『マンガホニャララ』ブルボン小林

●今回の書評担当者●ブックス・ルーエ 花本武

 「サブカル」という言葉が発せられるとき、そこに一抹の揶揄を感じてしまう最近です。横丁カフェサブカル担当、花本です。プロ書評家の吉田豪さんは、サブカルの人々は四十過ぎるとしんどくなっているという説を唱えてます。なるほど、適合する例には事欠かないようです。さることながら、今回紹介させていただく「マンガホニャララ」(文藝春秋)のブルボン小林にあっては、四十過ぎてもあっけらかんとしていそうな気配が濃厚です。
 
 ブルボン、コラムニストデビュー10周年記念作品にあたる本作は、前作「ゲームホニャララ」(エンターブレイン)につづくホニャララサーガの二作目。この奇妙なタイトルの由来は、正式タイトルが決まるまでの仮題をそのまま採用してしまった模様。まさに「メメクラゲ」(つげ義春)状態です。ゲームのほうは自分にあまり馴染みがないジャンルにもかかわらず、興奮しきりだったのでマンガだったらどーよとの期待が裏切られることは、ありませんでした。
 
 表現の多様化した時代のマンガ評論が、ある程度恣意的にならざるを得ないことを差っ引いたとしても、なんとも自由闊達な書きぶりです。ブルボンというフィルター越しに展開されるマンガたちのおもしろそうなことと言ったら、通常の評論ではまず相手にされることのない麻雀マンガ「打姫オバカミーコ」の店内在庫をチェックしてしまったほどです。オバカミーコに限らず、なかなか語られることのないマンガ家、「コボちゃん」や「かりあげ君」などの四コママンガでおなじみの植田まさしについても、執拗に言及しているのが壮絶です。(しかも「FRaU」で。さらには、「プロレススーパースター列伝」も取り上げている。も一度書くが「FRaU」で!)
 
 ブルボンならではの独特な視点は、挙げればキリがないのだけど、最も悶絶したのが、タイトルのロゴにのみ注目して書かかれた一本です。「佐賀のがばいばあちゃん」をマンガ化した「がばい」の題字が怖い!とゆうだけのことを内容に一切触れずに綴ってあります。CDジャケットに「キン肉マン」のマイナーな超人ペンタゴンが採用されていたことに興奮する回も爆笑です。デーモン小暮をリスペクトしていたり(「ラジオ巌流島」つながりで言えば大槻ケンヂの方が評価は高そうだ)ペンタゴンを偏愛していたりするブルボンの心象は、実にファニーだとおもいます。

 一方で不条理四コマ「伝染るんです。」で金字塔を打ち立てた吉田戦車の実相が「言葉」マンガであることを喝破するくだりや、ドル箱マンガ家の浦沢直樹をきちんと批判するあたりには、ブルボンの骨っぽい一面とマンガへの深い愛着を読みとることができます。
 
 いろいろ書きましたけど、本屋で黄色っぽいハットリ君が寝転んでなにか読んでいる表紙を見かけたら手にとってみてください。パラパラやると色々なマンガの一コマが目に入るはずです。その中でピンとくるものがあれば、そこにあるコラムから読み始めてみてください。

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ブックス・ルーエ 花本武
ブックス・ルーエ 花本武
東京の片隅、武蔵野市は吉祥寺にてどっこい営業中のブックス・ルーエ勤務。通勤手段は自転車。担当は文庫・新書と芸術書です。1977年生まれ。ふたご座。血液型はOです。ルーエはドイツ語で「憩い」という意味でして、かつては本屋ではなく、喫茶店を営んでました。その前は蕎麦屋でした。自分もかつては書店員ではなく、印刷工場で働いていて、その前はチラシを配ったり、何もしなかったりでした。天啓と いうのは存外さりげないもので、自宅の本棚を整理していて、これが仕事だったらいいなあ、という漠然とした想いからこの仕事に就きました。もうツブシがきかないですし、なにしろ売りたい本、応援したい作家に事欠かないわけでして、この業界とは一蓮托生です。