第十三回 女100年の政治と経済――男女平等、下から見るか?上から見るか?(中編) 対談ゲスト:佐藤千矢子さん
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【対談ゲスト:佐藤千矢子さん(毎日新聞専門編集委員)】
クオータ制のさまざま:本当の機会均等とは
平山 性別クオータ制(注1)についてお聞きしたいです。政治や会社運営の決定の場に一定数の女性を入れようという制度で、例えば内閣府では2030年までに女性役員を30%以上にする目標がありますが、一方で割り当てとして先に決定するのは逆差別という批判もあります。佐藤さんとしてはやはり必要だというふうに思われますか?
佐藤 そうですね。一口に性別クオータ制(以下クオータ制)といっても政治分野もあれば経済分野もありますし、政治分野も議席を割り当てるとか、候補者を割り当てるとか、政党が自主的にやるとか、いろんなやり方がありますけれども、基本的な考え方は機会均等ではなくて結果の均等をある程度保障するというものですよね。それで、反対する人は、機会を均等に与えるならいいけど、結果の均等を与えることは男性に対する逆差別になるという主張だと思います。じゃあ本当に機会均等なんですか、スタートラインは一緒なんですか?というところでいうと、全然一緒じゃないわけです。
働く人の例でいうと、家庭内の無償ケア労働、育児とか介護とか、家庭の負担を国際比較すると日本は圧倒的に男女の差が大きい。日本の男性って本当に家事育児をやらないんですよ。それで男女が同じように働いていいですよと言われても、家庭の負担を同等にしてもらわなければ同じようには働けない。だからみんな制限勤務を選ばざるを得ないわけです。やはり社会進出するには、機会の均等が本当に実現されているかというところをまず問わなければいけないし、それができないんだったら、クオータ制で強制的に変えさせる必要がある、やらざるを得ないところまで来ているのではないかと思います。欧州各国は性別クオータ制を採用しているところが多いわけですしね。
平山 そうですね。
佐藤 フランスも1990年代は遅れていましたが、1999年にパリテ法(注2)ができて2000年代以降には経済、政治、さまざまな分野でクオータ制を導入して、男女均等を実現していきました。自民党の男性政治家と話していると、高齢世代の人たちは昔ながらの主張をするわけです。逆差別になるとか、あるいは「男性議員であっても女性の有権者を含めた声を代弁しているんだ」とか。
平山 ああ......。
佐藤 でも女性の苦労はおじさん政治家にわからないじゃないですか。自民党の男性議員でも四十代ぐらいまでの人と話していると、時限的にクオータ制を入れて女性の数を引き上げることはやってもいい、ただ上の世代の政治家を説得できないからやれないみたいなことを言います。世代の違いも随分ある気がしています。
平山 フランスのパリテ法の場合、守らないと政党助成金を減らすという罰則があるんですよね。これは大きいですよね。日本の男女雇用機会均等法も男女共同参画社会基本法も促進とか目標ばかりで罰則がないところがちょっと......。
佐藤 そうですね。クオータ制も各国によって違って、政党が独自でやっているところもあります。韓国だと比例の女性比率が決まっていて、罰則ではありませんが比例名簿を受け付けないというやり方をしています。とても参考になりますよね。
