どくヤン!あとがき鼎談「完全版」②

  • どくヤン! 読書ヤンキー血風録
  • 『どくヤン! 読書ヤンキー血風録』
    左近洋一郎,カミムラ晋作
    本の雑誌社
    1,100円(税込)
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モーニング「プロ賞」への応募

カ:多分「プロ賞」への応募まで1年以上時間がありましたよね。

左:そうですね。ある日仲さんが〈モーニング〉を読んでいて、商業出版経験済みの作家限定の「プロ賞」という賞の応募を見つけて。第1回のテーマが「バトル」だから、応募してもいいのでは......と。

カ:ですね。それでバトル要素を強めるネームにして送ったという。

仲:ただ、受賞したわけではない。その後毎週目を皿のようにして〈モーニング〉を読んでいたけど、たしか第2回の募集はあったものの、1・2回とも発表は特にないままフェイドアウトしているはず。プロ賞に応募したという作家さん、もしいたらご連絡ください(笑)。

カ:でも、受賞したわけではないけど、「担当して連載会議に出したい」とモーニング編集部の鈴木さんから連絡をいただけたので、プロ賞きっかけで連載になった作品は他にもあるのかも。

仲:僕は雑誌を読むとき、「こんなところまで読まなくても」と自分でも思うような、健康食品PR記事なんかまで読んでしまうタイプで、プロ賞を見逃さなかったのもか細い糸の一つですね(笑)。

左:今後も我々はプロ賞出身というのを強く訴えていきたいですね。それで、〈Dモーニング〉での連載を狙って、今のような本ネタメインのギャグにしていこうとなったはず。連載会議はDに限らず、〈モーニング〉本誌や〈モーニング・ツー〉も合同だけど、特にDの編集長が気に入ってくれていたとかで。

カ:それから何回か打ち合わせをして、ギャグを強めてバトル要素を削る形にしていきましたね。わりとあのとき、僕は困惑していて。バトルが描きたかった思いがあったので。

左:ヤンキーですからね。

カ:自分が大した読書家じゃない自覚があったから、本ネタでいけるのかという不安もありました。

左:まっっったく同じ気持ちでした。

仲:そもそも最初期は、本ネタメインでやっていくのは難しい、という思いもあってバトルメインにしたところも。

カ:そうですね。バトルものにすると、ヤンキーが読書について真剣に戦うだけでギャグになるし、1ネタで数話作れたりするけど、バトルがないとギャグが主役になるから、必要な本ネタの量が大分変わってきますよね。ギャグマンガが大変なのもそれで。

仲:それこそルノアール兄弟(※)作品なんて、あんな濃いキャラを次々生み出して1・2話で去っていくんだから凄い。

左:たしかにずっと考えてます。「俺はこれを考えるために生まれてきたのか?」とか思うことも(笑)。それに下ネタのダジャレならともかく、本ネタは本当に読書しないといけないですからね......。

カ:とはいえ、最初は3話の短期集中連載だったから、それだけならどうにか、という感じでやりましたね。

左:そうか、そうでしたね。あと集中連載というか、実際は一挙3話掲載になって。

仲:あれはカミムラさんが編集サイドに掛け合ってくれたんですよね。

カ:ゴールデンウィークまたぎの掲載予定で、さらに隔週掲載予定とかだった記憶があります。「ギャグで2週間以上空くと絶対に忘れられてしまう」と思って。

左:誌面の上限がない〈Dモーニング〉だからできたことで、よかったですね。

カ:でもシステム的に可能とはいえ、わりと無茶ではある(笑)。僕がずっとありがたく思っているのは、担当の鈴木さんが『どくヤン!』のファンでいてくれたことですね。

仲:SNSに毒されて「漫画家を詰めまくる編集者」の幻影を見たこともあったのですが、鈴木さんはネームもいつも面白がってくれて、根本的な直しとかは一度もなかったですよね。あと、ただでさえ許諾等が面倒な作品だったと思うけど、我々に可視化されていないところでも面倒を多々引き受けてくれていた気がします。

カ:校閲から修正の要望があったけど、我々がギャグを優先してママイキとしたい表現などでも、鈴木さんはこちらの味方でいてくれましたね。

※左近洋一郎が原作を担当するギャグマンガコンビ。

1冊読めば「分かる」本

仲:そうして本連載になって。僕は一発目の話で出てきた池波正太郎『梅庵料理ごよみ』(『どくヤン!』第1巻所収の第4話「派閥」に登場。Twitterでも公開中)を、左近さんが発見したタイミングが気になっているのですが......。池波正太郎はかなり読んできたほうなのですが、あのシナリオには度肝を抜かれました。

