『焚書 World of Wonder』鴻池朋子

●今回の書評担当者●ジュンク堂書店池袋本店 福岡沙織

師匠も走る、12月。
慌ただしい月です。目の前の忙しさに囚われて、気持ちもひっぱられそうになります。
そんな時、ありませんか?どうやって、気持ちを保っていますか?

私は、ふと立ち止まるため、取り出す本があります。
『焚書 World of Wonder すばらしきせかい』 鴻池 朋子著。
表紙と共に、帯に惹かれました。いまだに外せず、かけたままにしている帯。表は「想像力は、速度を増して進んでいる」、裏は「鴻池朋子が本と遊びぬく 本の絵本 生命のうねりを描くドローイングの鼓動」と書いてあります。

帯が示すように、主人公と呼べるものは「想像力」。
形のない、連なる時間を必要としない、浮遊する意志。
その想像力を介して観るのは、切り取られた世界。混沌、世界の始まり、人間、ひとつの終わりが描かれる世界。何十億年を経たようにも、一瞬のようにも感じられる場面を飛ぶように、かけていく。だからか、ページをめくるまで、何が起きるかはわからない。どんな場面が描かれるのか、どう描かれるのか。一目ではわからない。想像力は、間接的に、意志を投げかけるだけです。

本の絵は、全てドローイングでつくられ、とても、緻密。一本の線さえ、息づいてみえます。ただし、この本は絵だけで完結していない。文が、絵から浮かび上がり、拮抗しています。主人公なる想像力をも内包し、文字に宿らせることで、物語をつくっていくのです。

「世界の初めに 信じるなんて なかった
 美しいも汚いも ひとつだったから
 ぜんぶ ひどくて ぜんぶ すばらしかった」

上記の文も、そのひとつ。最初、読んだ時は壮大な内容だなぁと思い、及び腰になりました。今は、少し、違います。生きる、というだけで十分に壮大で、おおきな流れに自分が、いるからです。命がある、というのはでっかい。同時に「信じる」をつかめるかと考える。

今は、とても、難しい。信じたい、とは思うけれど、信じる、まではいけない。
けれど、この本は絵本。いくつになっても、自身の子供であった部分と、大人になっていく部分とに呼びかけ続ける、絵本。最初は難しくても、いつか、自分の中で反応する事柄が生じるかもしれない。だからこそ、いまは目の前のことに、精一杯でありたい。慌ただしい時の中でも、生きること偉大さに感謝したい。

そんな、偉そうなことを考えながら、からのついたひよっこ、師走を駆け抜けます。

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ジュンク堂書店池袋本店 福岡沙織
ジュンク堂書店池袋本店 福岡沙織
1986年生。2009年、B1Fから9F、ビル1つすべて本屋のジュンク堂書店池袋店を、ぽかんと見上げ入社。雑誌担当3年目。ロアルド・ダール、夏目漱石、成田美名子、畠山直哉ファン。ミーハーです。座右の銘は七転び八起き。殻を被ったひよっこ、右往左往しながらも、本に携わって生きて死ねればそれで良いと思っています。