平山 なるほど。台湾もクォータ制を導入していますよね。
佐藤 そうですね。
平山 フランスは面白くて、候補者は男女ペアを組んで立候補も選挙運動もしなきゃいけなくなり、2007年には立候補する際、補欠は必ず異性にしなきゃいけなくなりました。
佐藤 ああ、そうですよね。
平山 それでフランス南西部の県を牛耳っていた一族の息子で、30年間も議長を務めていた女性嫌いの県議が、慌てて議長選に女性を擁立したけど落選して、ペア選挙制のおかげで王国が終焉を迎えたと言われたり......。
佐藤 (笑)。私も以前はどちらかというとクオータ制には反対でした。おじさんに同調してやってきた方なので、やっぱり数を強制的に決めてしまうと、能力的に届かない女性を採用しなければいけないとか考えてしまっていました。あるいは新聞社の場合だと、私の政治部長時代、紙面に登場させる政治学者に女性を出せといわれたんですけど、女性の政治学者って本当に少ない。社内の紙面審査の会議で「もっと女性を使わなければダメじゃないか」といわれて「そんなこと言ったって人がいないんですよ」といったことがあるけれど、それは言い訳で、今となっては極めて反省しています。探せばいくらでもいるし、育てる気持ちも大事だし、いろんなところで声掛けしないといけない。
例えばテレビ番組の出演オファーも、制作側の男性が使いやすい人に声をかけることが多いわけです。今は意識的に女性を連れてこようとしますけれども、まだまだそこまでいかない分野では、どんなに能力がある女性でも男性のネットワークになかなか引っかかってこない。チャンスを与えれば最初の2、3回は失敗するけど、4回目、5回目にはうまくなっていくと思うし......。
平山 チャンスがなければ経験も積めないですもんね。
佐藤 そうなんです。それをやっぱりやらないと。
平山 能力のお話が出ましたが、野田聖子さんと辻元清美さんの『女性議員は「変な女」なのか』のなかで、女性には国会議員の能力がないと言われるけど、国会議員の能力は何かと言ったら、結局は共感力とか傾聴力だと語られています。いろんな人の窮状を聞いて、それを法律にしていくのが仕事だから。じゃあ、特権階級のおじさん議員たちにはそれがあるのかなということを言っていて、すごく興味深かったですね。
佐藤 男性政治家は能力を問われないのに、女性ばかり問われるというところはありますよね、本当に。能力のある男性議員もいっぱいいるけれど、答弁でも紙ばかり読んでいる人とか、官僚に答弁を作らせて何もやらない人とかもいっぱいいますから。でも男性は言われなくて女性は言われる。
平山 ご著書にも書かれてましたよね。女性が失敗するときだけ言われると。
高市首相はメローニ、メルケル首相のように変われるか
平山 奇しくも昭和100年の今年、日本初の女性総理、高市早苗首相が誕生しましたね。先ほどの『女性議員は「変な女」なのか』で、野田聖子さんが、自身何度も総裁選に挑戦している理由として、国民が女性の政治家や女性総理に目が慣れることが大事だと。土井たか子さんなどは象徴的で、土井さんが旧兵庫2区から出たことで、今も尼崎市、芦屋市辺りは女性議員が多いのですが、女性でもできることをみんなが知るためにも、女性総理の誕生は大事だと言っています。それはそうだなと思ったんですけど(但し『女性議員は~』は高市総理誕生前の出版)。高市さんについてはどう思われますか?