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『梅庵料理ごよみ』を持つレシピ本ヤンキー・橙併次(だいだい・ぺいじ)。画像はTwitterより引用。

左:あれは、僕が浅草近くに住んでいた頃、台東区立中央図書館の中に「池波正太郎記念文庫」というのがあって。時代小説もそうですが、池波正太郎といえば料理というのも頭にはあり、そこで見つけました。そのとき、「俺は池波正太郎を読んでいないが、この本は使えるな」と勘が働きまして(笑)。もう、そういう嗅覚が全てです。「俺はそこまで読んでいないが、これはどうにかなる」という勘がどこかで来る。

カ:なるほど。それがあればどうにか――。

左:もう、そこだけが頼りという感じですね。

カ:この仕切り直し4話、本連載1話目の『梅庵料理ごよみ』と、読切1話の丹道夫『らせん階段一代記』がなかったら、『どくヤン!』は無理だった気がしますね。これらがあったから、どうにかいけたというか。

左:僕は本当に読書家ではなく超遠浅にいる状態だけれども、読書の深淵にいる人でも見えていないような本を探していきたい、的な気持ちはありました。そういう本ならどうにかやれるんじゃないかと。

仲:実際『どくヤン!』を応援してくれた方々はツワモノが多いですよね。

左:本当にツワモノばかりなので、滅多なことはまず言えない。

仲:でも『らせん階段一代記』は読んでいない方が多そうだし。

左:読んでいる方もおられると思いますけど、『らせん階段一代記』についてはその1冊を読むだけで「読んだ」ことになるというか(笑)。

仲:たしかに、「この1冊を読んでいるだけで他のどくヤンに長じることができる」的な本はありますよね。1話のストーリー自体がそういう話ですし。

左:そういう意味で言うと、狡いヤツだと思うのですが......。

カ:でも4話にやられた読書家は多かったと思いますよ。その次の5話に出る寺山修司『ポケットに名言を』も左近先生の好きな本でしたよね。やっぱり左近先生が好きな本、自分で見つけて勘が働いた本が、話を研ぎ澄ませている気がしますね。

左:読書好きって分岐点がある気がしていて、分岐点は最初に読んでいた場所の近くにあって、そこから先が長い道がいくつかある。で、僕は分岐点の近くにいるけど、遠くに行きたい気持ちだけはある(笑)。それで、分岐点近くに来た人に「あっちに行くといいよ」って言う役割のオッサンというか。

カ:本を網羅的に読んでいなくても、本好きがピンとくる本はある程度分かることがある気がしますね。楔を打ち込むことはある程度できたような。

思い出の本

カ:作中に出る本の話が出たので、各人が印象に残る本をベースにして振り返りをしてみましょうか。

仲:僕はやっぱりさっき聞いた『梅安料理ごよみ』。あれがどくヤン世界の全ての入り口になったような。

カ:それで言うと、同じ理由で僕は『らせん階段一代記』ですね。先程も触れましたが、本ネタメインでやっていけるのか......という不安を晴らして「どうにかなるか」と思わせてくれた本で。左近先生は読んでみていかがでしたか?

左:関東以外の方には通じない話になりますが、「名代富士そば」の店内に入ると、必ず丹会長が作詞した演歌のCDと、本のポスターが貼ってあるんですよね。僕は本当によく利用していたからずっと気になっていて、『どくヤン!』のおかげで読むキッカケを得られてよかったです。

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周囲のどくヤンたちのリアクションから、ビブ高の所在地がある程度絞られる......? 画像はTwitterより引用。

カ:あと、上がってきたシナリオや実際のマンガの内容も印象的だけど、打ち合わせの時も印象に残ってるんですよね。たしか居酒屋で飲みながら話していて、左近先生が『らせん階段一代記』を読んだ話をされて「富士そばの中で買えるんですよ」って笑い話的に言っていた気がするんですけど、そこから「これを1話のラストに出せば締まるんじゃあ」という話になって。

