『秘島図鑑』清水浩史

●今回の書評担当者●農文協・農業書センター 谷藤律子

 本邦初の行けない島のガイドブック。
 ここでいう秘島の定義とは人口がゼロであること、島に行けないこと。交通機関がない。など。そんなガイドブックのどこにいったいニーズがあるかのか!?と思いきやページをめくればハマるハマる秘島の世界。

 日本にはおよそ7000の島があるという。本州内陸に住んでいると、それだけでも想像がむずかしいのだが、ここの本に登場する島は同じ国の別の世界のようだ。

 無人島とはいえ、自衛隊演習や気象観測などで人が出入りしている島もある。中でも10日間交代の宮司がひとり出入りする玄界灘にある沖ノ島、気になる。

 島全体が御神体として祀られているため女人禁制。一般男性が上陸できるのも年に一度の大祭の日だけ。それ以外は宗像神社から派遣される宮司が交代で一人派遣され、島を守っている。10日間無人島でたったひとり!!

 多くの島が今は無人島でももともとは住民がいた。
 火山の噴火により多数の死者を出し移転を余儀なくされた島、または開発目的で入植し、資源が枯渇したことで捨てられた島、戦地として荒れ果て、復興ならず無人となった島。過疎による廃村。

 読み進めると日本の島々は硫黄とアホウドリが一大産業だったことがわかる。アホウドリは羽毛が重宝されたのだ。「硫黄島」「鳥島」とつく島の多いこと。
 硫黄は島の形が変わるほど堀りつくされ、アホウドリはひとり一日100羽を撲殺した島も。

 生きることに必死だったとはいえ「環境」という概念のない時代の欲望ラッシュは島ひとつ飲み込むのに十分だったのだ。それは昔の話ばかりでない。

 鹿児島の馬毛島の上空写真は島を分断するほどのどでかい滑走路が中心に1本、その周辺の平地はハゲ山のように無残に刈られ唖然とするばかりだが、これは島自体が投機対象となった果ての姿。昔はトビウオ漁の漁師たちが滞在した島だったそうだが。

 と、書くとちょっと物悲しくなってしまいまいたが、これらの事実を上回るロマン感、わくわく感が本書にはあふれている。日々私たちが暮らしている同じ日本という政治や経済システムを共有しながらも、島には別の時間が流れているよう。淡々と海の上に浮かんでいるこの島もあの島も、まぎれもなく日本の一部なのだ。もう不思議としか言いようがない感覚。外国へ渡るのは、飛行機や船で「横移動」する感じだが、この島々の姿は異次元に飛んでいく感じ。確かに現存するパラレルワールド。

 ガイドブックなのに「アクセスなし」の島ばかりだが、想像上でどこに行ってみたいかなあと考えながら眺めるのもなかなか楽しい。福岡の沖ノ島なんて古代の発掘物8万点がすべて国宝指定になった「海の正倉院」と称されているそうですよ。ここに行けないなんて日本広すぎる。

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農文協・農業書センター 谷藤律子
農文協・農業書センター 谷藤律子
版元の農文協直営、日本で唯一の農業書専門店です。農林漁業・地域行政・環境・ガーデニング・食文化など農に関する分野を幅広く集めています。出 版界には長くいるものの、本社事務職勤務から当店への転属により書店員業はやっと2年生。となり同士でも別世界にように違う本屋ワールドは見るも の新しく、慣れないながら日々精進中です。また、書店員のほか個人で作詞家としても活動しています。趣味は沖縄芸能で、三線を抱えて被災地の仮設 住宅やデイサービスなどを仲間たちと旅一座でまわっています。
<農業書センター公式サイト>http://www.ruralnet.or.jp/avcenter/