『質問』田中未知

●今回の書評担当者●紀伊國屋書店仙台店 山口晋作

不幸なですが、同じ本を二冊買ってしまったことがあるという人はきっと多いと思います。店頭で面白そうだなと思って購入→思ったほど面白くない→面白くないものにお金を使ったとは業腹である、早く忘れよう→はい忘れた→後日、店頭でははん、これは面白そうだ→購入→はっ!。なんてプロセスによるものが多いと思いますが、なかなか納得できないですよね。ついでに言うと、レンタルビデオもよくやっちゃいますね。

蔵書というのにはあまりにおこがましい私の本棚にも、同じ本が隣り合っている箇所がいくつかあります。その殆どは上にあげたような失敗の産物なのですが、唯一意図的に買った本が揃えたのが、この「質問」です。

学生の頃、八王子の書店にポツンと一冊置かれていたの買って、これはなかなかいいなと思っていたのに、引越のドサクサで紛失。思い出して買おうと思ったら、どうも版切れらしい。そうなるとどうにも貴重なものに思えて、出版社(アスペクト)の方に聞いたらちょこちょこと重版はしているとのことで、そのちょこちょこのときに5冊購入しました。5冊も買ったのは、自分で複数冊持っていたかったのと、いつか気の合いそうな人へのプレゼントになるやもしれぬと思ったからでした。そんな機会はなかなかないんですけどね。

この730頁からなる白い本は、右からに開くと日本語で、左から開くと英語でそれぞれの頁には、
「希望というのはなぜ二字だと思いますか」
「高所恐怖症の鳥もいるのでしょうか」
「今までに忘れた人は全部で何人いますか」
といった、はっとするような鋭さが秘められ、美しく答えたい、ここで自分を何パーセント出せるか試したいと思わせるような「質問」が365個並べられています。

私も数年前、毎日この「質問」に答える作業を日課にしていましたが、自分の内面に向き合い、考え始めたときにも思いもよらなかったような、そしてしばらく経ってから見直すとよくぞここに辿り着いたと感心してしまうような答えを、自分の中から見つけ出す行為はとても刺激的なものでした。もちろん気が向いたときに眺めるのも楽しいものですが、一日一題に答えるとでちょうど一年かかります。よく自分探しと称して遠くへ行ってしまう人がいますが、この一冊と一年間向き合うのというのも充実した長い旅になると思います。

著者の田中未知は、寺山修司の秘書を長年勤められた方で、本書が1977年に発行されたときの出版元「質問舎」は、天井桟敷で雑誌『地下演劇』を編集していたグループだそうです。青森県三沢市にある寺山修司記念館では、寺山がこの「質問」に答えている映像(の抜粋?)を観ることができますが、青森弁で訥々と語るその姿はなかなか味のあるものでした。

在庫がない時期が多いので、なかなか買いにくい本ではありますが、手元に置いておくとなにか心強い本です。ぜひ探して手に取ってみてください。

« 前のページ | 次のページ »

紀伊國屋書店仙台店 山口晋作
紀伊國屋書店仙台店 山口晋作
1981年長野県諏訪市生まれ。アマノジャクな自分が、なんとかやってこれたのは本のおかげかなと思いこんで、本を売る人になりました。はじめの3年間は新宿で雑誌を売り、次の1年は仙台でビジネス書をやり、今は仕入れを担当しています。この仕事のいいところは、まったく興味のない本を手に取らざるをえないこと、そしてその面白さに気づいてしまうことだと思っています。