無理やり『ディレイ・エフェクト』を入れたりはしましたが(笑)、内容についても触れたいなあとずっとチャンスをうかがっていて、ようやく出せました。

仲:あと「巨人・宮内悠介」(笑)。あのセリフ、北原先生にTwitterで話題にされてませんでしたっけ?

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『どくヤン! ~読書ヤンキー血風録~』93Pより。

カ:そうですね(笑)。信仰心が出てしまって。僕は小説家や漫画家を好き=人格的に尊敬しているとは限らないんですけど――社会不適合者だからこそ魅力的な作家もいると思いますし。でも宮内先生は人格的にも本当に尊敬できる方で。

仲:単にしっかりしている、ってわけじゃなくて、作品に結びついてますよね。そんな話をカミムラさんとしたことあります。

カ:考え方も非常に先進的ですよね。SF作家が旧態依然とした考え方を持っているのが僕は一番嫌なんです。未知や未来を描いていて、科学的な検証もバッチリなのに、考え方が古かったり偏っていたりすると......。できればSF作家には聡明かつ人格者であってほしいという、ともすれば矛盾しかねない願望があって。そうでないと未来が見えないというか。そんな、SFに対する理想を宮内先生に見出してしまっていて、ご本人には迷惑かと思うんですけど(笑)。

仲:SFのためのSFではなく、社会を変えるためのSFであってほしいというか。

カ:SFにはそういう可能性がある気がしていますね。「そのために書かれるべき」とはまったく思いませんが、可能性は含まれていると。

左:なるほど。野﨑まど先生も取り上げた『[映]アムリタ』から?

カ:ではなく、SFの『know』が最初でした。V林田さんが薦められていたのを見て読んだような記憶があります。そうしたら、これがメチャクチャ面白くて。こんな作家がいたのか......と驚き、遡って初期作品を読み始めたら、なんじゃこれおもしれー! となってハマっていった――という経緯ですね。

仲:そうなんですね。

カ:だから、実は最初『know』を取り上げたかった気持ちもありました。でもそうするとプレゼンターが済馬で被るし、『[映]アムリタ』のほうが野﨑まどファンも納得できるチョイスだと思ったのと、『2』に繋がる作品群を紹介できるのもあってバランスを考えてそうしましたが、『know』も超おすすめ作品です。

仲:僕もおすすめ回で小野和子『あいたくてききたくて旅にでる』を紹介できて嬉しかったですね。小野さんの姿勢は映画監督の濱口竜介に多大なる影響を与えていて、濱口さんが小野さんから影響を受け、そんな小野さんの人格に無名の人々の生活や歴史の集積が作用していることに感動します。あと、忘れずにいること、語ることも重要だけど、小野さんという稀代の聞き手がいなければ、東北の語り手たちと濱口竜介もリンクしていなかったかもしれない。そしてそうなると、日本映画史に残るだろう『ハッピーアワー』などの作品もおそらく生まれていないわけで、語りたい人が圧倒的に多い時代における聞き手の重要性を強く感じるし、小野さんの存在をもっと知ってほしいと思って取り上げました。

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『どくヤン! ~読書ヤンキー血風録~』102Pより。仲真はこれでも薦め足らず、『血風録』封入特典のおすすめ本ペーパーでも『あいたくて~』を薦めている。

