
作家の読書道 第219回:今村翔吾さん
2017年に『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』を刊行してデビュー、翌年『童神』(刊行時に『童の神』と改題)が角川春樹小説賞を受賞し、それが山田風太郎賞や直木賞の候補になり、そして2020年は『八本目の槍』で吉川英治文学新人賞を受賞と、快進撃を続ける今村翔吾さん。新たな時代小説の書き手として注目される今村さんは、いつ時代小説に魅せられ、何を読んできたのか? 軽快な語り口調でたっぷり語ってくださいました。
その5「各先生方、お薦めの作品」 (5/6)
――これまでお名前が挙がった先生方の作品で、あまり読んでいないという読者にお薦めのものを挙げていただけませんか。
今村:ああ、1冊ずついきましょうか。池波正太郎さんやったら、時代小説にあまり読んだことない人に薦めるなら長くないほうがいいのかもしれないけれど、やっぱり一番好きだし思い出深いのは『真田太平記』になんのかなあ。司馬遼太郎さんやったら、これもやっぱり『燃えよ剣』。ちょうど映画にもなるしね。『風の武士』も好きやけどな。
海音寺潮五郎さんは難しいな。短篇集でもどれが表題作になってどう編まれているかで違うからなあ。あ、資料的な部分と小説的な部分の中間みたいな、列伝ものがいいかもしれん。『悪人列伝』とか『武将列伝』とか。歴史をそういうくくりで学んでいくにはいいんじゃないかな。山本周五郎さんはやっぱ、メジャーやけど『樅の木は残った』でしょう。あれ読んどきゃいい。ただ、短篇集でも、女の人が読んで楽しめるような、強い女の人が出てくるのが多いからお薦めです。
藤沢周平さんは何読んでもおもろいわ。『溟い海』とか『蝉しぐれ』とか。まあ、『たそがれ清兵衛』とか『武士の一分』の原作の「盲目剣谺返し」(『隠し剣秋風抄』収録)とか、山田洋次監督が映像化しているものは、入り口として結構入りやすいと思ってます。というのも、藤沢先生の本は、ものによっては江戸時代の知識がないと分かりづらいものもあるから。
――吉川英治作品はどうしますか。
今村:まあ『宮本武蔵』っていう人が多いと思うけれど、僕がいちばん影響を受けているのは『三国志』かな、やっぱり。影響を受けているというか、いちばん好きというか。あれ、書きすぎて堂々と間違っているんですよ。死んだ人が復活しているって有名な話なんです(笑)。校閲も見逃してんねんけど、それでも面白いってすごくない?(笑) それと、僕が持っている『三国志』が旧字体なので、読むのにすっごく苦労して。「体」とかも「體」って書かれているんですよ。「これ、なんて字?」って分からないまま読み続けて、途中で「あ、これ"体"なんや」って分かって読めるようになっていったから、思い入れがある。よく「漢字が読めへんから」という人もいるけれど、気にせずばんばん読んでいったらいいと思う。
陳舜臣さんは難しいな。あ、『琉球の風』がいいんちゃう? 陳先生は中国ものも書いてたけど、これは中国と日本の文化の交流点の話やし、大河ドラマにもなったし。陳先生って人格者として、いろんな人のエッセイに登場する。「陳先生からこれをもらった」とか。「陳さんが誰に何をあげたかリスト」作りたい(笑)。手紙もまめで、こっちが返信するとまた返信がきて、手紙のやりとりが終わらない説もある。アンチにも手紙返してたんやね。アンチやのに住所書いてきたから「君が僕のこと嫌いなのは分かった」みたいなことを書いて返したらしい。どんだけ人格者やねんな。
――そういう話、すごく面白いです!(笑) さて、浅田さんや北方さんは何を選びましょう。
今村:浅田次郎さんは『壬生義士伝』か『一路』かなあ。慣れへん人やったら『一路』がいいんちゃうかな。おもろいから。北方ワールドを体験したければ『破軍の星』か『武王の門』か迷うけど、『破軍の星』にいっとこう。柴田錬三郎賞作品やし。