『デフ・ヴォイス』丸山正樹

●今回の書評担当者●うさぎや自治医大店 高田直樹

秋ですよ、すっかり秋です。
9月はいつになく本が読めた...幸せな1か月間...。
仕事もあったし、なんだかんだ忙しなかった(いつもだけど)。でも読めた。色々読めた9月だったが、特に沁みたのはこの一冊。沁みた沁みた本当に沁みた...。

......そうですね、とっとと紹介します。
今回紹介したいのは、「デフ・ヴォイス」。第18回松本清張賞の最終候補作にもなった作品。「聾者」と「ミステリー」という難しいテーマを取り上げながら、見事に素晴らしい作品になっている。

あらましをちょっとだけ......。
何処か排他的な荒井は、生活のために手話通訳士になる。
それは、荒井自身の小さいころからの生活から考えると自然な事と言えるのだけれど。
手話通訳士になり様々な仕事に関わる中での運命的な出会い、関わる事になった事件。荒井の過去も響きながら、それらはひとつ残らず運命的。全て必然であって因果的なもの。
荒井にしか解き明かせない真実、溶かせない心情......。果たして荒井は、悲しみの連鎖が生み出した事件の深層に辿り着けるのか......。

全篇を通じて、著者の伝えたいメッセージが溢れている。
ここまで、メッセージがキレイに響いてくるミステリーは他に無いんじゃないか? 心打たれる。

この作品を読んで、今まで自分の無意識、無関心、無知にとにかく恥じ入った。聴覚に不自由さを持ちながら生活されている方々への"偏見"にも気づかされた。
それは、聾者の方々の苦労・苦悩がどのようなものであるのかだったり、いかに手話が豊かな感情表現を持つのかという事であったり......。

まだまだ「解った」事には程遠いのだろうけれど、この作品で「知る」事が多かったもの本当。

ミステリーとしても、真相が徐々に明らかになっていく過程がとてもしっかりしていて、読ませる。ミステリーを何冊も読んでる人でも、しっかり愉しめると思う。「社会派」ではあるけれど、エンターテインメントとしてもきちんと成立させている所が広い読者に受け入れられている部分か。

クライマックスでは、字面が滲む。
手話で交わされる濃密な会話。行間から感動が零れ落ちる。

ずらずら書きましたが、この作品の良さは自分ごときでは表せない。
ぜひぜひ、多くの方に読んで欲しい。久しぶりの心に沁みる一冊でした。
著者の丸山正樹さん、この作品が小説デビュー作との事。
次回作、ものすごく期待。

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うさぎや自治医大店 高田直樹
うさぎや自治医大店 高田直樹
大学を出、職にあぶれそうになっていた所を今の会社に拾ってもらい早14・5年……。とにもかくにもどうにかこうにか今に至る。数年前からたなぞう中毒になり、追われるように本を読む。でも全然読めない……なぜだ! なぜ違う事する! 家に帰っても発注が止められない。発注中毒……。でも仕入れた本が売れると嬉しいよねぇ。