『五〇年酒場へ行こう』大竹聡

●今回の書評担当者●東京堂書店神田神保町店 河合靖

 20歳位からかれこれ15年ほど通い詰めた居酒屋がある。
 ほぼ毎日結構な人数でラストオーダーまで飲んで、会計後も飲み足りなくて現金でビールを買い、横で店員さんたちが着替えているのもお構いなく追い立てられるまでダラダラ飲んでいた。多分当時その店だけで月に6万から8万円くらい落としていたと思う。

 その店こそ、大竹さんの名著『中央線で行く東京横断ホッピーマラソン』(ちくま文庫)で記念すべきスタートとなった居酒屋「加賀屋東京駅前店」だ。

IMG_9599.JPG



 加賀屋での出来事はそれこそ1冊の本でもおさまりつかないくらい面白話があるので前述にとどめておくが、とにかく落ち着く憩いの場だった(実際の店内はオヤジ達でいつも満員、すごくうるさくて、当時女子はほとんどいなかった)。

 加賀屋きっかけで大竹さんの事や「酒とつまみ」の存在を知り、現在は新刊が出るのを楽しみにしている。

 さて、今回紹介させていただく『五〇年酒場へ行こう』だが書名の通り、東京の老舗酒場34軒の飲み歩記である。(スタートは埼玉の東松山だが)今回はS社の編集者とカメラマンが同行するが、いやー彼ら(彼女)はよく飲む。でも大竹さんはもっと飲む。一行と別れた後も馴染みで深夜までズブズブなんですから。

 今回、大竹さんはそれぞれのお店の紹介を事細かに書いている。メニューは勿論、店主の話や店の歴史まで分かり、読み応え十分だ。僕はそんな中から独断と偏見で、まだ行ったことが無い店でこれから絶対に行ってみたい酒場ベスト3に絞って少しだけ紹介したい。

 1位は武蔵小金井の「大黒屋」に即決定。「クサヤ」を焼いて食べさせてもらえるという理由からである。僕が育った池之端界隈は、まだ僕が子供の頃、夕方になると必ずどこかの家でクサヤを焼いていた。あの独特な匂いが当たり前に漂っていた。今もしそんな事をしたならば近隣トラブルになる事間違い無しである。そんな昨今クサヤを出してくれる酒場にお目にかかった事が無い。僕はとにかくクサヤが食べたいのである(ビンに入っていて予め、ほぐしてあるものではなくきちんと焼いたものをだ!)。なんと大黒屋ではテイクアウトを頼む客もいるらしい。素敵だ。

 2位は根岸の「鍵屋」だ。通っていた中学(上野中学)から割と近かったのでその佇まいは
当時から知っていた。50歳をとうに過ぎたが、分不相応な気がして未だ行けてない老舗である。くりから焼きに、たたみいわし、それから冷奴で一杯やりたい。軽く飲んでから散歩がてら谷中に出て根津に下っていってもう一軒なんて最高!

 3位は神田老舗・名店巡り。「佐原屋」でハムカツと〆鯖(この組合せが頼める!)で日本酒か!ちなみに「佐原屋」は昼のランチもやっているらしい。気分が良くなってきた所で 店を出て次なる名店「帆掛鮨」へ向かう。燗酒を飲みながらコハダ、穴子、ウニと握ってもらい最後は干瓢巻きで!まだまだもう一軒。今宵最後はおでんの「なか川」で。カウンター10席ばかりの小さな店である。おでんはもとより、カウンターに盛られた手づくりの酒肴各種、その日、その季節の刺身なども格別で酒呑みはたいていコロっと参る。さらに、ご主人はかなりの男前らしい。

 どうですか! 仕事を早く切り上げて繰り出したくなる名店の数々ではありませんか。
 こんなお店が34軒紹介されている1冊です。

 さてさて季節も秋。競馬もいよいよG1戦線突入。G1開催の当日はめちゃめちゃ混むので前日の土曜日あたりに一丁繰り出して府中競馬正門前駅改札横の名店「川崎屋」でレース前に軽くやって、3レース目くらいからメインまで勝負して、また戻って祝杯? といこうかな! 大竹さん、ご一緒にいかがですか!

« 前のページ | 次のページ »

東京堂書店神田神保町店 河合靖
東京堂書店神田神保町店 河合靖
1961年 生まれ。高校卒業後「八重洲ブックセンター」に入社。本店、支店で28年 間勤務。その後、町の小さな本屋で2年間勤め、6年前に東京堂書店に入社、現在に至る。一応店長ではあ るが神保町では多くの物凄く元気な長老たちにまだまだ小僧扱いされている。 無頼派作家の作品と映画とバイクとロックをこよなく愛す。おやじバンド活動を定期的に行っており、バンド名は「party of meteors」。白川道大先生の最高傑作「流星たちの宴」を英訳?! 頂いちゃいました。