第十回 事件の表に女あり(後編) 対談ゲスト:高橋ユキさん(ジャーナリスト)
【対談ゲスト:高橋ユキさん(ジャーナリスト)】
事件にも多様性の波
高 昨今、事件にも性の多様性が反映されていて、被害者の恋愛対象が同性だとかそういう事件も珍しくなくなっています。また2015年2月に同棲相手の男性を殺害した元男性(注1)の場合は、性別適合手術を受けていて女性ホルモン剤の服用を求めていましたが、拘置所や刑務所ではこれが認められず国賠訴訟を起こしていました。時代の変化に応じて刑事施設側が対応を考えていかないといけないケースがあるなと思います。
平 そういえば、声優のアイコを名乗る容疑者による「連続昏睡強盗事件」(注2)もありましたよね。
高 公判で突然4歳児になったりして、多重人格を主張していました。
平 女性として生まれたけど手術をして改名して男性として暮らしてた。でも女装することもある。さらに獄中で出産した。そして多重人格。難しいですよね。その場合、考慮されるのかな。
高 私が見てきた裁判で、多重人格が認められた例は記憶にないです。この事件も判決は懲役10年になっていて、多重人格は認められてないですね。
平 今までにも別人格を主張する人はいました?
高 多重人格だったとして解離性同一性障害を主張する人いますね。対する被害者の場合は、辛い経験をしたために事件の記憶が欠落しているということがあります。
平 過酷な環境があって発症するという話は聞きますね。
高 近年の事件で多重人格がクローズアップされたのは「すすきのホテル殺人事件」(注3)ですね。殺人を犯した娘について両親が「多重人格のような状態だった」と主張しています。
平 あの事件は新時代がきたなって思います。ここまで親子が一蓮托生になるなんて。
高 お母さんは死体遺棄・損壊のほう助。お父さんはこれに加えて殺人もほう助したとして起訴されています。両親とも娘が人を殺害してその頭を持って帰ってくるなんて全然知らなかったっていう主張です。
平 うーん。頭はお風呂場に置いてたし動画を撮ってくれって娘に頼まれてたし、受け入れている感じはあったけど。
高 そうなんです。一審では死体遺棄・損壊のほう助は認められて有罪になってるんですけど。でも、娘が殺すと思わなかったというお父さんの主張は認められて、殺人ほう助は有罪にはなってないんですよね。だからすごく刑が軽くなっている。
平 お父さんが精神科の先生ということは考慮されないのかな。
高 そこは別になかったですね。ただ法廷では、娘がいろんな人格を持っていたと語ってました。でも積極的に治療に向けて動いたりしてなかったから、個人的にはそこに一番もやもやしてます。
平 そうですよね、責任って意味ではあると思うんだけどね。
そう考えると、「紀州のドン・ファン事件」(注4)は旧時代って感じですよね。
高 そうそうそう。ドン・ファンの存在自体がすごく昭和。何人女を抱いたとか、やっぱり数で。
平 あ、そうね、数。
高 やっぱり金=モテなんだなって。紀州のドン・ファンという名前自体がもう。「ラストダンス事件」と同じぐらいすごいネーミングですよね。
平 でも本人が言ったわけじゃないんですよね。多分マスコミがつけたんですよね。
高 マスコミが付けたんだと思います。記事のタイトルとかも「ドン・ファン事件」ってなんの事件だよって略しすぎだろっていう。
平 でもみんなピンとくるっていうね。ここまでじゃないにしろ地方の謎の金持ちオジサンみたいなのが全国にいるのかなと思ったりして。
高 いそうじゃないですか? 和歌山だけじゃなくて。
平 いろんなところにドン・ファンがいて、後妻業的な問題があったりするのかも。ドン・ファンはもともと覚せい剤を嗜んでいたんですかね? そういう説があったじゃないですか。
高 元奥さんはそう取れるような主張をしていましたね、覚醒剤購入をドン・ファンに頼まれたと。和歌山地裁の一審では元奥さんは無罪になりました。空白の時間があって、それを埋めるだけの情報がない。珍しいんですけど、違法薬物の売人が2人出てきて証言してました。そのうちの1人が客に氷砂糖を渡したって証言していて、それもあながち否定はできないみたいなことだったと思います。
平 1人はちゃんと売ったと?
