『昆虫交尾図鑑』長谷川笙子

●今回の書評担当者●あおい書店可児店 前川琴美

 書店で勤めていると、週刊誌やコミックの表紙で沢山のエロを目にする。エロがどれだけ経済を回しているかを痛感させられる。人間の発情期がのべつまくなし年中無休であることに感謝する毎日。もし発情期が例えば春に限られていて、夏秋冬はエロ売り上げに応じてお給料が少なかったら困る。オールシーズンお腹は空くんだもん。世の中は美味しい物だらけだぜ畜生! サンキュー、エロ!(私の勤めている書店は袋とじなどは置かないステキ書店です)

 さて、この地球上には人間以外ももちろんそれぞれエロがある。例えば夕焼けの田んぼで二匹で器用に飛んでいるトンボなどを見かけて、謎に思ったことはないだろうか。ち、ちょっと君達、今、絶頂なんですか!? 興奮していらっしゃるところ申し訳ないが、そして余計なお世話であるのは重々承知だが、アクロバティックにも程がないですか? と。

 そんな虫の交尾の様子を正確だが暑苦しいイラストと共にトリビア解説したものがこの本だ。別に48種類マスターしなくても子孫繁栄出来るのに、四十八手という性交の体位を相撲の決まり手のようなネーミング(どんだけ暇なんだ)を冠したものがあるが、この本ではそれを模して様々な虫のステキ体位が紹介されている。

 ちなみに表紙のカブトムシの紹介はこうだ。「突撃!隣の晩ご飯 忍びより添い」。説明しよう! カブトムシの雄はご飯に夢中になっている雌にそーっと乗っかり、ちゃっかり交尾を勝手に始めてしまうのだ! しかも、雌はお構いなしに淡々と食事続行中......カタカタ腰を振っている雄など目もくれず......って、ちょーっと、君達、あ、あんまりじゃないですか?

「猟奇的な彼女 問答無用」と題されたカマキリの交尾は、コトに及んでいる最中に雌が雄の頭をもりもり食べ始める。最終的には生殖器のある端っこだけが残り、交尾終了ー! って、お父さーん! その用済みになった生殖器も最後、いや、最期、食べられるんですかー!(猪木の「元気ですかー!」的質問応援)。

「全世界長時間交尾選手権 死にもの狂い」これはミナミアオカメムシの交尾が人間に例えると2年間(!)かかるという習性から付けられたものだ。2年といえば、前田敦子が卒業してから大島優子が卒業するくらいの期間である。しかもこのカメムシは飲まず食わずで文字通り命がけだ。カマキリにはあまりの残酷さにツッこんでしまったが、こちらのカメムシには、良かったらお父さんをこの際食べたらいかがですかと推奨したくなる。まあカメムシは交尾しながらお父さんを食べるには色々短すぎるのかも知れない。または食べたら卒倒するような悪臭......良い子孫残してくれよ、チャオ! 臭がうっとうしいのかも知れない。

 人間も虫も子孫を残す為に必死だ。様々な生き物の繁殖方法を比較して楽しめる本書は、虫もエロ対象として守備範囲である方には更に楽しんで頂ける一冊でもある。

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あおい書店可児店 前川琴美
あおい書店可児店 前川琴美
毎日ママチャリで絶唱しながら通勤。たまに虫が口に入り、吐き出す間もなく飲 み下す。テヘ。それはカルシウム、アンチエイジングのサプリ。グロスに付いた虫はワンポイントチャームですが、開店までに一応チェック! 身・だ・し・な・み。 文芸本を返品するのが辛くて児童書担当に変えてもらって5年。