カ:今思えば、序盤にこういうレビュー回みたいなのをやっていてもよかったのかもですね。

仲:続けられたかはわからないけど、序盤にこういう回をやっていたら『バーナード嬢曰く。』(※1)みたいな作品になっていた可能性もあるのかも。

カ:「本好きが描いてます」感を出せていたら違っていたのかもですね。でも、やっぱりそれだと続けるのは難しかった気もする。

仲:それこそ黒作者と白作者に分裂してしまっていたかもしれない(※2)。

カ:最終的には全部出しきった感も大きいかな。

左:そうですね。

カ:まあ、やれと言われればまだ全然描けますけど。

仲:ただ、たとえば〈本の雑誌〉などに新作読切を描かせてもらえる機会があったとしても、2年生はしばらく出せませんね(笑)。

左:そうですね、あの設定は最終回だからできた。作家ヤンキーは厳しい......。

仲:僕らが100年早いですからね......(笑)。

カ:村上春樹は仲さんのお友達で詳しい方がいたけど――。

仲:キングは全作品読んでる方がカミムラさんのお友達でいたけど、ご協力をいただけなくなっちゃったんですよね。

カ:(笑)。ヒヤヒヤしました。

仲:でも面白かったですね。四津谷に「オレも怖くないんだよな?」はよかった。

※1 施川ユウキ作の名著礼賛ギャグマンガ。

※2 Twitterでも公開中のエピソード「SF警察」参照。

化けた官能小説ヤンキー

カ:2年生2人、いいキャラクターでしたね。キャラクターの話もしておきましょう。お気に入りキャラをそれぞれ挙げてみましょうか。

仲:僕は官能小説の伽乃桃春ですね。

左:伽乃は色んなところでキーパーソンになりましたね。

仲:最初全然そんな予定がなかったのに。

カ:デザインも変わりましたね。最初はアダム徳永的なキャラデザだったけど、鈴木さんに「もっと分かりやすく」と言われてエロ坊主みたいな感じに。

仲:あんなユーティリティプレイヤーになってくれるとは。

カ:困ったら伽乃がギャグをしてくれる、みたいになったし。話を繋いでくれるし。

仲:まさかタイマン回で獅翔と済馬の幼馴染みポジションになるとは。連載前は名前だけ決まってる出落ち要員くらいの感じだったのに。修学旅行編でも主役になるし、漫画家がよく言う「キャラが動く」を実感しました。

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『どくヤン!』世界では筋が通っている、『どくヤン!』という作品でしか成立し得ない一コマ。伽野が"読気"を高めるべく手に持つは桜庭春一郎『淫らでごめんね 僕のかわいい奴隷たち』(フランス書院文庫)。画像は『どくヤン!』第2巻(講談社)158Pより引用。

カ:伽乃はどこら辺で跳ねたんでしょうね。修学旅行編の前から「こいつはいいヤツだ」という共通理解ができていて、女性読者にも人気があった気がします。

左:それこそ、ヤンキー漫画って「不良だけど優しい」的な魅力のあるキャラが出てくると思うのですが、伽乃も「エロいけど良いヤツ」的なところがありますよね。どうしてこうなったのかなあ......。

仲:なんとなくですが、やっぱりキャラクターには作者が投影されてて、でも伽乃は属性と名前しか決めていなかったから、無色透明で作者の色に染まった気がするんですよね。我々の望むほうに動いていったというか。自分で言うのもなんですけど、我々マトモなほうじゃないですか(笑)。

カ:たしかに、我々の思いを引き受けている部分はありそうな。左近先生も思う存分下ネタを言わせられるキャラでもあり。

左:そうですね。非常に使いやすいキャラだし。

カ:それで、仲さんも人格者的なところを望んでいた気がするし。で、僕も実はフランス書院には思い入れが。近くの書店からフランス書院の棚がなくなったことを嘆いていて(笑)。個人的には官能小説というジャンルが廃れないでほしいという気持ちはあったんですよね。

仲:それはアツい!

カ:あと、官能小説自体をちゃんと読んだのは『どくヤン!』が始まって以降ですが、子供の頃、親父の本棚の本を勝手に読んでいて、その中で官能的な描写を探すことをしていました(笑)。

仲:26話(『血風録』では8話)で伽乃に語らせたように、昔は普通の小説と思って読んでいてお色気シーンが来ると、得した気分になりましたね(笑)。あと、旅行本ヤンキーの奥野外道も印象的です。修学旅行編で『顔ハメ百景 長崎天領ぶらぶら編』や旅行ガイド本を取り上げるためだけに召喚された感のあるキャラクターだったのに、お二人の魔改造によってその修学旅行編のクライマックスで大活躍したのが面白かった。そして、『あいたくてききたくて旅にでる』の紹介役にもなってくれて。

左近洋一郎と官能小説

左:そういえば、少し話が変わっちゃうかもしれないけど、僕は下ネタメインのギャグをずっと作ってきたから、いかにも官能小説好きそうじゃないですか(笑)。でもそうじゃなくて、官能小説と距離を取ってきたんだけど、それには理由がありまして。

仲:そんな話が!