佐藤 うーん、これは評価が難しい。ガラスの天井(注3)を破った意義はもちろんあるんだけど、高市さんは男性社会に同調して出世の階段を上がってきたような人で、ジェンダー政策にはほとんど興味がないですよね。首相になって出している政策は強い国家とか強い経済で、あまり個人にフォーカスしたような政策もない。ジェンダー政策も進まないだろうことを考えると、女性から歓迎するものには必ずしもならないだろうなという懸念は持っています。高市さん自身、サッチャー元首相(注4)を尊敬していることもあってサッチャーとちょっと似てますよね。サッチャーもガラスの天井を破ったけれど、労働組合たたきとか、強い経済とか、強い者にはより強く、弱い者は叩く感じがあって、評価が分かれます。
だから、とりあえずガラスの天井を破って一歩踏み出したという意義だけで、ここから始めていかないとまずいなということと、あと高市さんにぜひ変わってほしいと思いますね。イタリアのメローニ首相(注5)も極右の政党から出てきて、ジェンダー政策には無関心でみんな心配したけれども、EUとの関係とかアメリカとの関係とか、かなり現実的な政策をやって、首相としてすごく評価が高まっているので、変わることはできると思います。現実路線に変えてほしいなと思いますね。
平山 そうですね。最初は男性迎合型でも、何年かしたらちょっと余裕が出てきて......。
佐藤 ドイツのメルケル元首相(注6)がそうだったんです。メルケルはコール首相の後ろ盾で出てきた人ですよね。以前、ドイツ人の外交官でメルケルについてよく知っている人が言っていたのですが、メルケルは最初はジェンダー問題に興味がなかったんだけど女性の採用者が増えていくなかで変わっていったそうです。「あなたはフェミニストですか?」とメルケルが質問された記事があって、2017年ぐらいにはすごくまどろっこしい言い方でそうじゃないと答えていたんだけど、今や「私はフェミニストです」と答え方が変わったという記事を読んだことがあります。メルケルは学んだんですよね、いろんなことを。高市さんはそうはならないのかなと思いますけれども。女性の首相のもとでもやれるとみんなに認識させるという意味はありますね。企業でもそうですけれど、女性上司のもとでもやれるんだな、命取られないんだなと思わせる意味はあると思います。
あとは失敗した時に女性だからって叩かないことが大事。高市さんの場合はその心配はあまりないかな。ガラスの天井とよく一緒に言われるのがガラスの崖(注7)。組織が危機的な時にある時ほど、トップとか管理職に女性が登用されやすい。失敗した時に切りやすいから。2025年秋の総裁選の後、FCCJ(日本外国特派員協会)に呼ばれて記者会見したのですが、米メディアの女性記者から「高市さんの就任はガラスの崖ですか?」という質問が出ました。私はガラスの崖だとは思わないです。高市さんは女性だから選ばれたという要素が良くも悪くもあまりなかった。参政党とか国民民主党に保守層を取られてどうにもならないから選ばれただけ。だから保守なら男性でも良かったと思うんですよ、たまたま女性だっただけで。多分高市さんが失敗した時に女だからという評価にはならないだろうなと思っています。でもそこは警戒して見ておく必要があるのかなと思います。
平山 なるほど。高市さんはパーソナリティがあまりよく見えないんですけど、女性問題に関心がないことに少しでも危機感を覚えるようなことがあったらいいなとは思ったりするんですけど。
佐藤 それはあんまり期待できない。ただ高市さん、更年期障害があって、同じ時期に関節リウマチにもなって、片足に人工関節が入っていることを総裁選の時に初めて明かしているんです。足が悪いのは更年期障害のせいでしょうと病院に言われて正しい診断がなかなか下らなくて、結局悪化して人工関節になった。女性は生理だってあるし男性にわからない問題があるので、みんながもっとオープンに話せるように、そしてちゃんと働いていけるように考えなきゃいけないという趣旨のことを総裁選の時に言っていて、施設も見に行ったりしていましたが、ちょっとそれを売りにしているのかなと思うところもあります。首相就任後、2025年臨時国会の所信表明にも女性の健康問題は入れていたので、多分それはやると思います。女性なのに女性のことを何もやらないといわれるのも嫌でしょうから、でもその他はあまり積極的にやらないでしょうね。
選択的夫婦別姓(注8)なんて絶対やらないし。そういう意味では期待できない。高市さんは右派層のアイドルですから。右派層は、基本的に家父長型の社会を守りたいと思うので、専業主婦が理想的で、働くにしても女性は短時間、決して家族に迷惑をかけてはいけません、子供は3歳ぐらいになるまで自分の手で育てなければいけませんという価値観の人たちが多く、そういう層に支えられている。それを高市さんは重々わかっていると思うので、それを壊すようなことはしないと思います。
平山 でも高市さん自身はその家のモデルは全然できないですよね、なにしろ「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」(注9)ですから。
佐藤 ああ、そうですよね。ご自身は違いますよね。
平山 自分は違うんですね。保守層のなかには若い人もいるんでしょうか?
