第198回:久保寺健彦さん

作家の読書道 第198回:久保寺健彦さん

7年ぶりの長篇『青少年のための小説入門』が話題となっている久保寺健彦さん。この新作小説にはさまざまな実在の名作が登場、久保寺さんご自身の読書遍歴も投影されているのでは? 聞けばやはり、幼い頃から本の虫だったようで――。

その2「筒井康隆熱が高まる」 (2/6)

  • どくとるマンボウ青春記 (新潮文庫)
  • 『どくとるマンボウ青春記 (新潮文庫)』
    杜夫, 北
    新潮社
    649円(税込)
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  • 船乗りクプクプの冒険 (集英社文庫)
  • 『船乗りクプクプの冒険 (集英社文庫)』
    北 杜夫
    集英社
    484円(税込)
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  • カルメン (岩波文庫 赤 534-3)
  • 『カルメン (岩波文庫 赤 534-3)』
    プロスペル・メリメ,杉 捷夫
    岩波書店
    506円(税込)
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――自分で本を選ぶようになった頃からは、どんなものを読んでいましたか。

久保寺:自分で選んで買いだしたのは、星新一とか井上ひさし、筒井康隆、それと北杜夫がすごく好きで。あと江戸川乱歩ですよね。江戸川乱歩はたぶん学校の図書室にあって「なんかやらしいぜ」とか「気持ち悪いぜ」って噂を耳にして(笑)。じゃあ読まなきゃと思いました。

――ポプラ社の「少年探偵団」のシリーズですか。

久保寺:いえ、もっと気持ち悪いやつですね。「芋虫」とか。子ども向けにアレンジされたものだと思うんですけれど、挿絵も明らかに怖い感じでした。当時って、今なら子どもに見せるのは駄目、というような本も図書館にありましたよね。
星新一は友達に「すごく面白いから」と薦められたんじゃないかな。読んだら確かに面白くて、で、巻末の文庫解説なんかを読んでいると筒井康隆さんの名前が出てくるので、じゃあ筒井さんを読んでみようかなという。だからはじめは筒井さんも新潮文庫に入っている『笑うな』とか、ああいうショートショートばかり読んでいました。北杜夫は何で読みだしたのか分からないんですけれどすごく好きで、全部揃えていましたね。「どくとるマンボウ」シリーズの『どくとるマンボウ青春記』というエッセイなんかは何度も何度も読み返しました。信州大学の付属の、昔の旧制高校の寮生活がハチャメチャですごいんです。

――『楡家の人びと』から『船乗りクプクプの冒険』も。

久保寺:クプクプ、好きでしたね。それと井上ひさしさんの『ブンとフン』も、ハチャメチャなやつが好きでした。そんな感じで日本文学が主だったんですけれど、なぜか自分で買った海外文学が、メリメの『カルメン』とモーパッサンの『女の一生』。

――小学生で、ですか。

久保寺:はい。たぶん『女の一生』って、いやらしい話なんじゃないかと思ったのかも(笑)。『女の一生』も2回か3回読んではどんよりしていました。

――その頃、作家になりたいというようなことは考えていませんでしたか。

久保寺:漠然と考えましたね。漫画はほとんど読まなかったんですけれど『ブラック・ジャック』は好きで、手塚治虫さんは医師の免許を持っていますよね。それに北杜夫さんも精神科医で作家ですよね。だから、医者と作家の二足の草鞋でいこうと思ってましたね(笑)。それなら食いっぱぐれないな、と。すごく虫のいいことを考えていましたね。

――あはは。自分で小説は書いていたんですか。

久保寺:小学5年生の頃だったか、書いたことはありました。当然、箸にも棒にもかからないものでしたけれど。火事が起きて若い母親が逃げ出した後、赤ん坊を家においてきたことを思い出すっていう時点でもうおかしな話なんですけれど、家のそばに川があって、なぜか家の窓からパーンと、川に向かって赤ちゃんとすごく大事にしていた宝石とが同時に落っこちてくる。どっちか取れないとしたらどちらを選択するのか、みたいな話を書きましたね。

――へええ。リドルストーリーとして有名な「女か虎か?」みたいじゃないですか。

久保寺:なんか究極の選択みたいなことを書きたかったようです。

――中学生時代はどのような読書を。

久保寺:筒井康隆さんはショートショートばかり読んでいた時はブラックユーモアがどぎついと感じていたんですけれど、『メタモルフォセス群島』など長めのものを読みだしたら、めちゃくちゃだけど面白いなと思って。そこから筒井さん熱が一気に高まり、中学生時代は、新潮文庫のあの赤い背表紙の筒井さんの文庫を次々と買って読んでいくような感じでしたね。それと、吉川英治さんの『宮本武蔵』とかも、すごく長いんですけれど何度も繰り返し読みました。

――いきなり『宮本武蔵』とは。

久保寺:なんでしょうね。自分の中の「これは面白い」という基準に適っていればよかったので、純文学とかエンタメとか時代小説だとか、そういう区別も全然してなかったです。自分にとって読書は娯楽だったから、「古典だから読まなきゃ」とかいう意識も全然なくて、面白そうだと思うものを読んでいっていました。

――本を読む時間はどれくらいあったのかなと思って。

久保寺:『青少年のための小説入門』の一真は中学受験で滑り止めしか受からずに地元の中学に行きましたけれど、僕は滑り止めの中学に行ったタイプだったんです。東京から千葉に通っていたので、それこそ片道2時間くらいかかるんですよ。電車はガラガラで、行きも帰りも座れるから読書時間はたっぷりありました。ただ、サッカー部に入っていたので、部活帰りだと疲れて居眠りして、気づいたら本をバサッと落としてたりもしましたけれど。それが3年間続きました。

  • 女の一生 (新潮文庫)
  • 『女の一生 (新潮文庫)』
    モーパッサン,嘉章, 新庄
    新潮社
    781円(税込)
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  • ブラック・ジャック (1) (少年チャンピオン・コミックス)
  • 『ブラック・ジャック (1) (少年チャンピオン・コミックス)』
    手塚 治虫
    秋田書店
    499円(税込)
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  • メタモルフォセス群島(新潮文庫)
  • 『メタモルフォセス群島(新潮文庫)』
    筒井 康隆
    新潮社
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