『永遠の0』百田尚樹

●今回の書評担当者●有隣堂川崎BE店 佐伯敦子

 今、百田尚樹が熱い! 2010年は、尚樹イヤーになるのでは? 友人に薦められて読んだ『Box!』超かっこいいし!(なんと言っても、幼稚園児の頃『あしたのジョー』を貪り読み、丹下のおやじを真似るのがマイブーム。初恋のS君だって、高校生ボクサーだったさ!)『風の中のマリア』もすごくいいし、(もう、読んだら心は、みなしごハッチてなもので、飛べえ、飛べえとリピートしまくり。)そして、『モンスター』も最高の出来。(女は誰だって、整形の一つや二つやってみたいものなんですよ。)
 
が! が! 『永遠の0』は、まさに歴史に残る名作。傑作中の傑作。児玉清さんは、帯に「ぐっと涙をこらえた。」と書かれていらっしゃるが、「唖然として、それから、こんな男がいたら、もうかっこよすぎて惚れてしまう。」と思ってしまったくらいです。戦争を知らない世代は、必ず(必ずです。)読まなければいけない、日本の悲しい太平洋戦争の歴史が、まるごとわかってしまうすごい一冊です。

 私だって、戦争を知らない世代。いくら歴史の教科書を、丸暗記したって、いなごの佃煮を前に、祖父母から生きた戦争体験の話をいやというほど聞かされても、所詮は、飽食バブルの時代に育ったジェネレーション、まったく肌にも、心にも、戦争の悲惨さなど、染み込んでこないお気楽者でございます。お国のために命を落とすことが、かっこいいなんてまさに夢にも思わない世代です。もし、国のために死ねと言われたら、迷わず逃げます。全速力で。

 このお話は、零戦に乗って散っていった宮部久蔵の、血のつながった孫にあたる佐伯健太郎(あっ、同じ名字だ。)が、姉の慶子とともに、終戦から六十年目の年に祖父の面影を求めて、当時の特攻隊員であった宮部の素顔を知ろうと、関係者に会って、話を聞こうとするところから始まります。特攻隊員は、狂信的な愛国者であり、祖国のために命を投げ出すことも惜しまず、むしろ喜びを感じながら、戦っていったと二人は聞きかじりの知識で理解をしていました。

 「一番の夢は?」と訊かれた宮部は、「生きて家族の元に帰ることです。」と答え、海軍航空隊の戦闘機搭乗員として"臆病者"のレッテルを貼られます。"死ぬことを最も恐れていた宮部久蔵"。でも、本当は、違っていました。真実は、違っていたのです。宮部は、愛する妻と生まれたばかりの娘のところへ何としてでも帰ろうとしていたのです。

 夏が来ると、終戦記念日が来ると思い出します。かつて、この平和な国にも、"戦争"という過去があったということを。平和な時間が続けば、続くほど、"戦争"の二文字は、書籍の中での、絵空事になり、どんどん私達の心の中から、風化されていってしまいます。毎日のささいなイライラ、クレーム(わおっ。)乱丁本などにムカっとすることもありますが、あの太平洋戦争という逃れられない大きな渦の中で翻弄された人々のことを思えば、目の前の出来事など、鼻息でふっと吹き飛ばせるのではないかと、さえ思ってしまいます。

 この本のすごいところは、歴史の知識がほとんどない私でも、あの戦争はなんだったのか? どのように進んでいったのか? 本当は、何が起こっていたのか? 手に取るようにわかりやすく描かれていて、それだけでも読むに価する素晴らしい物語です。
 
 一番好きなシーンは、宮部が戦死した後、宮部の外套をまとった大石が(のちの慶子と健太郎の祖父になる)、宮部の妻だった松乃に会いに来た日を、松乃が回想するところです。「私は、宮部が生まれ変わって帰ってきたのだと思いました。」"死んでも、必ず松乃の元に帰ってくる"と約束をした宮部。ああ、一生に一度でいいから、こんなに深く潔い愛情にくるまってみたいものだと思いました。(無理か...)
 
 文庫になって、面白い本に選ばれて、ツイッターで騒がれ始めて読んだので、何だか書店員としては、"出遅れ感"がぬぐえないのですが、私にとっては、生涯のベスト10に入る「一生愛してやまない一冊」になりそうです。

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有隣堂川崎BE店 佐伯敦子
有隣堂川崎BE店 佐伯敦子
江戸川乱歩の少年探偵団シリーズが大好きで、登下校中に歩き読みをしながら、電信 柱にガンガンぶつかっていた小学生は、大人になり、いつのまにか書店で仕事を見つけました。あれから二十年、売った本も、返品した本も数知れず。東野圭吾、小路幸也、朱川湊人、宮下奈都、大崎梢作品を愛し、有隣BE姉、客注係として日夜奮闘しています。まだまだ、知らないことばかり、読みたい本もたくさんあって、お客様から、版元様から、教えていただくことがいっぱいです。