WEB本の雑誌

10月19日(木)

 10月24日取次店搬入の新刊『沢野字の謎』の見本が出来上がったので、すぐさま取次店へ持っていく。それにしても和田誠さんの装丁が素晴らしい。是非、購入された方は、カバーをむしり取って中を見て欲しいと思う。

 御茶ノ水駅に着いて、改札で清算しようとしたら…。
 財布がない。
 カバンやポケットのどこを捜しても見つからない。一昨年、一年間に財布を3回なくしている僕にとっては、かなり冷や汗な状態。また、やってしまったのか…。

 朝、家を出るときは確かに持っていたはずだった。今日は「Number」のサッカー特集の発売日だから、キオスクで購入したし、お昼も隣のファミリーマートでお弁当を買った。もしやどこかに落としてしまったのか、それともスラれたのか。最後の望みの綱…、会社に電話を入れる。

「もしもし、杉江だけど、もしかして、僕の机の辺りに財布がない?」
動揺を隠すために、なるべく事務的に、そしてぶっきらぼうに言ったつもりだったが、電話に出た営業事務の浜田は成り行きがわかったようで、薄ら笑いで返事をする。わざとらしく電話を保留にせずに、探しに行きやがる。
 数秒の時間をおいて、電話口の向こうから大爆笑。
「杉江さんが、財布を忘れて営業に出ているよー、ギャハハハ。」
余計なことは言わなくていいんだ!!

 とりあえず、落としたりしてなくて良かったと安堵したが、さて困った。財布がないと駅から外へ出られない。しかし、見本出しは今日中にしなくてはならない。どうしたものかと考えていると、今日はたまたま荷物が多いために、助っ人の塩崎さんも同行してもらっていたことを思い出す。彼女に立て替えてもらうしか解決策はない。でも、財布を会社に忘れてきたなんて、若干二十歳の女の子に打ち明けるのは、愛を告白するのよりも恥ずかしい。インチキなサラリーマンにだって、社会人としてのプライドがある。しかし、仕事を完遂しなくては…。社会人はつらいなあ。

 御茶ノ水のホームで、まるで結婚の了承を得に彼女の父親に会いに行くような一世一代の想いで、塩崎さんに事の顛末を伝える。モジモジ。

「あのー、財布をね…、会社にね…、忘れちゃって…。」
「あっ、そうですか、じゃあ私が立て替えればいいんですね!」

 何だかあっさりし過ぎて、肩すかし。もう少し、困った顔とか、引っ張ってくれてもいいんじゃないか?妙に淋しい気持ちになったが、とにかくお金を借りて仕事を続けた。
 とにかく、ありがとう塩崎さん。