左:関東圏の方は富士そば店内で存在は知っている人が多いけど、読んでいない人が大部分で、そういう意味でも面白いフックになる本ですよね。

カ:教科書には載ってない、変則的なスマッシュみたいなパンチというか。

仲:富士そばがない地域の方からしたら完全に意味不明で、それはそれで見えない謎のパンチですよね。

左:講談社出版サービスセンター(現・講談社ビジネスパートナーズ)が版元だったのも驚きでした。

仲:たしかに! 何年前くらいからか分からないけど、いつの間にかネット通販で買えるようになっていて、そこで僕も初めて知ったのですが、あれは感動しましたね。

左:よくできているというか......。

仲:僕は『どくヤン!』は講談社以外の作品を出してナンボ、と思っていたりもしたのですが(笑)、『らせん階段一代記』に関しては完璧だなあと思いました。

カ:そうか、そういう意味でも締まっていたんですねえ......。本当にあれがあったから連載できる、と思えた本です。これは強く言っておきたい(笑)。

左:僕は序盤なら『亞書』(『どくヤン!』第1巻所収の第8話「闇購買」に登場)ですかね。本当に悩んでいたんです。読書家ではない自分が何をできるのか、何をしていいのかというのに。そこで『亞書』というある種の偽物がテーマに挙がったから、開き直れたというか。それで、自分の知っている本ネタ、作家ネタなんかをどんどん突っ込んで無茶苦茶やってしまった。あの頃、1冊の本や1人の作家をテーマに濃い話を作ろうとしていたら、しんどかった気がしますね。

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当時ニュースにもなった『亞書』。画像は『どくヤン!』第1巻(講談社)149Pより引用。

カ:『亞書』は存在自体がファンタジックだから、話も凄かったですね。あのエピソードは話題になっていた記憶があります。序盤の作劇は大変でしたか?

左:大変というか、ずっと恐れていた感じです。

カ:たしかに、最初のほうは我々が読書家でないことへの恐怖が凄かった。みんなでクラウド上に読書感想文を共有したりして。

左:それこそドッカンのノルマみたいな(笑)。

カ:仲さんも書いていたりしたけど、あまり使えなかったですね......(笑)。僕も読んではいたけど書く暇ないし、あんまり増えずに。

仲:ベースの読書量は大切なんだろうけど、本からネタが生まれるケースは少なかった。話の方向性を決めて、どうにかそこに本ネタをねじ込んでいく作劇がメインでしたね。

カ:その闇購買の後にラノベ抗争。さっきのような経緯があるので、満を持した感がありました。

仲:あと単行本が出るか、連載が続くかも分からない時期だったから、出し惜しんでいる場合でもなかった(笑)。

カ:ですね。あと、ここで電子書籍とかマンガとかの扱いに、少し線を引けたのがよかったですね。

仲:スマホ禁止は便利(笑)。どこかでミステリー作家さんが、スマホがあるせいで近年は話作りが大変、と語っていたのを読んだ記憶があるような......。

カ:マンガ以外の物理書籍を読むのがどくヤン、みたいなのをここで出せたのは大きかった。方向性も固められましたね。

「SF警察」に本物のSF警察出動

カ:次がSF(講談社刊『どくヤン!』第2巻所収の第11話「SF警察」。Twitterでも公開中)。僕はSF好きなのでこの回は印象的ですね。

左:この話はギャグマンガとしてもいいですよね。

カ:実は、ここで北原尚彦先生とのご縁ができまして。本来背が色々違う小説が並んでいるのに、全部同じレーベルの体で作画されていたコマがあって、それを北原先生がTwitterで指摘してくださり、お礼を言ったところから始まって。

仲:「SF警察」でSF警察された(笑)。アシスタントさんもハヤカワの背の違いだとかは、なかなか分からないですよね。

カ:当時連載が2本あって、正直忙しくチェックが甘かったです。でも、北原先生との繋がりがこのミスでできたという。

左:やはりミスを恐れてはいけない。警察と仲良くなるにはまず罪を犯さねば(笑)。

カ:ただ、この回でチェックは時間かけないと......と教訓になりましたね。

仲:本の作画は大変ですよね。ネットでは基本表紙しか見られないから。

カ:このコマも持ってる本だからすぐ修正できたけど、そうじゃなかったら......。

仲:背や裏表紙を書くためだけに買った本もありますよね。

カ:めっちゃあります。特に厚み。本物がないと厚みは分からないですね。本の作画は、写真の抽出やまんまトレースはしていません。かといって実物から離れると改変になってしまう。なかなかのバランスで本を描けるようになったと思います(笑)。