左:官能小説に対する興味は全然あって、子供の頃に書店でその棚に視線を送ったりはしていたんだけど、官能小説と思われるゾーンで左近隆という作家が幅を利かせていた時期があったんです。これが、親父と同姓同名で漢字まで同じだったんですよ。

一同:(笑)。

左:「そんなわけない」と思いつつも、10代だから確認できず。「読んではいけない」という気持ちが。

カ:自分の親かと思うとキツいかもですね......。

左:まあ、今思えば本名で書くわけないんですけど(笑)、今日まで確認しないままですね。

仲:これは超重要エピソードというか、ルノアール兄弟に繋がっている気がします。

カ:たしかに。何かしら縛りがあると、ブーストされるところがあるのかもと、左近先生を見ると感じますね(笑)。

左:だから官能小説には複雑な思いがあるんです(笑)。

仲:(国会図書館のウェブサイトで「左近隆」で検索し、その結果を共有する)こうしてみると時代小説を書いてるけど、艶笑要素含んでそうなタイトル多いですね。『欲望の果て』、『夜鷹大名』、『濡れがみ若殿』、『若さま春街道』とか(笑)。若殿シリーズや若さまシリーズがたくさんある。

左:官能小説は書いてなかったのかなあ。見た記憶があるけど。

仲:この頃は「あまねく書物が文化である」的な考えがまだ少なくて、官能小説については国会図書館に蔵本する習慣がなかったんじゃないかな。今はフランス書院の本もあるみたいだけど。

左:なるほど......、いや、これは決めました。今後左近隆を読んでいこうと思います。

仲:おお! これ、〈本の雑誌〉で連載させてもらえないかなあ(笑)。

左近の好きなキャラクター

カ:凄いエピソードに話が逸れてよかったのですが、好きなキャラクター、左近先生は誰になりますか?

左:僕は......、橙併次(レシピ本ヤンキー)と鬼積読永遠(積読本ヤンキー)ですかね。

カ:なるほど。理由は?

左:橙はまず名前が気に入っているのと、連載前の旧バトル版で、主人公の前に最初に敵として立ちはだかったキャラなんですよね。僕は元々テレビの料理番組やレシピ本が好きで、身近な存在だったんです。それを『どくヤン!』という読書マンガの中にはめ込めたのが、自分としては嬉しかったことですね。

カ:たしかに、彼の存在によって「小説だけじゃないんだ」っていうのを見せられた。

左:だから有力キャラじゃないけど、凄く思い入れがありますね。「本」の殻を破ってくれたというか。

カ:言われてみると重要なキャラですね。

仲:そういう感想を書かれている読者さんもいたなあ。本連載一発目で濃い小説とかじゃなかったのは大きかった気がしますね。

カ:永遠はどうですか?

左:永遠は始まりからして悩みのあるキャラなので、彼だけは普通のキャラクターというか、好きにできたのもあり。本を読みたいけど読めない、という自分を投影できたし。あと、読書好きだけどそこまで読んでるわけではない、みたいな中途半端な立ち位置のキャラクターを元々どこかで出したいと思っていたんですよね。

カ:たしかに、我々のコンプレックスも投影されているキャラですよね。

仲:積読してるヤツ、ってこと以外何も設定してなかったから、中身があんな可愛げのある性格になったのは、左近さんの愛が注ぎ込まれていたんですね。

カ:『どくヤン!』の続編があるなら、永遠が主人公でいいくらいかもですね。永遠の初登場回、僕は大好きで。ストーリーがキレッキレですよね。獅翔のセリフもいいんだよなあ。

仲:「言っとらんよ、そんなことは言っとらん」とか2回言うの。

カ:そうそう。獅翔も数をそれほど読むわけではないからこその共感があるんですよね。話が収束していく感じも最高ですし、今の思い入れを聞くと、より渋みが出てくるなあ。

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『どくヤン! ~読書ヤンキー血風録~』80Pより。カミムラ晋作の作中屈指のお気に入りセリフ。

カミムラの好きなキャラクター

左:カミムラ先生は?

カ:やっぱり僕はSF好きだから済馬ですね。

仲:少し頑固なところもある感じとか、カミムラさんを投影しているところもある気がしますね。

カ:「SF警察」でもSF警察的な物言いは自重しようとしていますからね。SF初心者に嫌がられないようにという危機意識はあって、でも本音では全力で語りたい。そのじれったさみたいなところが好きです。

