第197回:小野寺史宜さん

作家の読書道 第197回:小野寺史宜さん

2006年に短篇「裏へ走り蹴り込め」でオール讀物新人賞、2008年に『ROCKER』でポプラ社小説大賞優秀賞を受賞してデビューした小野寺史宜さん。「みつばの郵便屋さん」シリーズなどで人気を得、今年は孤独な青年と人々とのつながりを描く『ひと』が話題となった小野寺さん、実は小学生の頃から作家になることを意識していたのだとか。その背景には、どんな読書遍歴があったのでしょう?

その5「作風を変えてデビューが決まる」 (5/6)

――投稿時代は、アルバイトをして小説を書いて......という日々ですか。1年にどれくらい応募していのでしょう。

小野寺:アルバイトもしていましたね。応募したのは、年に5~6本くらいは応募していたんじゃないですかね。まあ、全部落ちるわけです。落ちて1週間くらいブルーになって、また書き始めるという繰り返しでした。
仕事を辞めてワープロを買いに行ったといっても、そんなにすぐ書けるわけではないので、今思えば最初は本当にひどいものを書いていました。さきほども言ったように、思いついたものをそのまますべて書いちゃっていましたから。シナリオも同時に書いていたんですけれど、途中で辞めました。だから、非常に遠回りしました。たまに初めて書いた小説で受賞、みたいな人がいるけれど、天才かよって思います、本当に。
僕は最初は1次選考も通らなかったんですが、そうすると選評もないから何が悪かったのかも分からない。分からないままやっているからまた駄目で、という時期がありました。でも3年くらいたつと短篇が2次くらいに通って、そうなると「あ、これはちょっとやればいけるんじゃないか」と思って。結局、オール讀物で賞をいただいたのが37歳の時なので、13年くらい投稿生活をつづけました。

――今、シナリオも書いていたとおっしゃいましたね。

小野寺:はい。シナリオも応募していました。当時のトレンディドラマとか全然見ていなかったのに。そっちではちょっと小さい賞をいただいたりしていました。そっちのほうが向いているのかなと思いましたが、結局、シナリオは自分が書いてもそれで完成じゃないですからね。映像化できないと。で、やっぱり小説だなと思って。
 でも、シナリオの台詞にしても、削って削ってミニマムにしていく作業ですから、それは相当役立ったと思います。たぶん、会話文に生かされていると思います。

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――さて、2006年に短篇「裏へ走り蹴り込め」でオール讀物新人賞を受賞され、その後2008年に『ROCKER』でポプラ社小説大賞の優秀賞を受賞されますよね。

小野寺:そうです。僕、オールの賞をいただく前、32歳から37歳まで勤めていたんです。それも「もういいかな」という感じになって「辞めます」といった直後にオールから「賞を獲りました」と連絡が来たので、これは相当助かったと思いました。でもまだまだそこからも暗黒時代は続きます。
オールと同時期に野性時代青春文学大賞に長篇を応募したんですが、それは最終選考に残った3作をまるまる載せて読者に投票させるという賞で。僕も残ったんですけれど結局は落ちました。その後はオールに載せていただく短篇を書いていたんですけれど、なかなかうまくいかなくて。次に載るまでに2年くらいかかっています。その間に、プロアマ問わない小説賞なら応募してもいいと知って、じゃあポプラ社さんの賞に応募してみようかなって。オールで受賞したのはサッカーの話ですが、今度は女子高生の話を書いてみました。どちらも、それまで書いていたものとは全然違うんです。「このままじゃ駄目なんだな」っていうのがあって、それで書いてみたんです。

――そうしてデビューして、でも生活がガラッと変わったりは......。

小野寺:ないですね。本っ当に何も変わらないです。たいして友達がいるわけではないので、携帯にもメールにもそんなに連絡はなかったですし。でも、ちょっとはほっとしました。下手したら何の能力もないのに書いている無能野郎かもしれなかったわけですから。でも別に、これで暮らしていけるとは思わなかったです。

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