左:トレースと改変のあいだ。

カ:忠実だけどトレースじゃない、みたいのを毎回やっていました。ギャグなので内容に軽く触れるだけの本が多いけど、表紙はしっかり描こうと。

左:『どくヤン!』という作品に、そんなバランスの表紙作画がいっぱい収められているというのは、何か価値を感じますね......。

澤村伊智氏が協力、恐怖小説回

カ:SF回の次の恐怖小説回(『どくヤン!』第2巻所収の第12話「百物語」)では、澤村伊智先生に協力いただきましたね。

仲:本当に偶然という感じのご縁で澤村さんとはたまたま知り合いで、この回は彼なくして成立しませんでしたね。

左:どんな感じで進めたんでしたっけ?

仲:ヤンキーたちで百物語をする、というなんとなくの流れは最初に決まったものの、主人公たる恐怖小説ヤンキーのキャラ付けが全然できていなくて、我々の考えるホラーのイメージを話し合い、「こういう認識、どう思われますか?」的な質問メールを澤村さんに投げましたね。かなり詳しく書かれた返信をいただけて、その内容を二人にフィードバックして、文字シナリオ→ネームに進んだはずです。

カ:そうだったか。ネームができてから見てもらったと記憶していました。澤村先生の意見がなかったら、四津谷のキャラは固まらなかったですね。

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熱く語る恐怖小説ヤンキー・四津谷海太(よつや・かいた)。画像は『どくヤン!』第2巻(講談社)57Pより引用。

仲:あのキャラが最終話でも活きてますもんね(笑)。でも、元々本ネタメインで行くとなったとき、僕は詳しい知り合いの力を借りまくるくらいのつもりでいました。でも、結局ほとんどしなかった。

カ:単純に時間がかかるからやってる余裕がなかったですね。それで言うと、SFは僕がどうにか、ホラーは澤村先生、私小説は左近先生と、なんとかやってきたけど――

仲:みんなで『華氏451度』大作戦。

カ:人気ジャンルであるミステリー回をちゃんとできなかったのは心残りです。

左:それは僕も残念でしたね。多分本当に詳しくなくても、「この1冊だけはメチャクチャ読み込んでいる」とか自信が持てる箇所が少しでもあれば、作れた気がするんですけど。

カ:人気ジャンルだから、ミステリーをもっとピックアップできれば注目してもらえたかなあ、とか少し思ってしまう。いくつかある悔いの一つではありますね。

仲:そういえば、最初の頃、4話以降に探偵小説ヤンキーの黒須戸探(くろすど・さぐる)が教室の中でたまたま描かれていなくて、ミステリー回をやるなら、名前の由来であるクローズドサークルに閉じ込められてしまっている――という流れにしようか、とか話し合ったことも。

カ:ありましたね。

仲:でも、結局考える余裕がなく、トリックなどを考えられる知人の心当たりはあったけど、内容的に作劇に時間がかかりそうなので着手できず......。ずっといないのはおかしい人気ジャンルだから、購買回で野辺たちに付いていき、妙な推理をする役回りで登場させましたね。

時代小説と母

カ:次が時代小説回(『どくヤン!』第2巻所収の第13話「母と息子と遼太郎」※。Twitterでも公開中)。こうしてみると2巻は結構ジャンル、本ベースになってますね。この回は僕の母親がモデルで、わりとワガママで入れてもらった感じですが。

左:いや、最高のエピソードですよ。

仲:カミムラさんのお母様が、60代で大学に通われて藤沢周平の研究をしたというガチ過ぎる藤沢ファンなんですよね。資料としてお母様の論文なども共有いただき、衝撃的でした。戯画化しているけど、「司馬より藤沢を読め」的話もお母様が実際に人に噛みついた話が元だという。

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あるアクシデントに過剰過ぎる反応を見せる時代小説ヤンキーの母。画像は『どくヤン!』第2巻(講談社)94Pより引用。

カ:山形の藤沢周平記念館にもいつか行こうと話しています。

仲:藤沢周平の娘・遠藤展子さんが読んでくださり、カミムラさんにお手紙をくれたんですよね。スペースをいただけたら、単行本の宣伝がてら〈本の雑誌〉で訪問記事を作りたいと話していたことはあるのですが、それが難しくてもいつかみんなで山形行きましょう。

※司馬遼太郎の「遼」は実際には二点しんにょう。

ズッコケ三人組

カ:2巻はその後ショート回、修学旅行編とあって、ジャンル回で言うとこの本でジュブナイル回がありますね。「ズッコケ三人組」シリーズの那須正幹先生が亡くなられてしまって......。読んでいただきたかった気持ちもあります。ズッコケ回として良くできていたと思うんですよね。

仲:内容的にも『どくヤン!』らしくて好きです。ズッコケシリーズは全部読んでいるんですか?