高 売ったと言っているんですけどね。チームでビジネスパートナーとしてやってたみたいで。初めての客だからヌンチャクを持って行ったとか、信じられない話がどんどん出てきて。何それ?って(笑)。〝叩き〟かも知れないからヌンチャク持って氷砂糖を入れたって。
平 ああ、なるほどね。彼らなりのリスクヘッジで。「紀州のドン・ファン」は昭和な事件だなぁって思いましたね。
高 あんなおじさんはあと十年、二十年するといなくなっちゃうのかな。
平 いなくなると思うな(笑)。逆に新時代の事件といえば、SNSで募集した死にたい人の自殺ほう助とか嘱託殺人というものもありましたね。例えば「座間9人殺害事件」(注5)。とうとう死刑が執行されましたね。
高 一審東京地裁立川支部で死刑が言い渡されたのが20年の12月。弁護人が控訴を申し立てていましたが本人が取り下げて翌年1月に確定してました。そこから4年で執行なので、少し早いなという印象です。
平 これも自殺ほう助なのかな。
高 いや、殺人です。これは本人も認めてました。減刑を求める弁護人の方針と相容れなくて弁護人の質問に全然答えないとか謎なムーブをかましてました。でもこのあたりから自殺志願者っていう存在が事件に出て来ることが珍しくなくなってきた。最近も多いですよね。
平 多い。でも死人に口無しですよね。被害者が死にたがっていたって証拠がない。
高 そうなんですよ。
平 本当に死にたがってたとしてもいざとなったら嫌だっていう可能性もありますしね。いろいろ謎の事件でしたね。アイスボックスに遺体を入れて部屋に置いてたり。
高 「すすきのホテル殺人事件」は検察の見立てでは、娘は被害者の遺体をバラバラにしてホテルから全部持ち出す予定だったようなんです。犯行の様子を娘が全部ビデオに録画しているんですけど、スーツケースに入れようとしていたらしくて。運搬のためのバラバラだったと主張していました。
平 でも、実際に持ち去ったのは頭部だけだったんですか。
高 そうそう。最初は浴室の中で被害者の首を切断して、頭は出せたけど胴体が重くてどうしても出せない、スーツケースに入れられないから浮力で浮かそうとして(浴槽に)お湯を溜め始める。引っ張ろうとしてもやっぱり無理でハアハア息を上げてる様子がずっと録画されているんですって。その様子を検察官が読み上げていて。「何分何秒、〇〇のシーン」とかって。それでも十分怖いよって。
平 ええ! 被害者の家族とか一切出てこなかったですよね。
高 裁判では奥さんや息子さんたちの調書が読み上げられてました。
平 被害者は出張か何かで札幌に行ってたんですかね。
高 いや、奥さんの調書によれば、被害者は女装が好きで、イベントがあるときだけススキノに一人で行って泊まって帰って来るなんてことはあったらしいです。
平 なるほど。趣味の遠征か。
高 〝私は夫の女装が好きではありませんでしたが、思い出すのは女装姿の夫の姿です〟って。家族公認だったことがわかりました。そこもやっぱり多様性の一つなのかなって。
平 まあ女装だけなら趣味の話ですしね。
高 そうそう。娘の裁判はこれからなんですけど、どれだけ自分の言葉で伝えられるかってところですよね。本当になにがあったのかは彼女しか語れないから。
平 まだ始まってないんですか?
