第197回:小野寺史宜さん

作家の読書道 第197回:小野寺史宜さん

2006年に短篇「裏へ走り蹴り込め」でオール讀物新人賞、2008年に『ROCKER』でポプラ社小説大賞優秀賞を受賞してデビューした小野寺史宜さん。「みつばの郵便屋さん」シリーズなどで人気を得、今年は孤独な青年と人々とのつながりを描く『ひと』が話題となった小野寺さん、実は小学生の頃から作家になることを意識していたのだとか。その背景には、どんな読書遍歴があったのでしょう?

その2「はじめて読んだ大人向け現代小説は」 (2/6)

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――文章を書くことはいかがでしたか。

小野寺:今回思い出したんですけれど、僕、小学校の4年か5年の頃に週1回の校内クラブで創作文クラブみたいなものに入っていたことがあって。半年に1回変わるんですけれど、人気のあるクラブに入れなくてそこを選んだんだと思うんです。担当は女性の先生で、他に生徒は4人くらい、僕以外みんな女子で。一応創作クラブなので、書くわけです。わりと本は読んでいるほうなので結構いけるだろう、と調子こいて探偵小説みたいなものを書いたんです。しかも、外国の小説を読んでいるから、私立探偵で金髪の秘書のルーシーだか何だかがいるという設定で(笑)。そうしたら女子にはポカーンとされ、先生にはちょっと嫌な顔をされた感じがあったのを憶えています。「これは褒められんじゃね」くらいに思っていたのに「ああ、そうですか」みたいな感じで。

――え、なんででしょう。殺人事件を起こしたんですか。

小野寺:殺人は自重したかもしれないですね。ですが、「なんだよ秘書って」というような反応でした。それとは別に、お楽しみ会では自分で話を作って紙芝居をやったりしていましたから、話を作るのは好きだったと思います。

――作家になりたい気持ちは小学生の頃からありましたか。

小野寺:ありましたね。なる自信があったという意味ではなくて、たぶん、作家くらいしかないだろうという気持ちでしたね、傲慢なんですけれど。「だって他にやりたいことないし」みたいなふうに、漠然と思っていました。漫画家と言っていた時期もありましたが、それはカモフラージュというか、美味しいものは後にとっておく、みたいな気分で(笑)。というわりに、実際に小説を書き始めるのは遅いんですけれど。

――漫画もよく読んでいたのですか。

小野寺:人並には読んでいたんですけれど、そんなにハマったものはなくて。唯一これは好きだったなというのは『マカロニほうれん荘』ですね。知ってます?

――知ってますよ! 高校生が主人公の、はちゃめちゃなギャグ漫画でしたよね。なんでしたっけ、きんどーちゃんとかいましたよね?

小野寺:金藤日陽です。女性言葉を使う40歳男性ですが落第を繰り返して今も高校生だという。すごい漫画ですよね、今考えると。他にもいろいろ流行した漫画もありましたけれどあまり興味がわかなくて、これがはじめて完全に好きになった漫画ですね。中学校ではどの教室の後ろにもあだち充さんの『タッチ』が並んでいましたけどね。『タッチ』を介して仲良くなる男女がいたりとか、そういうのがちょっと気持ち悪いって思っていました。何かそれをダシにしているような、作為的なものを感じて(笑)。

――(笑)。小野寺さん、硬派だったんですか。

小野寺:なんでしょうね、あの感じがダメでしたね(笑)。

――では、中学生になってからの読書生活は。

小野寺:そのまま時代ものと推理ものとSFを並行して読みつつ、ちょっとずつ読むもののレベルが上がっていったように思います。
中学2年か3年の時には、椎名誠さんの『わしらは怪しい探検隊』に出会うんですけど、これを読んだ流れで椎名さんの他の小説も読むようになりました。だから、はじめてちゃんと読んだ大人向けの現代小説は椎名さんかもしれません。この時はじめて、小説の単行本を買ったんだと思います。結構高いなと思いつつも、まだ文庫になっていない頃だったので。「怪しい探検隊」にはそれこそ目黒考二さんというか北上次郎さんが登場しますよね。だから今になってみると、すごく不思議な感じですよね。あの頃読んでいた北上さんが、今僕の本を読んでくれて書評とかを書いてくださっているのって。
 これもたまたまなんですが、僕は昔結構プロレスが好きで、大学生くらいの時に全日本プロレスの世界最強タッグ決定リーグ戦というのがあって、その最終戦の招待券をもらったので、日本武道館に見に行ったことがあったんです。招待券なので受付で指定席券に替えてもらうんですけれど、そうしたら隣が椎名誠さんだったんです。ちょうど前後して指定席券に引き換えたということだと思うんですよね。おお、これはすごいなと思って、ブルーザー・ブロディとかジミー・スヌーカとかスタン・ハンセンを見ながら、椎名さんのこともちょっと(笑)。さすがにプライベートで来られているんでしょうから、話しかけることはできなかったです。これも今考えるとすごい偶然だなと思っています。

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