『女神のタクト』塩田武士

●今回の書評担当者●うさぎや自治医大店 高田直樹

音楽ですよ、音楽。
皆さんはどんな音楽が好きですか?
ポップスもいいね、ロックもいい。ジャズや民謡なんかもその奥深さに痺れたりするでしょう。
音楽を語り始めると、キリが無いなんて人も多い。
そういう自分はというと...なんも出てこない...何にも...すぐにキリが...

でも今回紹介したいのは、ずばりこれ。「女神のタクト」!
「タクト」っていうくらいだから...そうクラシック!
クラシックだよぉクラシックゥ。まともにきーた事ない。
でも読んだ。それは塩田武士の新刊だから!
あの『盤上のアルファ』の塩田武士だから。

ジャケがなんともかわいらしいので、買うのに(37歳のおっさんは)ちょっと照れたが、読んでよかった。
職と男をいっぺんに無くし、旅に出た明菜。偶然出会った小柄なじいさん。なんだかんだで、つぶれかけ楽団の再起のお手伝いをする事に。楽団の面々も個性派揃い。それを取り巻く面々もまた超個性派揃い。

本当に笑わされる。本当に。
今まで、「爆笑」って書かれた本を読んでもここまで笑った事はなかった。
(「爆笑」って書かれてる本もあまりないが)
P42のやりとりを読んで笑えない人はいないだろう。
まず間違いなく笑わされる。だって笑ったもん。
横に嫁さんがいたから、なんとなく恥ずかしくて声を出さずに笑ったけど。
それが余計に苦しかった。
もちろん、ただ面白くて笑える本じゃない。
後半には、思わず涙腺が緩む場面もたくさんある。
本当にうるうるした。37歳のおっさんが。
だって、いいシーンだったから。いい話だったから。

今まで、『クローズド・ノート』を読んでは万年筆にハマり、『猫を抱いて象と泳ぐ』を読んではチェスを始め、『アヘン王国潜入記』を読んではアヘンに...ハマらなかったけど、今回はクラシックにハマりそう。
CD買う。何買ったらいいか分からないけど。
作中に出てくるラフマニノフかなぁブラームスかなぁ...
(でもやっぱり、石川さゆりかも)

それくらいに全篇にクラシックが鳴っている。
素養がないのが、これほど悔しかった事はない。
でも、決して高尚な小説にはなってなくて、素直に笑えて楽しめてホロホロッと来てしまう、とってもいい小説だ。
ちょっと気分がクサクサした時とかに読めば、きっと前向きになって「また頑張ろー」と思える本だ。

冒頭でもふれたが、著者の塩田さんはすごい。引き出し多い。
将棋の次にクラシック。
そしてどちらも「人にお勧めしたくなる」一冊になってるから凄い。
これからも、目が離せない作家さんの一人だ。
次作にも強烈に期待したい。

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うさぎや自治医大店 高田直樹
うさぎや自治医大店 高田直樹
大学を出、職にあぶれそうになっていた所を今の会社に拾ってもらい早14・5年……。とにもかくにもどうにかこうにか今に至る。数年前からたなぞう中毒になり、追われるように本を読む。でも全然読めない……なぜだ! なぜ違う事する! 家に帰っても発注が止められない。発注中毒……。でも仕入れた本が売れると嬉しいよねぇ。