高 そうなんですよ。両親によるといろんな人格が入り込んでどうのこうのっていうので。
平 ちょっと鑑定に時間がかかってる感じなんですかね。
高 そうそう。
平 裁判が始まらないとなんとも言えないですよね。
昭和100年の象徴的事件
平 昭和100年で一番印象的な事件ってなんだろう。強烈だったのはオウム事件(注6)。オウムとか、阿部定事件(注7)とか。
高 そうですね。阿部定は語り継がれる事件になってますね。インターネットもない時代にあれだけ社会現象になったっていう理由は今でもわかりますもんね。
平 うん。やっぱり女性が男性の局部を切ったっていうのと、捕まった時の彼女の写真が笑っていたのが大きかった。よく笑ってる容疑者がいるけど、あれは「こんなにマスコミが来るとは思わなかった」って思ってつい笑っちゃうらしいです。でも、写真を見た人は「本当に鬼のようだ」って(笑)。
高 「悪魔のようだった」って。
平 でも、彼女は出所してバーをやったり映画に出たりしてる。
高 すごいですよね。
平 これも一種の多様性かも。
高 いい意味でも悪い意味でも。そうですね。「8050問題」(注8)とか最近は言われますが、一般論として長く引きこもっている子供さんと同居を続けている高齢のご両親のなかには、きっと引きこもりが恥だとか考えていて周囲に相談できない方もいるんじゃないかと想像するんですが、多様性の時代なので周囲に助けを求めた方がいいと私は思います。
平 確かに。でも難しいですね。親としては戸塚ヨットスクールじゃないけどもうなんでもいいから家から出ていってほしいみたいなこともあったりして。それこそ姥捨ならぬ子捨みたいな感じで、やばい業者って分かっててもとにかくお金で解決したい、みたいなパターンもあるみたいで。
高 世知辛い。
平 本当に世知辛い。「骨肉保険金殺人」と問題はあまり変わって無いような気はしますね。この時だって長男がいらなくなって殺されて。
高 家族の中の感覚って意外と変わってないなって思いますね。やっぱり情状証人とかで出てくる家族も、息子が犯罪を犯したって時に出てくるお父さんなんかも甘いんですよね。「息子のために田舎に引っ越して、もう再犯はないと信じている」とか、2回も3回も逮捕されているような息子に。さすがに甘すぎだろって。
平 甘すぎる。根拠もないのに。
高 その息子は長男なんです。かたや次男からはその父親も、長男も絶縁されていたりするんですよ。お父さんの中で長男と次男の扱いに差があるんだろうなと分かる感じで、まだ長男信仰みたいなのってあるんだと思って苦々しく見ていたりするんですけど。
平 そういうプレッシャーが本人は嫌だっていうのもあるかもしれないですよね。
高 本当にそれは思いますよね。何でオレだけがって。親としては家にいてもらって、あわよくば自分らの介護をしてもらおうっていう判断もあるわけですよね。共依存っていうところもあるのかな。
平 根深いですね。まあでも今後は、多様性が激しくなっていくのは間違いない気がします。
高 そうですね。最近は闇バイト系(注9)とかトクリュウ(注10)とか金目当ての犯罪がメインになってますけど。
平 あれ、世代の断絶の事件じゃないですか。被害者がお金を持ってる高齢者で、加害者はお金を持ってない若者で、高齢者からは盗ってもいいんだみたいな洗脳があったりしたという話もあって。高齢者が増えて若者が減っていることが犯罪に影響することは今後ありそうですよね。
高 そうですね。高齢者は高度経済成長期の恩恵を受けた最後の世代だって若者たちは肌感覚で思っているだろうから、自分たちが味わえない思いを味わった奴らからは盗っていいんだ、なんて思ってる場合もあるでしょうし、むしろそういう親世代の中で、ずっと仕事をせずに引きこもって暮らしてる子供が50代になって親に殺される事件もあったりしますよね。プラス、親がもうすぐ死ぬからというので子供の自立のためにアクションを起こしたら逆に殺されるとか。これからもっと増えるんじゃないのかなって思っちゃいますね。
平 うんうん。あとは消極的な犯罪だけど、親が亡くなっているのに遺体をそのままにして年金をもらい続けているとか。
高 景気が悪くなってからの定番ですね。(遺体と)何年も一緒に暮らしてたりするんですよね。「葬儀をあげる気が起きなかった」なんて書かれてるのを読むと「年金目的なんじゃないの」って思っちゃいますよね。実際に何年も亡くなった親の年金を受給し続けてたりするんです。
