WEB本の雑誌

11月7日(火)

 某書店さんで聞いた話。

 ある日、お客さんから書籍の問い合わせがあった。それはつい最近出たばかりの新刊で、かなりパブリシティのかけられている本だったので、しっかり平積みしてあった。すぐそのお客さんを案内し、その本を渡した。ところがそのお客さんは何だか納得しない様子で、
「積んであるのはここだけか?」と不思議なことを聞いてきたらしい。
 そのお店では、メインの新刊台とその本のジャンルにあたる新刊台の2カ所に積んであった。そのことをお客さんに説明すると、いきなり
「他のお店では、何面も積んでいるのに、ここはその2カ所だけか!」
そして続いて出てきた言葉。
「私は○○出版社(その本の発行している大手版元)の取締役だ。」

 この話を聞いて僕は開いた口が塞がらなかった。そして怒りに打ち震えた。こういうバカ者が、この業界に存在していることに悲しくなった。ほんとに大バカ野郎だ。
 自社の本が思い通りに並ばないのは、その書店さんのせいではない。まず、企画、そして営業の力だ。両方とも責任は出版社にあり、書店さんにはまったくない。多面積みを望むのであれば、書店さんがそれだけ売れると思う魅力のある本を作らなければならない。または、それだけ売りたいと思わせる営業をかけなければならない。
 どの本を、どのようにして売るか、それは書店さんの自由。平台も棚も書店さんがプライドをかけて並べている。委託や延勘といった書籍に対しては伝票上の所有権はあるけれど、棚は書店さんのものである。出版社はその棚を借りて商売していると僕は考えている。むやみやたらに、へりくだることはないけれど、最終的な決定権は絶対に書店さんにあると思う。この大バカな版元取締役は、文句があるならば自社の社員を好きなだけ怒鳴ればいい。そして社員教育すればいいのだ。まあ、それで多面積みになるとは思えないけど。とにかく、書店さんに文句をつけるなんてお門違いもいいところ。

 僕から見てその書店員さんはかなりデキル人である。棚構成も平台の作り方も、本の知識も接客態度も、また出版社とのパイプも、どれをとっても尊敬に値する、素晴らしい書店員さんだ。そんな書店員さんの大切な時間を奪うこと、そしてきっと何日間かを嫌な気分にさせたであろう、そんな権限なんて誰にもないはずだ。むやみやたらに立場を利用して、威張る最低で下劣な人間の見本。ほんとに腹が立って、むかついてしまった。こんな大バカ者は、自社の在庫にでも埋もれていればいいんだ!

 ああ、ほんと腹が立つなあ。

 もしうちの上司がこんなことをしたら、僕はすぐさま辞表を顔面に叩きつけ、ケリ跳ばして会社を辞める。なぜなら、この横柄な態度には本への愛情も、本に関わる様々なことへの愛情もまったくないに等しいからだ。そんなところで働くほど僕は、会社に心を売っていない。

 しかし、我が社の目黒考二や椎名誠にその心配をすることもないだろう。心配すること自体失礼か。本が好きで好きでしょうがないから、『本の雑誌』を作っているんだろう。そのプライドだけで僕は働いているといっても言い過ぎではないと思う。