左:済馬はたしかに、全部精査すると絶対いいヤツなのに、全体の印象だと単に「性格いい」と言われにくいというか、不思議な人物ですよね。

カ:伽乃とか夜見木とか、ストレートな好人物が他にいるのもあるけど、我が強いんですよね。

仲:タイマン回では、これでもかと、過去にその我の強い感じを入れてきましたね。漫画家の後付け能力の凄まじさを思い知りました(笑)。

カ:あと、地代も好きですね。「智将ぶってるがただ単にケンカが強ぇ!!」(※)が印象的だったし、母親との話もあったし。

仲:地代のケンカにおける陣形問題は精査されるべきでしょうね。あと、真面目な話をしているときでも、地代が時代がかった口調で入ってくるおかげで「ギャグマンガなんだな」という感じを出せるのもいいですね。

カ:で、家では普通の口調っていう(笑)。それも可愛いなあと。ただ、可愛いで言えば基本的にみんな可愛いですね。

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自宅では武将である前に一人の息子となる時代小説ヤンキー。画像はTwitterより引用。

仲:本質的に性格悪いキャラはいない。

カ:そこら辺は読者さんに分かってもらってる気がしますね。悪いキャラを出すと、その本のジャンルも下げてしまいかねないし。

仲:純粋なワルは修学旅行編の長崎の不良だけという。逆に本を読まないヤンキーのみなさんには申し訳なく思いますが。

カ:昔はビブ高以外のどくヤンがいる学校の存在について検討していたこともあるけど、そんな敵キャラが出てきたら読書するワルもいるのかもしれませんね。

仲:ファスト読書高校とか(笑)。

カ:要約サイトとかありますよね。ビジネス書メインだけど、「flier(本の要約サイト)」を見たことがあります。

左:要約は明らかにどくヤンの敵ですね。

仲:ただ我々の敵ではないので、『血風録』はどんどん要約いただき、人目に付かせてほしいです......!

※『どくヤン!』第2巻所収の第10話「ラノベを読め!」で、地代は阿奈沢率いるラノベ派に鋒矢の陣で挑み活躍するが、陣形の効果の程は定かではない。

描き残したこと

カ:反省点や描き残したことについても話そうかと思っていたのですが、ここまでで結構出ましたね。何か描きたかったこと、左近先生は他にありますか?

左:そうですねえ......。まだまだ続けたかった思いはあるけど――

カ:続きは全然描けたとは思いますね。でもやりたかったことは大体できた、みたいな感じですか?

左:そう思います。

カ:ああ、そういえば僕は、阿奈沢とのラノベ抗争はもう1回くらいやってもよかったと思うかなあ。連載開始以降ラノベを結構読んだので、今なら描けることもある気がします。

左:そう言われてみると、僕も元々考えていた本やジャンルの話はできた気がするけど、キャラクターたちが出揃って世界観ができた今の状態で、人物主体で動くエピソードはやってみたかった気がしますね。

カ:なるほど。キャラクターがあれだけいれば、やろうと思えば何でもできますよね。意外な二人が仲良くなる話とか。あと掘ってない人物もいますね、絵本ヤンキーの夜見木とか。

左:彼なんてただの善人ですからね(笑)。

仲:児童館で読み聞かせしてるときの絵はヤバかった。

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『どくヤン! ~読書ヤンキー血風録~』54Pより。『どくヤン!』慣れしている人には平和な光景だが、そうでなければこれも異様な光景に映るのかもしれない。

カ:夜見木と三栖田の間にいざこざが起こる話とか面白いかもですね。

左:夜10時に二人が河原で決闘するとか。

仲:二人がぶつかって人格が入れ替わったりとか。

カ:ギャグマンガだから、そういう無茶をしちゃってもいいんですよね。

仲:今後読切の依頼が来て、この話し合いが無駄にならない可能性もありますからね(笑)。

カ:描かせてもらえるなら、やりたいですね。

仲:そういえば、取材が必要な話をやってみたかった気はします。書店とか図書館とか、『100分de名著』的なテレビ番組の裏側とか。あと、ビブリオバトルは最終的にクラス内のタイマンイベントになったけど、大会を取材して、普通のビブリオバトルにどくヤンが紛れ込んでしまった――みたいな内容にしようか、なんて相談もしてましたよね。

カ:なるほど。どくヤンが校外に出ると異質さが際立つから、やりやすそうですね。

左:そういえば、修学旅行編の中身を考えるときに、国会図書館とか、そういうところに行くのが必須だろう、みたいな話し合いもしましたね。

カ:取材かあ。それこそ出版社に行く話もできますよね。書庫にそこでしか見られない本や資料がたくさんありそうだし。あと、キングの『ミザリー』みたいに作家に絡む話とか。