平 社会に出ていないとお葬式の上げ方もわからないし、誰に頼って良いかもわからない。年金目的もありつつ、どうしたら良いのかわからないまま時間が経っていくみたいな。
高 あと地方は長男信仰がまだ強いじゃないですか。なんだかんだ長男に甘い。ウチも九州だったからそうなんですけど、たとえば弟は浪人してもいいけど女は浪人するなとかそういう親だったりしたんですよね。だから娘は早々に自立する空気がある。うまく仕事にありつけなかったとか、途中でドロップアウトして実家に戻っちゃった長男を見放すことが出来ずにずっと面倒見ちゃう親がいるのかなって。両者の利害が一致してるんじゃないかな。息子は息子で便利でいい暮らしを続けたい、親は親で恥ずかしいから隠したい、家にずっといてほしい、みたいに。娘だったらもっと厳しく追い出しそうな気がする。
平 そうか、女性の方が早く自立する理由のひとつになってるのか。なるほどねえ。
100年のキーワードは、世代の断絶と多様性
平 というわけで、「女100年の事件」のまとめは難しいんですけど(笑)。
高 難しいですね。
平 この100年で大きく変わったのはやはりジェンダー観でしょうかね。男性のあり方、女性のあり方が変わってきて、男性でも女性でもない人も認知されてきた。それに引きずられて恋愛観、家族観も変わっていった。ただ、男性の縦社会、女性の横社会はまだ少し残ってる気がしますね。これは社会システムの問題が大きいから変わるには時間がかかりそう。これからの100年のキーワードは、世代の断絶と多様性でしょうか。
高 そうですね。社会の変化に応じた事件っていうのは必ずありますね。今回、ジェンダー的な観点から事件の歴史を見ていったことから、その面での変化を感じましたが、個人的には技術の進化によるツールの変化なども気にしてしまいます。たとえば広域強盗では、実行役と指示役が連絡を取り合う際に特定のメッセージアプリを使うことで、なかなか指示役まで辿り着けない実態がある。そんな状況が100年後はどう変わっているのか。気になります。その頃はもうこの世にいないので、永遠に謎ですが......。
平 今いる人たちは100年後にはほぼいませんからね。いずれにしてもみんなが生きやすい社会になるといいですね。ありがとうございました。
注1 別れ話がこじれて同棲していた男性を殺害した容疑者 2015年2月に同棲相手を金属バットや牛刀で襲って殺害した加害者は性同一性障害を持っていた元男性。20歳のときに性別適合手術を受け、戸籍を女性に変更して名前も変えていた。継続的な女性ホルモンの投与が必要だったが、病気ではないとの理由で刑務所では摂取できず。翌年、ホルモン剤の投与をしないことは違法であるとして国を相手取り裁判を起こしたが敗訴した。
注2「連続昏睡強盗事件」 2013年~14年に複数の男性に睡眠薬を混ぜた酒などを飲ませて現金や腕時計を奪った事件。加害者は女性として生まれたが、性別違和で乳房切除手術を受けて男性として生活。犯行時は女装していた。本人は解離性同一性障害を主張し、犯行は「声優のアイコ」が行ったといい、法廷で4歳児の「ゲンキ君」人格が「お姉ちゃんは悪くない!」と叫ぶ一幕も。拘置所で女児を出産した際「父親になった」と思ったという。なお、判決は懲役10年。
注3「すすきのホテル殺人事件」 2023年7月2日、すすきののラブホテルで男性を殺害、頭部を持ち去った事件。最初は被害者が女性と報道されたが女装していたことが判明。加害者は地元に住む29歳女性で、面識のあった男性とクラブイベントで落ち合い、ホテルにチェックイン。背後から首元を複数回刺し、殺害後に遺体の頭部や携帯電話などを持ち去った。さらに翌日、頭部から皮膚を剥ぎ取り、左右の眼球、舌および食道気管を摘出し、その様子を父親に録画させた。家族ぐるみの凄惨な事件として話題を呼んだ。
注4「紀州のドン・ファン事件」 2018年5月24日、和歌山県の資産家で77歳男性が急性覚醒剤中毒で死亡した事件。当時25歳の若妻が殺人容疑で逮捕されたが嫌疑不十分で不起訴となった(現在、遺族が最高裁に上告中)。被害者は「紀州のドン・ファン」を自称しており、美女4000人に30億円を貢いだと豪語。2016年には27歳女性に計6000万円を盗まれたが「自分にとっては紙くず」などと発言して話題となっていた。
