第210回:町屋良平さん

作家の読書道 第210回:町屋良平さん

今年1月、ボクサーが主人公の『1R1分34秒』で芥川賞を受賞した町屋良平さん。少年時代から「自分は何か書くんじゃないか」と思っていたものの、実は、10代の頃はなかなか本の世界に入り込むことができなかったのだとか。そんな彼が、読書を楽しめるようになった経緯とは? スマホで執筆するなど独特の執筆スタイルにも意外な理由がありました。

その2「本が読み進められない悩み」 (2/7)

  • サマー・オブ・パールズ (シリーズ本のチカラ)
  • 『サマー・オブ・パールズ (シリーズ本のチカラ)』
    斉藤 洋,幸子, 奥江
    日本標準
    1,650円(税込)
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  • RDG レッドデータガール 氷の靴 ガラスの靴 (角川文庫)
  • 『RDG レッドデータガール 氷の靴 ガラスの靴 (角川文庫)』
    荻原 規子,酒井 駒子
    KADOKAWA
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  • これは王国のかぎ (ファンタジーの冒険)
  • 『これは王国のかぎ (ファンタジーの冒険)』
    荻原 規子,中川 千尋
    理論社
    1,815円(税込)
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  • バトル・ロワイアル 上 幻冬舎文庫 た 18-1
  • 『バトル・ロワイアル 上 幻冬舎文庫 た 18-1』
    広春, 高見
    幻冬舎
    660円(税込)
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  • それいけズッコケ三人組 (ポプラ社文庫―ズッコケ文庫)
  • 『それいけズッコケ三人組 (ポプラ社文庫―ズッコケ文庫)』
    那須 正幹,前川 かずお
    ポプラ社
    660円(税込)
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――中学時代で印象的だった本はありますか。

町屋:中学生時代も図書室は好きで、いわゆる少年少女小説みたいなものを少しだけ読みました。斉藤洋さんという児童文学の作家の『サマー・オブ・パールズ』という本は、いまだに好きで読んでいるんです。ひと夏の恋愛みたいな話なんですけれど、主人公の男の子がお兄ちゃんから株式投資のイロハみたいなものを教わって、疑似的に株式投資ごっこをするなかで、恋愛要素も絡んできて、そこがめちゃめちゃ面白いなと思っているんです。オススメですね。
あとは、荻原規子さんかな。『レッドデータガール』などの著作があってすごく読者の多い方ですが、『これは王国のかぎ』っていう本は、女の子が『アラビアンナイト』の世界にトリップして王子らしき人と出会って冒険する話で、これも図書室で見つけてすごく好きでした。
 それと、その頃『バトル・ロワイアル』はすごく流行ったんで読んでいました。そういう、学校で回し読みされるような小説は読んでいたんですが、いわゆる文学青年みたいな感じではなかったです。

――では、また小説家になりたいとか、そういう気持ちはまったく...。

町屋:本の佇まいが好きだったのと、あと、物語が好きだったので、結構漠然と「自分は何かを書くんじゃないか」という思いはその頃からあったと思います。とにかく、物心ついた時から物語に対してよく分からない執着がありました。いまだにその執着が何なのかって分からないんですけれど。わりと人見知りだったし喘息とかアトピーがあったりして身体弱め、みたいなタイプで内向的だったので、他人のことが知りたいという気持ちがすごくあって、それを物語の形で知るのが好きだったんだと思います。そういう思いがあったのに全然読書が進まないので、まあ、もどかしいというか。はい。

――ああ、本は好きだけれど、どんどん読み進められるタイプではなかった、と。

町屋:そうですね。本当に何を読んでいいか分からなかったし、国語の教科書に出てくるようなものは難しくて。でも国語便覧とかは好きで眺めているとか、そういう感じでした。

――青い鳥文庫みたいなレーベルと出会えていればまた違ったのかも。

町屋:根本的に集中力が欠けていたんだと思います。いわゆる『ズッコケ三人組』みたいな子ども向けシリーズもいっぱいありましたが、そういうのも読んでは途中で止め、読んでは途中で止め。この連載で作家のみなさんが子どもの頃に読んでいるような児童文学系のものとか、冒険小説とかも一応手を出しているけれども、挫折につぐ挫折だったと思います。......「読書道」の話なのに大丈夫かな。

――そこからよく芥川賞作家に...。読書以外で、何か集中できること、好きだったことはありましたか。

町屋:そうですね、小中学生の頃はRPGゲームをすごくしていましたね。中学受験をしたので受験の時期はゲームを禁止されて勉強をしたり、中学校時代はバレーボール部だったのでバレーボールをして、あと、ピアノを習っていたので、すごく上手いわけじゃなかったけれど、惰性のような感じで弾いていました。中学時代はJPOPが好きでオリコンを追いかけてカラオケに行ったり、そういうふつうの中学生だったと思います。

――漠然と「何かを書くんじゃないか」という思いはあったということで、実際に物語を空想してみるとか、書いてみるということはしましたか。

町屋:中学生の時に友達とノート交換みたいなことをしていたんです。その時に漫画の真似みたいな話を書いたのが最初でした。自分ではそれがすごくオリジナリティがあると思ってたんですけれど、子どもなので、今考えると完全に漫画を小説にしたみたいなものでした。要するに、ジャンプ系とか、恋愛漫画みたいなものの要素を少しずつ混ぜ合わせたような......すごく恥ずかしいんですけれど。漫画が好きだったから絵も描いていて......すごい恥ずかしいです(笑)。

――そのノートがいまだに友達の手元にあったりする可能性はありますか?

町屋:実は僕の家にあります。超やばいです。何年か前に引っ越しした時に見返したんです。友達の書いた部分も残っているんですけれど、友達に比べても自分はすごく幼なくて、早熟なタイプとは程遠いなと思いました。だからこれは、誰にも見られないうちに......(笑)。自分が意識あるうちに燃やしちゃったほうがいいですよね。

――ますます見たくなります(笑)。その後、作家になりたいと自覚的になっていったわけでしょうか。

町屋:そうですね。高校時代はもう、なれたら小説家になりたいって気持ちがありましたね。そういえば、小学校高学年くらいからテレビドラマが隆盛していて結構好きだったので、母親に風呂あがりか何かの時に「俺は俳優になりたい」と言ったのを憶えているんですけれど、今考えるととんでもない。思い上がりも甚だしいと思います。その後にドラマを作る人になりたいと思って「脚本家になりたい」と思ったんですけれど、脚本家のなり方が分からなくて、どうすればいいんだろうと悩んだ思い出があります。それこそ小学生の時に図書室で、『脚本家になるには』みたいな本を読んだりして、自分で録画したドラマをシナリオ化してみようと思ってコマ送りで見たりしたんですけれど、不可能でした(笑)。で、高校生くらいからもう、そういうのは無理だし、やはり小説家になりたいという気持ちになったと思います。

――ドラマが隆盛していたということですが、どのあたりのドラマでしょう?

町屋:いちばん最初の記憶が、観月ありささんといしだ壱成さんが出ていて、ふたりが入れ替わる「放課後」っていうドラマ。それもたぶん、家で母や兄が見ていた影響です。祖母がその時家にいたんですけれど、「火曜サスペンス劇場」や「渡る世間は鬼ばかり」みたいなものがすごく好きで、つねにそういうドラマが家の中で流れていたなというのを、今思い出しました。

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