『くちびるに歌を』中田永一

●今回の書評担当者●うさぎや自治医大店 高田直樹

音楽ものが続く......勝手に......流行ってるんでしょうか? 個人的に。
今回は、合唱。 そう、あの合唱。 みんなで声を揃えて気持ちを合わせて唄う合唱。♪ららら~♪って。♪ははは~ん♪って。
合唱にまつわる思い出と言えば...そうねぇ......何もない......全然。
でもなんだか爽やかそうだ。清い感じだ。穢れとか無さそうだ。とってもキレイだ。とにかく。

......
舞台は五島列島にある、とある小さな中学校。
淡々と過ごしていた合唱部。
顧問の先生の「ご懐妊→しばらく休養」をきっかけに変化が訪れる。
代理の先生は、男子生徒騒然の美人先生。
それまで"女子部"だった合唱部に次々と男子の入部が!
秩序は乱れるわ、それまで女声合唱オンリーだったのに、混声合唱するはめになるわ......近づいてきた大会を前に、どうする部長!まとまるのか合唱部!...というのが、大きな流れ。 
また、サイドを流れるのは、家庭の事情もあって友達がいないサトルの話。
サトルはとにかく、"閉じて"いる。いっつも「ぼっち」。
上手く気持ちを言えない事が転がって、入部する事に......。
どうなるサトル!......

サトルの抱える複雑な思い。伝わってくるんです。
"いい""わるい"じゃ割り切れない中で出てくるセリフ。
苦しいんです。サトルと一緒に。


いい話です。純粋に。
男子生徒のザワザワした感じ、秩序が崩れた部を前に苦悩する部長、傍観するしかない者、崩れた秩序を楽しんでしまう者、人物それぞれの抱えているもの、
場面場面の心の動き...キレイに伝わってくる。
描かれ方が丁寧なんでしょうね。読者は素直に引き込まれていればいい。

部のみんなと一緒になって、笑ったり、悩んだりしているうちに気づいたら合唱の列に並んでいる。一緒になって声出している。
読んでいる間中、つねに合唱が響いている。キレイな声に包まれている。
そうこうしてたら、涙腺が......涙腺が......となる。
特にP271から! こんな場面描かれたら......こらえていたものもあえなく崩壊。
ホロホロホロ......字面が滲む。

37歳、泣いた。まだまだ捨てたもんじゃないな。自分。
ピュア~なハートが残っていた事、再確認。

***
実はこの本の前に集英社刊「なずな」も読んだ。
こちらもいい本だった。
両作とも「ナズナ」という女の子が出てくる。
なんだか「ナズナ」に奇妙な縁を感じた年末年始だった。

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うさぎや自治医大店 高田直樹
うさぎや自治医大店 高田直樹
大学を出、職にあぶれそうになっていた所を今の会社に拾ってもらい早14・5年……。とにもかくにもどうにかこうにか今に至る。数年前からたなぞう中毒になり、追われるように本を読む。でも全然読めない……なぜだ! なぜ違う事する! 家に帰っても発注が止められない。発注中毒……。でも仕入れた本が売れると嬉しいよねぇ。