『恋と退屈』峯田和伸

●今回の書評担当者●正文館書店本店 清水和子

恋をしました。峯田和伸に。(以下峯田君)峯田君はバンド:銀杏BOYSの歌手です。これは峯田君のブログの、1年半を書籍化したものです。この本を読んでる数日間、峯田君の事で頭がいっぱいでした。仕事中も、早く続きが読みたいよう〜と思っていました。この日記は下品な所も多々あって、わぁ〜こんな事迄書いちゃって良いのかしか?とか、所謂「青春の汚点」なのでは......とこちらが心配してしまう所もあるけれど、峯田君は直球勝負でばば〜んと書いていて、それがとても爽やかなのです!峯田君がばばん!と書いたその心がその儘こちらにどがん!とくるのです。

私は思い出しました。「あんた、まるごとそこにいるのね」「どういう意味?」「だからさ、あんみたいな人、会ったことないわよ」「そう?」「他の人は10%か20%しかいないの。あんたはまるごと、全部のあんたがそこにいるの。大きな違いよ」『勝手に生きろ!』チャールズ・ブコウスキー(河出文庫)嗚呼峯田君はまるごとだ。まるごとって実は凄い。凄くて大変だ。格好悪いって、三周位すると他を寄せ付けない程の格好良さになるんだなぁ。初めて知った。惚れられずにはいられないです。

峯田君はしょっちゅう泣く。女の子の可愛さに泣き自分の情けなさに泣きメンバーの演奏に泣き自分のステージで泣く。この1年半、色々な事が起きる。友達の友達が地震で死んだり高校の時から一緒にいたマネージャー江口君がうつ病になったり彼女と別れたり出逢ったり骨折で入院したりステージ上で全裸になり公然わいせつ罪で出頭したり。峯田君の日常は峯田君と共に光り輝いています。

くるりの岸田君との対談を以前読んだ事があります。2人共四六時中メロディーが浮かんでくるそうです。勿論まだこの世には出ていない自分の内だけのメロディーです。そんな、ミュージシャンという人々にその時大変感銘を受けました。峯田君は、でもそんな自分を「歌手」と記す。その意識も凄い。

毎日の日記の終わりには、おやすみBGMとして様々な曲が紹介されています。日本のフォークからブリティッシュロック、アメリカンロック、落語や寅さん迄あらゆるものが網羅されてあってそれもたのしいです。

目をじっと見つめながら、または俯きながら、親密に喋っている様な峯田君の文章。本人は「ライ麦畑でつかまえて」のホールデンをお手本にしているそうですが、そんな事は関係なく、この文章を読んだ人は老若男女問わず、峯田君に恋してしまうと思います!今の所2010年マイベスト1位!なのであります。

« 前のページ | 次のページ »

正文館書店本店 清水和子
正文館書店本店 清水和子
名古屋の正文館書店勤務。文芸書担当。名古屋は良い所です。赤味噌を笑うものは赤味噌に泣くぞ!と思います。本は究極の媒体だ〜。他の書店に行くのも図書館に行くのもすき。色々な本がすきです。出勤前にうっかり読んでしまい遅刻しそうになり、凄い形相で支度してることもしばしば。すぐ舞い上がってしまうたちです。(特に文学賞発表のときなど)すきな作家の本の発売日は、♪丘を越え行こうよ〜の歌が頭の中でエンドレスに流れてます。誕生日占いが「落ち着きのないサル」だったので、心を静めてがんばりたいです。