カ:図書館で全部読んだと思います。順番的には『ズッコケ心霊学入門』を本屋で買ったのが最初かな。僕はオバケが好きだったので。それで面白くて、たくさんあったので図書館で他のも読まないと、と。

仲:内容的に一番好きなのは、絵でも大きく描いた1作目の『それいけズッコケ三人組』ですか?

カ:作中での印象度は『それいけ』だけど、好きなのはやっぱり『心霊学入門』ですね。屋敷で心霊現象が起きるんですけど、それがどうして起きるのかというのを論理的に推理していく、ミステリー仕立てなんです。でも、最終的には科学で説明をつけるわけではなく、むしろオカルト的なところに帰着するというか、結構珍しいタイプの話です。ホラーとミステリーの間的な作品で、読み返してみても面白かったですね。そういう思い入れもあり、ジュブナイル回、ズッコケ回はできてよかったなあと思ってます。

仲:澤村伊智さんも『心霊学入門』についてホラーミステリと呼ぶに相応しい作品、とツイートされていたことがありましたね。あと、最初描いていた三人組がズッコケに似すぎていて、修正が入りましたよね。結構締め切り近くに。

左:ありましたね。

カ:結構気になってて何度か確認してから作画にいったはずなので、あれは困りましたね(笑)。

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『どくヤン! ~読書ヤンキー血風録~』52Pより。元はどれくらい似ていたのか......。

仲:描き直す箇所もメッチャ多いですもんね。我々、担当の鈴木さんには基本感謝しかないのですが、あれは唯一のミスと言えるかも(笑)。「挿絵の三人に割と...いやかなり似てる...!?」ってセリフも修正前は「まんまじゃねーか」的なのでしたよね。

カ:ただまあ、あれは我々の進行がギリギリだったのも大きいかな。進行に余裕があれば鈴木さんもポプラ社に確認に出していたと思うんです。そうしたら那須先生に読んでいただけたかもしれませんね......。

左:ああー、それはたしかに......。実は僕、ハチベエと誕生日と血液型が同じで、小学校の頃結構嬉しく思っていましたね。そういうの、子供の頃はありますよね。

カ:左近先生は三人組の中だとハチベエ似だと思われますか?

左:ううーん、僕は存在するならば、ハチベエとハカセの中間みたいなタイプだと思いますね。ただ、だから「ハチベエ的な振る舞いをしようかな」とか思ったりした時期もあったりとか。

カ:それで言うと、僕はホームズと誕生日が同じで。正確には本編に登場するわけではなく、定説とされている日、ですけど。

仲:やはり北原先生に見つかるのは運命だった(笑)。あと、今回の単行本化にあたって電子版の写植の権利は講談社にあるので、僕がDTPを担当して写植を打っていたのですが、「こちら休業補償分!!!」をコロナ禍ど真ん中の夏の東京でコピペしていて切なくなりました......。

カ:今読むとそうとしか思えない(笑)。そういえば、Twitterの感想で「ここに出てくる児童書古いのばっかだな」っていうのが。

左:(笑)。

仲:最近のも加えたい、という話は出て『都会のトム&ソーヤ』は入れましたね。

カ:新しめの本も色々入れたかったけど、自分が幼少期に影響を受けた本を描きたいという思いが自然とあのラインナップにさせたのかも。まあ児童書はロングセラーが多いし、児童館に古い児童書が多いのも不思議じゃない。理屈としてはおかしくないとは思います。

怒涛の最終回へ

カ:ジュブナイル回の後は、鬼積読永遠が登場して本のおすすめ、ビブリオバトル、2年生と一気に最終回になだれ込んでいく感じですね。

仲:ここら辺から、3巻で話をまとめるために1回のページ数が多くなったり、掲載が不定期になったり、『どくヤン!』のために〈Dモーニング〉の有料版に課金してくださっている方もいたようで申し訳なかったけど、ミステリー回以外は事前にやりたいと話していたことは結構できましたね。

