
作家の読書道 第216回:青山七恵さん
大学在学中に書いて応募した『窓の灯』で文藝賞を受賞してデビュー、その2年後には『ひとり日和』で芥川賞を受賞。その後「かけら」で川端康成賞を受賞し、短篇から長篇までさまざまな作品を発表している青山七恵さん。衝撃を受けた作品、好きな作家について丁寧に語ってくださいました。
その2「海外小説への憧れ」 (2/9)
――ではその後の読書生活は。
青山:小学校が、子どもの足で1時間くらいかかる遠いところにある学校だったんですが、同じ方向に住んでる子があまりいなくて、帰りは1人で帰ることが多かったんですよ。退屈なので、帰り道にはよく図書室で借りた本を読んでいました。二宮金次郎状態(笑)。危ないですよね。のどかなところだったので無事でしたけれど。
――どんな本を借りていたんですか。
青山:福永令三さんの「クレヨン王国」というファンタジーのシリーズが好きでした。それから、イーニッド・ブライトンの『おちゃめなふたご』シリーズがもう大好きでした。少女の寄宿生活の話なのですが、ジンジャーエールとか、アンチョビとか、よく分からないけれどおいしそうな未知の食べ物が出てくるし、先生たちにばれないように子どもたちだけでごちそうをこそこそ食べる真夜中のパーティーという催しがあって、猛烈に憧れました。
――寄宿舎ものには欠かせない場面ですよね。のちのち「あの小説に出てきたあの未知の食べ物はこれだったのか」というのがいろいろあったと思いますが。
青山:よく覚えているのがアンチョビのエピソードです。下級生は上級生の靴を、靴クリームをつけてきちんと磨かなくちゃいけないという決まりがあるんです。その靴クリームを、故意にパンに塗るアンチョビぺーストと入れ替えて、パンに靴クリームを塗るいたずらをする、というシーンがあるんですね。子どもの頃はアンチョビがどういうものか分からなくて、「靴クリームとアンチョビペーストって似ているんだ」と思ってました。大人になってアンチョビを食べると、なにか靴クリームの味がするような気がして(笑)、あまり楽しめなくなっちゃいました。
――それは残念(苦笑)。シリーズものが好きだったのですか。
青山:そうですね。武鹿悦子さんの、「りえの旅」シリーズも好きでした。りえという女の子が日常からはぐれて、不思議な旅をするシリーズです。クレヨン王国が好きだったのも、木が喋ったり虫が喋ったり、日常とはかけはなれた世界だったからだと思います。とにかく現実味のない、別世界のお話が好きでした。小学校高学年になると、アガサ・クリスティーのポアロシリーズに夢中になったのですが、これも名前のアルファベット順に人が殺されるとか、絶対自分の身近では起こりそうにないことでしたから、強く惹かれました。
――なるほど。外国のファンタジーはいかがでしょう。ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』とか?
青山:『はてしない物語』や『指輪物語』は妹が読んでいましたが、そっちは妹の領分だから、という変な遠慮というか意地があって、私は読まなかったんです。もったいないですよね。
王道ですが、『赤毛のアン』や『長くつ下のピッピ』も好きでした。『赤毛のアン』でアンとダイアナが「腹心の友」みたいなことを誓いあっているのを見て、私も仲のいい友達と誓い合ったりしました(笑)。具体的な話の内容はほとんど忘れていたんですけれど、数年前『ハッチとマーロウ』を書く際に「自分がハッチやマーロウの年頃だった時に読んだ本を読み返してみよう」と『赤毛のアン』を読み返してみたんです。すると、「あれ、こんな文章、わたしもどこかで書いたような」と思うくらい、いかにも自分が書きそうな文章がところどころに見つかって、子ども時代に吸収した言葉の影響力をひしひし感じました。
――へええ。ではたとえば、『若草物語』とかは?
青山:『若草物語』はテレビアニメで見ていました。4人の女の子がいて、全員見た目と性格が違うというのがいいですよね。そういう点では、「美少女戦士セーラームーン」もすごく好きでした。
――『若草物語』でいうと、姉妹の誰が好きだったんですか。
青山:三女の、病弱なベスです。次女のジョーは元気すぎる感じがしたし、一番下のエミリーも明るすぎて友達にはなれそうにないなと思って(笑)。長女のメグもいい人そうでしたが、おとなしくて地味なベスが好きでした。
――伝記などノンフィクションなどは読みましたか。
青山:自分で借りては読みませんでしたが、家には子ども用のナイチンゲールの伝記がありました。フローレンス・ナイチンゲールはフィレンツェで生まれたからフローレンスという名前をつけられた、というところをよく覚えてます。子ども向けに書かれたナイチンゲールの伝記って、いかにこの奉仕の精神を伝えるかという教えとか諭しの要素しかないと思うんですが、実際いちばん記憶に残っているのは「ナイチンゲールはフィレンツェで生まれたからフローレンスという名前」ということ (笑)。絵本の『花さき山』も、自分を犠牲にして人のためにいいことをするときれいな花が咲くよという立派な教訓話だと思うんですけれど、子どものわたしには山ンばが怖すぎて、そういう教えのようなものはいっさい入ってこなかった。それでも、そういう理由のわからない怖さとか、ナイチンゲールのファーストネームみたいな他人の一生の切れ端が、記憶の基礎にあるんだと思うと面白いです。
――ああ、ストーリーは憶えていないけれど挿絵だけ妙に憶えているとか、そういうことってありますよね。
青山:そうなんです。今でも「フィレンツェ」と聞くと、反射的にナイチンゲールが浮かぶんです(笑)。そういう記憶のあり方がすごく面白いなと思っていて。
――さきほど「セーラームーン」が出てきましたが、アニメや漫画で好きだったものはありますか。
青山:漫画雑誌では「りぼん」か「なかよし」は買ってましたね。お小遣いに限りがあるから、どちらか1冊しか買えないんですが、特に付録がほしいんですよ。読みもののほうは共有できても付録は独り占めしたいから、妹と私は付録目当てに1人1冊ずつ買うこともありました。シールとか、紙でできたペン立てとか、もう、渇望していました(笑)。