佐藤 若い人の保守化傾向はこの数年、よく言われていますね。
平山 でも保守が理想としている専業主婦なんてとても望めないですよね、この経済状況では。
佐藤 そうですね。そういう意味では男女でいうと、高市さんはやはり男性の支持者が多かったですが、最近は男女の支持の差はほとんどなくなってきています。
平山 選挙期間中のテレビを見ていると、参政党の演説に来てインタビューに答えているのは若い主婦だったりもしますね。YouTubeとか見ていいと思ったのかもしれませんが。
佐藤 生活が苦しくなっているのでイデオロギーよりも、積極財政で減税してくれそうだとか、若い人たちの手取りを増やすことに熱心だとか、そういうところで支持を集めているんですよね。2025年参院選の参政党のビラなんて経済対策が一番上に来て、イデオロギーは下の方なんですよ。そこ、すごく意識してやっていると思います。左右問題でもあり上下問題でもあって、所得の低い人たち、困っている人たちがなんとかしてほしいということで保守的なところと結びついていますね。従来の保守、リベラルでいうと本当は違うんですけど。
平山 そうですよね。
佐藤 逆なんですよ。逆転現象が起こっている。
平山 若い人からすると、左翼は有名人が多い、成功している人が多い、そういう人たちが富を独占しているイメージがあるみたいですね。退職金も年金もたくさんもらえて勝ち逃げしていると。しかも、左翼は小難しい基礎教養を求められたりして排他的だけど、保守は誰でもウェルカムであたたかい。
佐藤 それ、アメリカと似てますよね。
平山 そうですね。
佐藤 民主党は米国の西海岸と東海岸の人たちの支持者が多い。中西部の人たちは共和党支持が多く、ましてやラストベルト(注10)は政策的に忘れられた人々という意識が高く、共和党支持、中でもトランプ支持が強いですよね。
平山 同じですね。いっそ有名人が前に出て言わない方がいいとすら思ってしまいます。逆に若者の反感を煽る気がしますね。
佐藤 なるほど。だからフェミニズムも「女性の権利ばかりを主張する、家族を大事にしない、小難しいことを言う許しがたい人たち」というふうに見られちゃう。
平山 同じかもしれません。
著書を出したきっかけでフェミニスト経済学を学ぶ
佐藤 2022年に『オッサンの壁』という本を出したらいろんな講演に呼ばれるようになり、私は政治記者で専門家ではないですが、もともと関心もあったのでちゃんと勉強しようと思い、研究者に指導を仰いでコツコツと勉強しています。
平山 そうなんですね。
佐藤 フェミニスト経済学という分野がありますが、経済学の歴史の中で無視されてきた無償ケア労働などにもちゃんと光を当てて全体としてウェル・ビーイングをどう実現していくか、数字だけじゃない、もうちょっと生き方全般に光を当てるような経済学なんです。毎年各国で国際学会をやっていて、2025年はボストンで開かれました。そこではアカデミアの人たちのすごく面白い議論が聞けるんです。
さっき言ったナンシー・フレイザーも、2025年東大、京大で講義や講演をしていました。知人から聞いた話だと、ナンシー・フレイザーはドイツの大学に行こうとしたんだけど、ドイツは過去の歴史的経緯から親イスラエル的なので、ガザをめぐる意見の違いから、うまくいかなかったようです。それを知った日本の研究者たちが東京に呼んで、それで東大や京大で講義や講演をしたらしいです。
平山 いい話ですね。
佐藤 私が指導していただいている、埼玉大の非正規労働などに関する研究で有名な金井郁教授は、フェミニスト経済学の関係でもたくさん本を出されています。近著では、お茶の水女子大学の申琪榮(シン・キヨン)教授というジェンダー研究で有名な先生との共著の、『「生保レディ」の現代史―保険大国の形成とジェンダー』(名古屋大学出版会)という生保レディに関する本があります。
平山 ああ、そこにメスを! 面白そうですね。
日本における政治評論の特異性
