第216回:青山七恵さん

作家の読書道 第216回:青山七恵さん

大学在学中に書いて応募した『窓の灯』で文藝賞を受賞してデビュー、その2年後には『ひとり日和』で芥川賞を受賞。その後「かけら」で川端康成賞を受賞し、短篇から長篇までさまざまな作品を発表している青山七恵さん。衝撃を受けた作品、好きな作家について丁寧に語ってくださいました。

その8「志に感銘を受けた作家」 (8/9)

  • テス 上 (岩波文庫 赤 240-1)
  • 『テス 上 (岩波文庫 赤 240-1)』
    トマス・ハーディ,井上 宗次,石田 英二
    岩波書店
    1,067円(税込)
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――帰国して、専業作家になって。読書はいかがでしたか。

青山:作家としては圧倒的に読書量が少ないと思っていたので、意識して古典文学を読みました。スタンダール、フローベール、トルストイなどです。イギリス文学で好きだなと思ったのはオースティンとトマス・ハーディの『テス』です。20世紀の作家ではフラナリー・オコナーの小説に惹かれました。『秘儀と習俗』というエッセイ集は何度も読み返しています。
 フラナリー・オコナーはなんというか、激しいんですよね。文体も鋭利で硬質で、ユーモアもあるんですけれど、そういう文体の裏で壁にガンガン頭を打ち付けているような激しさがある。『秘儀と習俗』は創作にまつわる彼女の考えが書いてあるんですけれど、志が凄まじいというか、つねに向かい風に身を晒している感じがします。

――向かい風に身を晒しているような人なんですか。

青山:とにかく辛抱強くあれ、と訴える作家だと思います。作家は鈍いくらいがちょうどよくて、目の前の何かをじっと見つめ続ける、凝視するまなざしを持ち続けることが大事だと言っているんですね。たとえばここにあるコーヒーカップを描写しようと思ったら、このカップをじっと見て、コーヒーカップの本質みたいなところまでちゃんと見なければいけない、というような感じですかね。描写って、本当に辛抱のいる作業なんです。カップの曲線や質感を言うのにも、安易に比喩を使わずにそれじたいを現すにはどうしたらいいんだろうと考えます。もうちょっと抽象的なテーマを扱う時にも、そのものをじっと見て考えを凝らすという態度がすごく大事なんだなということを感じます。

――青山さんは若くして川端康成文学賞を獲ったりと、文章もすごく評価が高いし読んでいてもいつも圧倒されますが、それも、表現ひとつずっと考えて生み出していたからなんですね。

青山:もともと、目の前の物事にパッと反応する、反射能力のようなものには恵まれていないと思うんです。ひたすら持久力です。だから推敲はすごくしますね。推敲はやり始めると終わりがない。でもずっとしていると本ができないので困ります(笑)。

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