カ:そうですね。大分前に3巻分で最終回というのは決まっていて。

仲:掲載が不定期になって以降に「打ち切りが決まったのか」というツイートを見かけたのですが、実は2巻発売時点で打ち切りはほぼ決まっており。そもそも紙の2巻の発行部数が「これで出すの?」という少なさで、むしろ「よく出してくれた」と個人的には思ったくらいでした。

カ:掲載が不定期になってしまったのは、最終回までにやり残しを限界まで詰め込もうとして、苦戦して時間がかかってしまったからで。

仲:特に、永遠に対するおすすめ回でやった「好きな本についてちゃんと語る」というのは前々からやりたいと言っていましたね。そういえば、左近さんが推薦本を語らせた酒原酎也を大々的にフィーチャーした感想ブログがありましたね。

左:読みました。酎也があんなに読書家に刺さるとは(笑)。

「アル中本」とは

左:さっきの『らせん階段一代記』は『どくヤン!』をやる上で印象に残った本ですけど――

カ:あと、あれは「僕の印象に残っている本」でもありますね(笑)。

左:普通に本読みとして印象に残る本としては、取り上げた『しらふで生きる 大酒飲みの決断』がその一つですね。僕は町田康が元々好きで、中島らもとか、アル中的なテーマを扱う本も好きだったんですけど、当時連載している最中に発刊された本で。

仲:『どくヤン!』の場合、昔読んでいた本を取り上げるのが多いですね、そういえば。

左:そう、なので非常にヴィヴィッドな印象がありました。依存症の人がその生活を綴るような本じゃなく、「酒をやめた」こと自体の話で、非常に驚いたんですよね。

仲:あの回の「今週の一冊」に、「大きな衝撃を与えた」とサラッと書いているけど、酒好きの町田康読者には本当に衝撃的な一冊で。

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『どくヤン! ~読書ヤンキー血風録~』98Pより。高校生が高校生に――はともかく、どくヤンがどくヤンに薦める本としては問題なし。

左:町田康が酒をやめるっていう。これは酒ではなくタバコについてですが、「私はタバコを吸わないと死ぬので」みたいなことを、フリとかではなく至極普通に書いていた人だったので、それと同じ立ち位置であった酒が......という。文芸誌を追うほどの熱心な読者ではなかったから、単行本の発売で初めて知り、「酒をやめてたのか......」と急に思わされて衝撃でした。でも、読むと納得、って感じの内容なんですよね。自分も40代になって「酒はもういいかな」みたいな気持ちも少しは出てくる中に――

カ:ちょうど来る感じの。

左:ちょうど響いてくるんですよね。

仲:我々も好きで飲んではいるけど、飲酒に言い訳を求めていたりしますからね。SFファンなら「筒井康隆が禁煙」と想像してもらえればこの衝撃が分かるかも......?

カ:そうかあ。「アル中本」を変えないでよかったですね。

仲:『どくヤン!』3巻電子版の校閲で、「アル中」の変更を強く要望されたんですよね。今は「病気である」という認識が重要とされるアルコール依存症なのに、自己責任的ニュアンスが大きく受け止められてしまうからと。

カ:僕と左近先生はギャグが成立しなくなるので反対して。この時も鈴木さんはこちらに味方してくれました。

仲:僕は身内に依存症の人間がいたこともあって、お二人もOKなら変更してもよいと回答したのですが、今改めて思うと、酎也の感想ブログの内容に近いけど、そういう間違った理解や偏見込みでの「アル中文学」ってありますよね。ギャグを抜きにしても「アル中」じゃないと成立しなかったかなあと。

左:そうですね。

仲:病気であると社会全体が思っていたら、中島らもなどの自虐的要素とかが多分出てきていないかもしれない。

カ:自虐的要素と、社会からの差別的要素と、どちらも含んでいますよね。

仲:あと単純に変更するとなったら、「アルコール依存症本ヤンキー」ではしっくりこないし、「酒本ヤンキー」とかにしたら吉田類さんとかパリッコさんとかも入ってきてジャンルが変わっちゃう。だから「正しいんだ、ギャグなんだ」と開き直るつもりはないけど、ママイキでよかったな、と今は思っています。

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