第250回: 蝉谷めぐ実さん

作家の読書道 第250回: 蝉谷めぐ実さん

2020年に江戸歌舞伎を題材にした『化け者心中』で第11回小説野性時代新人賞を受賞してデビュー、同作で日本歴史時代作家協会賞新人賞や中山義秀文学賞を受賞、昨年刊行の第2作『おんなの女房』では野村胡堂文学賞を受賞し、時代小説の新たな書き手として大注目されている蝉谷めぐ実さん。その読書遍歴や、歌舞伎に興味を持ったきっかけとは? 好きなものには気合いを入れてきたという、楽しい来し方のお話をどうぞ。

その3「歌舞伎の再発見」 (3/5)

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――そして早稲田大学に進学して。一人暮らしが始まったのですか。

蝉谷:大学の寮に入ったんです。一人部屋は与えられたんですけれど、同じ階に同学年の友達がいるという環境でした。
 学部は文学部で、途中でコースを決めるんですが、私は演劇映像コースを選びました。

――演劇サークルには入ったのですか。

蝉谷:ちゃんとした劇団サークルに体験入部したら、ものすごく厳しくて、もうすぐに「走れ」みたいな感じで。高校まで甘々でやってきた私はついていけなくなって、それっきりでした。なので、大学時代は講義に没頭していましたね。興味のある講義を全部とりました。
 そのなかの講義で三島由紀夫の『真夏の死』の一部を読む機会があって、なんて美しい文章を書くんだという衝撃があり、そこから文豪といわれる人たちの小説を読むようになりました。三島由紀夫は『真夏の死』や『春の雪』が好きです。
 それから、江國香織さんや森見登美彦さんも読みました。それと京極夏彦さん。『姑獲鳥の夏』にはハマりにハマって、当時出ていたものは貪るように読みました。

――改めて歌舞伎の面白さに気づいたのも大学時代だったそうですね。

蝉谷:たしか大学1年生の時に、児玉竜一先生の歌舞伎研究の講義をとったんです。歌舞伎はまあ興味あるからとろうかな、というくらいの軽い気持ちでしたが、その講義がめちゃくちゃ面白かったんです。児玉先生はすごくお話がお上手で、歌舞伎の歴史や演目の筋もご説明もされるんですけれど、江戸の役者がどういう生活をしていたとか、役者たちの芸談なんかもちょいちょい資料として入れてくれるんですよね。「この役はどのような気持ちで演じるべきか」などと役者が話した芸談が残っているんです。役者の日常の話では、坂田藤十郎なんかは米もわざわざ京都から取り寄せて、水もいいものしか飲まなかった、という話を教えてくださって。
そのなかでいちばん面白かったのは、女形は普段も女性の格好をして女性として過ごしている、という話でした。自分もちょっと演劇をやってきたので役に自分を近づける感覚はわかるんですが、それを日常生活からやってしまうなんてどんな人たちなんだろうと思いました。

――ああ、演目だけでなく、江戸の役者に興味を持ったのですね。

蝉谷:そうです。自分と役者とでは全然違いますが、私も小学生の頃からずっと競うことが頭の片隅にあったので、役者たちの野心とか嫉妬とかそういう業の部分に惹かれたというか。
 それに、私も中学の時からアイドルにはまって、嵐が好きだったりしたんです。なので当時の女の子たちが歌舞伎役者たちに熱をあげて、着物に役者紋を入れたりしているところも「同志だ!」と感じたりして、それも興味がわくところでした。
 そこから時代小説も読み始めました。江戸時代のものがメインでした。最初は松井今朝子さんの江戸時代の歌舞伎の話などを読み、朝井まかてさんを読むようになり、宮部みゆきさんを読むようになり。

――そして歌舞伎を研究テーマとして選んでいった、と。

蝉谷:演劇映像コースの中には現代演劇や映画のゼミもあるんですが、私は児玉先生の歌舞伎ゼミに入りました。そこから自分でいろいろ調べるようになり、また歌舞伎を見に行くようになりました。

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