第216回:青山七恵さん

作家の読書道 第216回:青山七恵さん

大学在学中に書いて応募した『窓の灯』で文藝賞を受賞してデビュー、その2年後には『ひとり日和』で芥川賞を受賞。その後「かけら」で川端康成賞を受賞し、短篇から長篇までさまざまな作品を発表している青山七恵さん。衝撃を受けた作品、好きな作家について丁寧に語ってくださいました。

その4「読書と旅の関係」 (4/9)

――なるほど。じゃあ、そこから現代女性作家たちを読んだりとか......。

青山:そうなるのが自然だと思うのですが、その後突然、川端康成ブームが来たんです。修学旅行先が京都だったんですが、どうやら京都の話らしいということで、クラスの一部で『古都』の回し読みのようなことが始まって。私は初めての京都だったので、小説を読んでこれが京都なのか、ここに描いてある場所に今から行くのか、と旅行の前から気持ちが高揚していました。

――青山さんが旅好きになる原点がここにありますね。

青山:いまもどこか外国旅行に行く前には、その国の作家の作品を集中的に読んだりします。『古都』のなかで、千重子と真一が円山公園で待ち合わせをするシーンがあるんですが、先に着いた真一は地面にごろんと寝転がって千重子を待っているんですね。修学旅行で円山公園に行ったときには、「あ、ここだ」と思って、同じ班の子の目を盗んで一瞬草の上に寝転がってみたりしました (笑)。二人がデートする清水寺に行けたときも嬉しかったですね。

――そういう感動ってありますよね。今おうかがいしていて思い出しましたが、数年前に、綿矢りささんと『古都』を課題図書に京都を旅してませんでした?

青山:そうなんです。『古都』に出てくる北山杉のあたりって、かなり山のほうなので、修学旅行では行けなかったんですね。いつか見てみたいと思っていたんですが、嬉しい巡りあわせで綿矢さんが一緒に行ってくれることになり、2人でバスにごとごと揺られて、行きました。
 実際バス停から歩いて北山杉の里のあたりに入っていくと、蜂がぶんぶんいて、繋がれている大きな犬がわんわん吠えて(笑)、怖かったですねえ。でも天気もよくて、杉林は青々として、本当にきれいでした。帰りのバスを待つあいだ、全然バスが来ないので、2人でブロック塀のようなところに座って、小説の結末についてあれこれ話したのを覚えています。幸せな思い出です。

――いい話。その後、川端もいろいろ読むようになったんですか。

青山:そうですね。でもほとんどわかりませんでした。

――今、気持ちいいくらいの即答でしたね(笑)。

青山:『伊豆の踊子』の終わり、主人公の学生が旅芸人の一座と別れて船の中で涙を流すじゃないですか。「頭が澄んだ水になってしまっていて、それがぽろぽろ零れ、その後には何も残らないような甘い快さだった。」というところです。この涙って、いったいどういう涙なのか。単純に、踊り子たちと別れるのが悲しいということで流れる涙じゃなさそうだけれど、じゃあどういう涙かというと、うまく言葉にできない。でも『アムリタ』を読んだときと同じで、これはいつか自分に関係してくる涙だぞ、ということはなんとなくわかりました。でも『雪国』なんかは、本当、どう読めばいいのかさっぱりわからなかったです。

» その5「本に関する第三の衝撃」へ