仲:どくヤンは純粋な好意しかないのに『ミザリー』みたいに恐怖を与える、とかあるかも。本人的には普通のファンレターのつもりなのにぶっ飛んだ手紙、とか左近先生が書いたら凄そうな(笑)。

カ:『ミザリー』っぽいのは無限にできそうですね。他にも、社会科的プログラムでスマホを与えられ、SNSで作家がイメージと違うとかショックを受けちゃったり(笑)。

左:Twitterとの付き合い方は難しいかもですね(笑)。

仲:獅翔は名言botとかを作家本人と勘違いしそう。

カ:自分が大好きな本が思ったより売れてなくてショック、とか、ネットのレビューが低評価な中で自分の意見を曲げずにいられるかとか――。

左:あと、今話していてふと思い出した。僕は手紙のやり取りで描かれる書簡体小説がミステリー的な要素があったり、文体が違ったりで楽しくて好きなんですよ。書簡体小説ヤンキーが果たし状を書いたりとか、そういうのがあってもいいかなと思いましたね。

仲:文通相手への文面を悩んだり。

左:それも真面目なつもりなのに妙な内容になってるのかもしれませんね。しかし、こうして話していると、連載前に思いもしなかった切り口がまだありますね。

カ:冒険小説なんかも、大きなジャンルだけど取り上げてこなかったですね。お金回で西村寿行は名前が出たりしたけど。あ、あとエッセイ・コラムはできなかったな。

仲:ああ、やりたいと話したことは結構ありましたね。

左:エッセイなんて本当に果てしないジャンルですよね。

仲:そういえば、おすすめ回の候補で中村文則『自由思考』をピックアップしてました。小説のイメージに近しい感じの、デビュー前の鬱々とした時期の話や、太宰やドストエフスキーの作品紹介や、政治に対する厳しい意見などがメインだったと記憶しているんだけど、『ONE PIECE』の素晴らしさを力説するエッセイが収録されていまして。

カ:そうなんですか。

仲:勝手な偏見だけど、『教団X』みたいな作品は大好きで『ONE PIECE』には興味がない本読みってそれなりにいる気がしていて。その点と、その話を講談社のマンガでする、というダブルの意外性があっていいんじゃないかと思い。

左:それは面白いですね。

仲:ただ、最終的には『あいたくてききたくて旅にでる』を熱く語りたい気持ちが上回りました。

左:なんというか、機会があるのであれば、今後『どくヤン!』をそういう風に笑える話を紹介していくマンガにしたいですね。『こちら葛飾区亀有公園前派出所』みたいに(笑)。

カ:なるほど。ジャンプの連載が終わった後も、『こち亀』の新作は時折発表されているし201巻も出ますもんね。いやあ、『どくヤン!』まだまだできますね(笑)。

仲:これが締めの話によさそうですね。『どくヤン!』はまだ終わっていない。

カ:終わってないですね。ご依頼お待ちしております!

講談社への感謝

カ:そうだ、この鼎談前に北原先生の解説は拝読済で、この本の出版経緯が詳しく触れられていたから我々は話すことはないかなと思っていたけど、一つ挙げるとすれば、講談社、特に担当・鈴木さんのご協力の大きさですね。

仲:そうですね。さっきも言いましたが、2巻が紙で出たこと自体が驚きの部数だったので、"本パン派"の読者様も、講談社を悪く思わないでいただければと......。

カ:全27話で終了、2巻以降で驚くほど反響が出たりしない限り、基本3巻は電子版のみという話になった時点で、終わった後に他の出版社に持ち込みをするとか、紙版だけ別の出版社で出すという選択肢は考えていて。

仲:カミムラさんの『マジャン〜畏村奇聞〜』が、商業出版で出なかった3巻以降をプリントオンデマンドで出版したケースもありましたし、3巻が講談社から紙で出ないとなった時点で、電子版のみの契約をして、写植など講談社に権利があるもの以外は細かいやり取りをせずともそのまま使えるように、始めから相談していたんですよね。『血風録』も講談社版と同じ田中秀幸さんが装丁を担当してくださり、本棚で3冊並んでも違和感ない仕上がりになっているかなと。

カ:その件についてもご協力いただけて、本当にありがたかったですね。

仲:では、講談社の皆様、そしてもちろん、本の雑誌社の皆様、応援していただいた読者の皆様に心より感謝を申し上げて、締めといたしましょう。

一同:ありがとうございました!

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