第218回:藤野可織さん

作家の読書道 第218回:藤野可織さん

 不穏な世界を時に美しい言葉で、時に奇想を炸裂させた設定で描き出す藤野可織さん。2013年には『爪と目』で芥川賞を受賞、最近では女性2人が破滅に向かう世界で活き活きと冒険する『ピエタとトランジ<完全版>』が評判に。この世界観を生み出す背景に、どんな読書遍歴があったのでしょう? 小説だけでなく、影響を受けた漫画や好きな映画や俳優についてもたっぷり教えてくださいました。

その4「大好きな俳優について」 (4/6)

――この頃には、映画も自分で観に行くようになっていたのでは。

藤野:映画は中学の頃からよく観に行っていました。新聞にうちの近隣の映画館の時刻表が載っていたので、それをハサミで切り取って赤鉛筆で印をつけて持ち歩いていて、中間テストと期末テストの最終日には絶対に映画を観にいくと決めていました。「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」とか「12モンキーズ」とか「ショーシャンクの空に」とか、バズ・ラーマン監督でディカプリオが主演の「ロミオ+ジュリエット」もこの頃に観たと思います。「タイタニック」は予告編を観てすごいアクション映画や、と思って観に行ったらなかなか船が沈まへんからちょっとイライラしました(笑)。今では船が沈むまでのところもすごく面白いなと思っていますけれど。

――アクション映画が好きだったんですね。

藤野:子どもの頃から好きでした。テレビでも淀川長治さんが司会をされていた「日曜洋画劇場」でシュワルツェネッガーやスタローンの映画を観ていましたし。喜んで観るのはアクション映画か、あとは「エイリアン」とか、そんなんばっかりでした。

――シュワルツェネッガーやスタローンのことは「格好いい」というよりも「自分もこうなりたい」と思っていたそうですね。強くなりたかったという。

藤野:そうなんです。彼らはいまだに私にとってはある種、神聖な存在です。男性性を煮詰めたような見た目なのに、私は彼らが男性だということに気付いていなかったというか。私にとっては性がない存在やったんですよ。性のかわりに、破壊があるんです。そこにすごく憧れていました。

――その頃はまだニコラス・ケイジの映画は観ていなかったのですか。藤野さんといえばニコラス・ケイジというくらいニコラス好きは有名ですよね。

藤野:ありがとうございます、光栄です(笑)。高校生の時にはもう夢中になっていましたが、どこで夢中になったんかなあ...。(パソコンで検索しながら)16歳の時に「ザ・ロック」、17歳の時に「コン・エアー」、18歳の時に「フェイス/オフ」という、ありがたい青春時代を過ごしたので、そのどれかで心を捧げたことはまちがいないです。そうそう、アカデミー賞主演男優賞を受賞した「リービング・ラスベガス」もこの頃ですが、なぜかずっと観るチャンスがなくて、たまたま数日前に観たんです。観て本当にがっかりしました。ニコラス・ケイジのラリった演技はよかったんですが、映画自体が私にはぜんぜんだめで...。この映画がニコラス・ケイジのキャリアの頂点だということに納得がいきません。こうなったらもう一度もっといい映画で主演男優賞を獲ってもらいたいです。

――シュワルツェネッガーやスタローンではなく、なぜにニコラス・ケイジがいいのでしょうか?

藤野:ニコラス・ケイジは彼らとは一線を画したところにいます。なんだろう、顔ですかね? あの顔やスタイルの美しさにはうっとりしますし、演技も本当にいつもすばらしいと思います。でも、なぜ私はジェイソン・ステイサムではないのだろうと思うのにニコラス・ケイジになりたいと思ったことはないですね...。ただただ、出てくると目が離せなくなるんです。

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