注5「座間9人殺害事件」 2017年8月から10月末にかけて実行された神奈川県座間市における男女9人殺人事件。加害者はSNSなどで自殺をほのめかして知り合った自殺志願者に性的暴行を加え、殺害して金を奪い、遺体をバラバラにして遺棄したりクーラーボックスに隠していた。2020年に死刑判決が下り、2025年6月27日に刑が執行された。
注6 オウム事件 1980年代末から90年代半ばにかけて新興宗教団体「オウム真理教」が起こした一連の事件の総称。おもには、教団と対立する弁護士一家を殺害した「坂本弁護士一家殺害事件」(1989年11月)、教団支部立ち退き訴訟を担当した判事の殺害を目的に神経ガスのサリンを散布し7人を殺害、数百人が負傷した「松本サリン事件」(1994年6月)、教団への捜査の攪乱を目的に地下鉄車輌にサリンを散布、12人を殺害、数千人が負傷した「地下鉄サリン事件」(1995年3月)があるが、信者や脱退希望者を殺傷したり、資金を強奪するなど、わかっているだけで50近い事件を起こしている。なお、13人の死刑が執行されている。
注7 阿部定事件 1936年5月18日に東京市荒川区尾久の待合で局部が切り取られた男性の絞殺遺体が発見された事件。加害者の阿部定は当時30歳の女中、被害者は住み込み先の小料理屋主人である。事件の際、定は尾久の待合で被害者に頼まれて性交中に首を絞めていたが、寝ている間にもう一度締めてほしい、殺すなら途中で止めるなと言われ、実行。殺害後に局部を切り取り、シーツに血で「定吉二人キリ」と書いて出奔した。猟奇事件としてマスコミに騒がれたが2日後に逮捕。初公判は傍聴希望者が深夜から殺到するなど異常な加熱ぶりを見せた。刑期は6年だったが恩赦などもあり1941年に出所。偽名で生活し、結婚もしていたが離婚。1949年ごろには事件の主役として地方を巡業したり、大衆割烹で店の呼び物になったりした。また出資者が現れ、バーやおにぎり屋を開店したこともあった。1969年製作の映画『明治・大正・昭和 猟奇女犯罪史』に63歳で出演。以降、さまざまな噂はあったが消息は不明のまま。
注8 8050問題 80代の親と50代の子どもの親子問題を総称した言葉で、コミュニティ・ソーシャルワーカーの勝部麗子が名付けた。50代はポスト団塊ジュニアであると同時にバブル崩壊後の就職氷河期世代でもあり、就職や転職に失敗して引きこもっている者も多い。世帯収入は親の年金のみで、親も子も福祉に繋がれず、貧困、孤立死、遺体遺棄、年金不正受給などさまざまな問題を引き起こしている。今後は「9060問題」に発展するとの予想もある。
注9 闇バイト系 SNSなどで「日給10万円」「受け取るだけ」など極端に条件のいいバイト募集をかけ、特殊詐欺の受け子(金を受け取る役)、出し子(ATMなどで金を引き出す役)、掛け子(電話をかける役)、密輸品の運搬、犯罪に用いる携帯電話や銀行口座の契約、強盗などの実行犯役など、犯罪の片棒を担がせる仕事のこと。身分証を提出させて離脱しようとすると脅迫し強制的に従事させるといわれている。
注10 トクリュウ 匿名・流動型犯罪グループの略で「SNSを通じて募集する闇バイトなど緩やかな結びつきで離合集散を繰り返す集団」のこと。2022年から2023年にかけて全国で発生した「ルフィ広域強盗事件」をはじめ、近年急速に増加している。拠点をアジアなどに置き、遠隔で指示するパターンも多い。また、投資詐欺、ロマンス詐欺、インターネットバンキングの不正送金、クレジットカードの不正利用に関与しているとみられている。
【対談ゲスト】高橋ユキ(たかはし・ゆき)
1974年生まれ、福岡県出身。2005年、女性4人で構成された裁判傍聴グループ「霞っ子クラブ」を結成。殺人等の刑事事件を中心に裁判傍聴記を雑誌、書籍等に発表。現在はフリーライターとして、裁判傍聴のほか、様々なメディアで活躍中。
著書に、「霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記」(新潮社)、「霞っ子クラブの裁判傍聴入門」(宝島社)、「あなたが猟奇殺人犯を裁く日」(扶桑社)(以上、霞っ子クラブ名義)、「木嶋佳苗 危険な愛の奥義」(徳間書店)、「つけびの村 噂が5人を殺したのか?」(晶文社)ほか。Web「東洋経済オンライン」「Wezzy」等にて連載中。