平山 昭和100年の年に渡辺恒雄さんが亡くなりましたが、政界のフィクサーとして、またいわゆる「メディア王」的存在として君臨していたイメージですが、何かご見解はありますでしょうか。
佐藤 とくにないですね。会ったこともないですし。
平山 そうですか(笑)。
佐藤 ナベツネさんはずっと政治記者で『派閥』という本を書かれていますが、取材対象の政治家に密着して食い込んで、そういう意味では非常に優秀な記者でした。途中からフィクサー的になっていって、最終的には読売の主筆として最大部数を誇る読売新聞のドンとして、時々の政権に影響力を及ぼす存在になった。優秀な記者ですが、政権との距離感が近くなりすぎたことへの批判もありますよね。とくに中曽根(康弘)さんとは非常に懇意でした。
平山 なるほど。わたしが苦手なタイプだ。政治評論家の男性で、いつも「誰と誰が会食した席でその話題が出て」とか「誰が裏で根回しして」とかそんな話ばっかりしている人いますよね。そんなのどうでもいいんですけど、と思いながらいつも観ているんですけども。もちろんそういう中で政治が動いている面はあるんでしょうけど、人間関係とか派閥のことばっかり言ってる政治評論家は本当に苦手です。
佐藤 日本の政治取材にはそういう批判があります。政策よりも政局重視で、ほとんどの情報が「誰と誰が仲が良い」とか「誰々が何をした」で、大局的にものを見るとか、今起こっていることがどういう意味を持つのかを考察する機能が日本の政治報道は弱いと言われています。それよりも、いかに政党幹部とか権力側の人たちに食い込んで、彼らが何を考えているかという一次情報を引っぱってくるところに注力している。それができる記者が優秀な記者だという価値観で、政治報道もそうなっていく。ナベツネさんもそういう環境の中で偉くなったという側面もあるのかもしれませんね。
平山 そうか、昔からそうだったんですね。
佐藤 結局日本の政治は世界に大きな影響を及ぼすわけではないし、自民党があまりにも長期政権を担ってきたので、自民党の中の人間関係とか、党内で誰が力を持っているかとか、力を持っている人が何を考えているかを取材することで事足りるという風に思われてきたということなんでしょうかね。
平山 すごく内輪ですよね。
佐藤 野党があまりにも弱いということもありますよね。政策とか予算案だって、まあ今は少数与党で変わってきていますけども、原案がほとんど修正のないままに通っていくわけでしょう。国会の議論だって、最初から結論が見えていて、ある種「茶番」というか「歌舞伎」なわけですよね。権力者の誰が何を考えているかが全てみたいな報道がずっと続いてきたということだと思いますね。また、なぜか、そういう情報が求められるんですよね。マスメディア側が求められていると思っているだけかもしれないですけど。
注1 クオータ制 quota system。議会や企業の役員、管理職などの席や候補者枠に対して、女性や少数派など特定の集団の代表を一定の割合で確保することを事前に定める制度のこと。歴史的、構造的な不平等を是正するポジティブ・アクションの一形態。現在、世界120の国と地域で何らかの政治的クオータ制が導入されている。
注2 パリテ法 parité。選挙において男女の候補者がより均等に含まれるよう義務づけることを目的とした2000年6月6日に制定された法律。政党が地方議会や欧州議会などの選挙で提出する候補者リストに男性と女性をほぼ同数にすることを要求したり、記載順を交互にするなどの規定がある。守らない場合には政党助成金の減額などの罰則も設けられており、政治分野における男女の代表性を高めることを狙いとしている。
注3 ガラスの天井 glass ceiling。組織や職場の階層の上位に進もうとする際に、性別や人種などを理由に高い地位や管理職へ昇進しにくくなる"見えない障壁"を指す比喩表現。能力や実績があっても透明な壁のような制約によって上級ポジションへの到達が阻まれるという意味合いで使われる。
