第215回:相沢沙呼さん

作家の読書道 第215回:相沢沙呼さん

『medium 霊媒探偵城塚翡翠』が2019年末発表のミステリランキングで3冠を達成、今年は同作が2020年本屋大賞ノミネート、第41回吉川英治文学新人賞候補となり、さらに『小説の神様』(講談社タイガ)が映画化されるなど、話題を集める相沢沙呼さん。そんな相沢さんが高校生の時に読んで「自分も作家になりたい」と思った作品とは? 小説以外で影響を受けたものは? ペンネームの由来に至るまで、読書とその周辺をたっぷりおうかがいしました。

その5「デビュー&ペンネームの由来」 (5/7)

  • 午前零時のサンドリヨン (創元推理文庫)
  • 『午前零時のサンドリヨン (創元推理文庫)』
    相沢 沙呼
    東京創元社
    836円(税込)
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――そのまま作家デビューを目指したのですか。

相沢:僕、大学を中退しているんですけれど、その頃にも別のすごく深みにはまったエピソードがありまして。何を思ったか、大学生の時に、ゲームを作りたくなってしまったんですよね。

――なんと。アナログゲームでしょうか、ネットゲームでしょうか。

相沢:アナログゲーム的なテイストがあるものをブラウザで遊べるようなゲームです。そんなに画面は動かなくていいから、携帯電話の小さい画面でさくっと遊べるようなゲームを作りたいなと思ったんです。アナログゲームや、ボードゲームってあんまり絵的な表現は派手ではないけれど面白い。なら、普通のコンピュータゲームでも、グラフィックス的な派手さがなくても片手間にやるには面白いものが作れるんじゃないかと思いました。そう発想したらいても立ってもいられず、さきほど話したネットのTRPGのサークルにプラグラマーの仕事をしている人がいたので相談したんです。「プログラムをおぼえたいんだけど、どうしたらいい?」って訊いたら「ここのサイトでおぼえて、この本を読んで、こういうのを作ってみたら」と、一通りのレクチャーをしてくれて、今で思うと信じられないくらいのスピードでおぼえました。よくそんなエネルギーがあったな。あのエネルギーがいま執筆にほしいっていうくらい、すごい量のコードを書きまして。
 半年でプログラミングができるようになったんですが、結局そのゲームは実現できなかったんです。でもプログラミングのアドバイスをしてくれた友達が「そんなにできるなら」と、プログラムの仕事を紹介してくれたんです。で、「こっちで働くか」と思って、大学を辞めて働き出しました。

――就職難の時代、技術を身に着けてそういう話がくれば、そうしますよね。その間、小説の執筆はどうされたのでしょうか。

相沢:大学を辞めてプログラマーとして2年くらい働いていたんですけれども、その間になんとか『午前零時のサンドリヨン』を一応長篇にすることができて、ライトノベルの賞に送ったんですよ。まだライトノベルだと思っていたので。そうしたら、二次選考くらいで落ちてしまい。

――あら。

相沢:「絶対面白いからいけるはず」と思っていたのに落ちたので、「もしかしてこれはライトノベルではないのか」って思い(笑)。それで、「ミステリの賞に送るか」って思ったんですよ。でも、ミステリって怖い人ばっかりだからな、みたいな......。

――いったいなぜそんなイメージを......。

相沢:でもちょうどその時、鮎川哲也賞の選考委員に北村先生が加わるって知ったんです。「北村先生に読んでもらえるなら、もうどんなに怖くても送ってみるべきかな」と思いました。

――そういう経緯があったんですか。ちなみに「相沢沙呼」はペンネームですよね? よく女性と間違えられると思うのですが、どうしてこのお名前を?

相沢:昔からインターネットのハンドルネームが「SAKOMOKO」なんですけれども、その「SAKO」というのを使いたかったというのがあります。「SAKO」自体がどこからきたのかというと、小学生の時に飼っていた犬がすごくもこもこしていたんです。それで、本当は違う名前なのに、家に遊びに来る友達が犬のことを「もこ」って呼んでいて。で、家で小学生4人で「桃太郎電鉄」で遊ぶとき、みんながプレイヤーの名前を4文字で入力する時に、僕はひらがなで「もこもこ」って入れていたんです。
 あのゲームでは「貧乏神」というお邪魔キャラクターがいて、そいつが「ルーレット回すね」みたいなことを言うと、名前の文字がくるくると回って、ぴったり元の名前になるように止められたら何百万円もらえるというチャレンジがある。そのチャレンジをした時に、「もこもこ」が「さこもこ」になったんですが、小学生って、よく分からないところで爆笑するじゃないですか(笑)。なぜかその場にいた小学生たちにはそれがすごくツボになり、みんな「さこもこ」「さこもこ」と言い始めて、その後も「さこもこ」と呼ばれるようになり、「もこ」が取れて「さこ」になり。「さこ」と呼ばれるようになってはや10年、みたいな感じで。

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