注4 サッチャー元首相 Margaret Thatcher。1925-2013年。イギリスの保守党の政治家で、1979~1990年まで首相を務めた先進国初の女性。20世紀のイギリスで最長期間務めた首相の一人でもある。国家の役割を縮小し市場原理を重視する政策(いわゆる「サッチャリズム」)を推進し、経済の規制緩和や民営化を進め、その強硬で妥協しない政治スタイルから「鉄の女(Iron Lady)」の異名もあった。
注5 メローニ首相 Giorgia Meloni。1977年-。右派・国民保守系政党「イタリアの兄弟(Fratelli d'Italia)」を設立し、2022年10月から首相を務めるイタリア初の女性の首相。15歳で極右政治団体「イタリア社会運動(MSI)」の青年組織に参加し、19歳で民族主義の「国民同盟(AN)」学生組織の全国責任者に就任するなどその思想が取りざたされるが、自身は現代的な国家主義や伝統的価値観を主張している。
注6 メルケル元首相 Angela Merke。1954年-。保守系政党「キリスト教民主同盟(CDU)」の政治家で2005~2021年まで首相(連邦首相)を務めたドイツ初の女性首相。物理学の博士号を持っていたが、東西ドイツ統一後に政治の世界へ進出。ドイツ国内外の政治・経済の課題に対処しながら、欧州連合(EU)において調整役として重要な役割を果たした。
注7 ガラスの崖 組織が危機や業績低迷など困難な状況にあるときに、女性や少数派の人が高リスクな指導的地位に就きやすい傾向を指す概念。成功が見込めない、または失敗した場合に非難が大きいような場面でリーダーに抜擢されることが多く、結果として評価や後のキャリアに悪影響を及ぼす可能性があるとされる。
注8 選択的夫婦別姓 結婚した夫婦が望む場合に、結婚後もそれぞれ結婚前の姓をそのまま名乗ることを選べる制度のこと。現行の日本の民法では、結婚すると夫婦は同じ姓を名乗らなければならないが、選択的夫婦別姓が導入されれば、夫婦同士で姓を揃えるか別々にするかを自由に選べるようになる。選択肢が増えるだけで同一にしたい人はそのままでもいいにもかかわらず、家族のきずなを弱める、子どもが混乱するなどの理由で反対する声もあり、30年近く議論されているがいまだに成立していない。
注9 「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」 10月の自民党総裁選で選出された高市首相が語った言葉。2025年「新語・流行語大賞」の年間大賞に選ばれた。同じときに「ワーク・ライフ・バランスという言葉を捨てる」「(議員らには)全員に馬車馬のように働いてもらう」とも発言し、コンプライアンス重視の時代に逆行する姿勢に疑問の声も上がった。
注10 ラストベルト Rust Belt。アメリカ北東部から中西部にまたがる地域で、かつては鉄鋼・自動車・重工業などの製造業が経済の中心だったが、20世紀後半に産業縮小が進み、経済的な衰退や人口減少が顕著になった地域の通称。「さび(rust)」のように主要産業が衰えていったことに由来し、産業衰退が地域社会に残した影響を示す用語としても用いられる。
【対談ゲスト】佐藤千矢子(さとう・ちやこ)
1965年生まれ、愛知県出身。名古屋大学文学部卒業。1987年毎日新聞社に入社し、長野支局、政治部、大阪社会部、外信部を経て、2001年10月から3年半、ワシントン特派員。米国では、米同時多発テロ後のアフガニスタン紛争、イラク戦争、米大統領選を取材した。政治部副部長、編集委員を経て、2013年から論説委員として安全保障法制などを担当。2017年に全国紙で女性として初めて政治部長に就いた。その後、大阪本社編集局次長、論説副委員長、東京本社編集編成局総務を経て、現在、専門編集委員。著書に『オッサンの壁』(講談社現代新書)。
